6年目の大ブレークだ。
 四国アイランドリーグ・高知ファイティングドッグス出身の角中勝也(千葉ロッテ)が、激しい上位争いを繰り広げるチームに欠かせない存在になっている。今季は開幕こそ2軍だったが、5月以降はクリーンアップ(5番)に定着。交流戦で打ちまくり、打率.349で首位打者に輝いた。その後もコンスタントに打ち続け、9月3日現在、打率.299(リーグ5位)、3本塁打、48打点。得点圏打率はチームトップの.325でロッテが混戦を制するには、彼のバットがカギを握っていると言っても過言ではない。大きな飛躍を遂げた25歳に二宮清純がインタビューを行った。
 きっかけは長嶋コーチの助言

二宮: 今季は7月1日に首位打者に躍り出るなど、プロ入り6年目で一番充実したシーズンになっているのではないでしょうか。昨季までとの違いは?
角中: 打席の中でピッチャーとのタイミングがとれるようになったことですね。意識してタイミングがとれるようになったのが一番の違いだと思います。

二宮: タイミングをとる上で、具体的に変えたことはありますか?
角中: 準備を早くすることですね。ピッチャーがリリースした瞬間には、いつ、どんな球が来てもいいようにしておく。言葉にするのは難しいですが、イメージとしては、リリースのタイミングで自分の右足がステップして地面についている状態をつくれるようにしています。

二宮: なるほど。ピッチャーの球に合わせて対応するのではなく、相手が投げた時には「いつでもOK」という状況をつくるわけですね。自らが主導権を握って打つと?
角中: そうですね。自分が主導権を握れている時は調子がいいですし、やはり、そうならないと結果は出ない。どうしてもピッチャーに合わせて打たされてしまいます。

二宮: では、今季は自分が主導権を握っていると感じる打席が多いのでは?
角中: いや、まだまだ少ないですね。結果としてヒットになっているものも多いです。それにずっと1軍にいて、結果が出ない日が続くとどうしても考え過ぎてしまう。あまり引きずるタイプではないんですけど、考え始めると、かえってバットが出なくなったりするので、そういった切り替えの部分がこれからの課題ですね。

二宮: 準備を早くするようにしたのは誰かのアドバイスですか?
角中: 去年、2軍にいた時に長嶋(清幸)コーチから言われました。「もっとタイミングを早くとれ」と。最初は“どうしたらいいかな”と考えていたんですけど、(高橋)慶彦さん(当時2軍監督、現1軍コーチ)が「オレはリリースの時には、いつでも打てる準備はしていたぞ」と話していたのを思い出したんです。それを試してみたら、うまくタイミングがとれるようになってきました。

二宮: 昨季は左ピッチャーとの打率が.167と苦手にしていました。ところが今季は.326と逆に得意にしています。
角中: タイミングを早くとることを意識し始めると、左相手でも差し込まれなくなりました。むしろ左のほうが自然と壁ができるので、打てるようになりましたね。

二宮: しかも各チームのエース級を良く打っています。東北楽天の田中将大には11打数5安打、埼玉西武の涌井秀章は4打数2安打、北海道日本ハムの吉川光夫は2打数2安打です。
角中: いいピッチャーだから自然と集中力が高まる。それがいい方向に出ているのだと思います。

二宮: 角中さんの打撃フォームを見ていると、ベースのラインギリギリまで立って構えるのも特徴です。あれだけ近くに立っていると、内角のボールも多くなるでしょう?
角中: どんなキャッチャーでも、あそこまで近くに立たれたら内へ投げたくなるでしょう。だから、その点はあまり気にしていません。

二宮: 昨季から低反発の統一球に代わりましたが、その影響はありましたか?
角中: 僕の中では変化はないですね。もともとホームランバッターではなかったですし、芯に当たれば、そんなに影響は感じない。昔も今も芯付近でとらえたいというのは変わっていません。

 実感がわかなかった首位打者

二宮: 交流戦では首位打者宣言をして、ラスト3試合を連続猛打賞で締めました。有言実行の首位打者獲得でしたね。
角中: 「首位打者獲ります」と言ったのは冗談だったんですけどね(笑)。まさか本当に獲れるとは思いもしなかったです。

二宮: 交流戦明けには規定打席に到達し、打撃成績表の上位に名前がランクインしました。その時の気持ちは?
角中: うれしかったですけど、あまり実感がわかなかったです。

二宮: 西村徳文監督も90年には打率.338で首位打者に輝いています。何かアドバイスはありましたか?
角中: オールスター出場もそうですが、「チャンスがあるなら狙えよ。それがいい経験になるから」と言われました。

二宮: 独立リーグ出身者では史上初のオールスター出場。松山市の坊っちゃんスタジアムで開かれた第2戦では四国に凱旋もできました。
角中: 楽しかったですね。小さい頃からテレビで観ていた試合に出られるなんて信じられなかったです。ただ、周りも初出場の選手が多くて多少は気が楽でした。中田翔(日本ハム)とは同じ外野手で年齢も近いので、いろいろ話をしました。まぁ、ほとんどは野球に関係ないことでしたけど(笑)。

二宮: 角中選手が打点を挙げた試合は21勝10敗3分と大きく勝ち越しています。この勝負強さも強みですね。
角中: 他の皆さんが本当にいいところで回してくれたんで、何とかしようとした結果です。やはりチャンスでの打席のほうがやりがいはありますね。ただ、力が入り過ぎないようにうまくコントロールして打席に入れればと思っています。

二宮: アイランドリーグや2軍の試合では、お客さんも決して多くない。今季は1軍の大観衆の前で、優勝争いを繰り広げていますから、プロ野球でプレーしている意識も強くなるのでは?
角中: そうですね。去年も残り2カ月ほどは1軍にいましたが、順位が下位でしたから、そこまで1軍でプレーしている感覚はありませんでした。今季はいい緊張感で試合ができているので、ぜひ優勝してビールかけを体験してみたいです。

(第2回に続く)
 
角中勝也(かくなか・かつや)
 1987年5月25日、石川県出身。右投左打の外野手。日本航空第二高(現日本航空石川)から06年に四国アイランドリーグの高知に入団。1年目で打率.253、4本塁打、28打点の成績を残す。持ち味の打力を買われ、同年の大学生・社会人ドラフト7巡目で千葉ロッテから指名を受ける。ルーキーイヤ―の07年に同じアイランドリーグ出身の西山道隆(福岡ソフトバンク)から初安打。翌年には初本塁打を放つ。昨季は8月以降、1軍に定着。自己最多の51試合に出場し、打率.266だった。6年目の今季は開幕こそ2軍だったが、5月以降は1軍で5番打者に定着。勝負強い打撃でチームに貢献し、独立リーグ出身者では初のオールスター出場を果たした。180センチ、80キロ。背番号61。



(構成:石田洋之)
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