イタリア国籍のNPBプレーヤーはスティーブン・ラム(元阪神)に次いで2人目である。オリックスのアレッサンドロ・マエストリが8月26日の埼玉西武戦で初完投勝利をあげた。

 この7月上旬までは独立リーグ「四国アイランドリーグPlus」の香川オリーブガイナーズでプレーしていた。そこでの活躍が認められ、シーズン途中でオリックスと契約。8月12日に1軍に昇格して3試合に登板し、2勝1敗、防御率1.77という成績を残している(8月30日現在)。これはオリックスにとっては“うれしい誤算”だろう。
 シーズン途中での契約ということもあって年俸はわずか220万円。これで早くも2勝なのだから安い買い物だ。

 マエストリはイタリア代表としてWBCに2度出場したことはあるものの、日本ではほとんど無名。豪州やイタリアのプロリーグ、米国の独立リーグやマイナーリーグでプレーした経験を持つ。
 香川では主にクローザーとして活躍した。150キロ前後のストレートとスライダー、ツーシーム、チェンジアップが主だった武器だ。

 香川時代の監督・西田真二はマエストリを評してこう語る。
「外国人にしては珍しくコントロールがいいんです。だから大崩れする心配がない。スライダーもカーブ系とカット系の2種類持っていて、打者は狙いをしぼりにくいと思いますよ。
 ただ課題がないわけではない。四国時代は左打者によく打たれていた。左肩の開きが早く、1、2、3のリズムで投げるからタイミングが合いやすいんです。
 その点を是正するため、ボールの出どころを見づらくすることを指導しました。本人は素直に聞いていましたよ。野球に取り組む姿勢は謙虚で勉強熱心。しかもハングリー精神がある。
 一度、こんなことがありました。ストライクが入らなくて抑えに失敗したことがあるんですが、普段、滅多に怒らないヤツがベンチに帰るなりグラブを投げ付けて吠えていました。でも翌日は、きれいに気持ちを切り換えていた。こういう選手は伸びるんですよ」

 四国アイランドリーグPlusは今年で創設8年目を迎えたが、外国人選手、復帰組を含め37人をNPBに送り込んでいる。パ・リーグで打撃ベスト10の上位に顔を出す千葉ロッテの角中勝也も、このリーグ出身だ。
 西田は続ける。「ウチにはドミニカ共和国からやってきたウィルバー・ペレスという内野手もいます。リーグ出身の外国人ピッチャーとしては広島で3勝をあげたディオーニ・ソリアーノ(元徳島など)もいた。
 独立リーグでプレーする外国人選手の共通点は皆、明るくて吸収力がある。それに何とかしてここから這い上がりたいと思っているから目の輝きが違いますね。ぜひマエストリには“独立リーグの星”になってもらいたい」

 グラブに刺繍された文字は「一生懸命」。チームは目下最下位だが、マエストリのシーズンは始まったばかりである。

<この原稿は2012年9月16日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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