羽生結弦が守った光景 ~ベルサンピアみやぎ泉に5420万円超を寄付~

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 プロフィギュアスケーター・羽生結弦が、地元・宮城県の複合施設内「ベルサンピアみやぎ泉」に5420万5800円を寄付したことが、1月21日までに施設来場者のSNS投稿、拡散などでわかった。寄付金は全てスケートリンクの改修工事、消耗品購入に使用された。具体的には、除湿器6台と送風機8台の購入、整氷車のバッテリー交換、鉄骨部結露防止塗料塗布費用(塗料剝がし及びペンキ塗布を含む)。また、同じく宮城県内にある通年スケートリンク「アイスリンク仙台」は2月1日、羽生から200万円の寄付があったと公表した。羽生による「アイスリンク仙台」への寄付総額は1億997万円1996円に達した。

※「ベルサンピアみやぎ泉」への現地取材は、3月8日に行なった。

 

 

 結露による氷上のコブ

 

「ベルサンピアみやぎ泉」はスケート場、テニスコート、プール、ゴルフ練習場、体育館、会議室完備の宿泊施設などが同じ敷地内にある複合施設として1975年10月に開業した(当時:宮城厚生年金スポーツセンター。2009年10月よりベルサンピアみやぎ泉)。企業研修などでもこの施設は利用される。

 

改修工事以前のリンク。整氷すれば一度は削れるが、また時間が経ち、人が滑らない箇所はコブができるという。画像提供:ベルサンピアみやぎ泉

 

 施設内のスケートリンクでは、建物の構造上、天井部の鉄骨から結露がリンクに垂れ、氷の上にたくさんのコブができていた。

 

 結論から先に述べると、羽生の寄付金で購入した除湿器6台と送風機8台のおかげで、「リンク内の湿度は50%前後になりました。改修前は、70%は当たり前でした」と馬場施設長。さらに、「鉄骨部に結露防止剤を塗ったこともあり、結露によるリンクのコブ問題も解決しました」。

 

 

 馬場施設長は、やり取りを重ねた羽生の様子について語った。

「子どもたちのことを1番、気にしていました。“いまスケートをやっている子ども、スケートに興味を持って初めて滑った子どもが、コブに引っかかって怪我をしたら危ない”と。自分のことではなく、私にはずっと子どもたちのことを話していました」

 

除湿器は2階に4台、1階に2台設置

 

 馬場施設長によると、「羽生さんは最初のオリンピック(2014年ソチ冬季五輪)で金メダルを獲ったときから既に、当リンクを使ってくれていました。私がここに赴任した12年前、リンクのコブはここまでひどくなかった。年々、外気温と差が生じ、徐々に結露がひどくなった。天井には、100ミリ(10センチ)の断熱材が入っていますが、それでも結露してしまった」。

 

「費用は全部うちで出します」と羽生

天井には長方形の送風機を8台設置

 

 前々から馬場施設長は羽生と結露問題について話し合っていた。羽生がプロに転向した2022年頃から、リンクの改修工事の話が徐々に具体化していった。

 

「羽生さんはご自身の練習拠点であるアイスリンク仙台のことを例に出して、“向こうは除湿器がこれくらい入っていますよ”などアドバイスをくださいました。私は“空調屋さんに聞いてみます”と」

 

 馬場施設長は続けた。

「空調設備で弊社がお世話になっている山形県にある太陽産業株式会社さんに相談しました。そうしたら“うちはスケートリンクの改修工事のことはわからないけど、段ボールを大量に保管する倉庫の結露対策のノウハウならあるよ”と。その倉庫は、結露で段ボールがびしょびしょになっていたみたいなんですが、改修工事で解決したようです」

 

結露防止剤を吹きかけた鉄骨

 

 一通りの計画や見積もりを出してもらったのは2025年1月頃。

 

「一通りの計画や見積もりを出してもらい、羽生さんに“実は、このくらいの工事をすれば結露がなくなるかも”とお話しました。すると羽生さんは“やりましょう! 費用は全部うちで出します”と。これにはびっくりしました」

 

「ベルサンピアみやぎ泉」のスケートリンクの営業時期は例年10月から翌年3月末まで。改修工事は、オフの2025年7月から8月に行なった。10月の営業開始のために毎年9月中旬から氷を張る。

 

 こうして2025年の7月、羽生の多額の寄付金により、改修工事が始まった。「塗装に1カ月、除湿器などの導入に1カ月かかった」。塗装に1カ月を費やした理由を馬場施設長は明かした。

 

屋根のつなぎ目を半透明の素材で補修

 

「サビもひどかったため、茶色い水滴がリンクに滴るんです。鉄骨部分のペンキを一度全部、剥がして再度ペンキを塗ってもらい、その上から結露防止剤を塗りました。羽生さんは“屋根のつなぎ目からも水滴が垂れてきている”と教えてくれたので、つなぎ目も補修しました」

 

「空気が全然違う」と喜ぶ従業員

 

 従業員は「もう、リンク内の空気が改修工事前と後で全然違います」と喜び、続けた。

「私たちはスケートリンクの仕事以外にも業務があります。例えばゴルフ練習場で仕事をしていても途中で“そろそろ結露が凍ってコブができるかも”と、他の仕事を中断し、移動してスケートリンクの整氷車を稼働させないといけなかった。整氷車を運転できる人も限られていますし……。整氷車の刃のもち具合も以前とは違います。前はあれだけのコブを削っていたので1週間から2週間で研磨しないといけなかった。改修後は3週間から4週間くらいで研磨しています。羽生さんのおかげでかなり負担が減りました」

 

 整氷車について、馬場施設長が付け加えた。

「整氷車のバッテリーも羽生さんの寄付金で交換しました。いままでは充電を満タンにしても稼働は4回から5回程度。それが1度の充電で10回以上は稼働します。この改善も従業員は喜んでくれています」

 

整氷車内部のバッテリー

 

 再び、従業員は語った。

「フェンスの隙間を結露がつたって壁際に大きな氷のコブができる。子ども用のヘルメットより少し小さいか、同等くらいの大きさのコブです。そうすると、整氷車で対応ができず、手作業でコブを撤去しないといけなかった。この問題も、解消されました」

 

 もちろん、馬場施設長もリンクの問題は重々承知の上で、見送らざるを得なかった。苦しい胸の内を明かした。

「当施設は、スケートリンク以外にもテニス、プール、ゴルフ、体育館、宿泊施設がある。プールのスライダーも毎年全部、修繕です。開業から50年経っていることもあり、水道の配管も古く、水漏れするといたるところに影響が出てしまう。会議室も使えなくなる、トイレの水が流せなくなる。リンクのコブは問題でしたが1度、整氷すれば一時的に削れて平らにはなる。そういった背景もあり、どうしてもリンク以外の修繕が優先になっていました。寄付の件、ニュースにしていただけたのはありがたかったです。書き込みを見ると“なぜ、スケート場なのに修繕計画がないのか”と……」

 

「ベルサンピアみやぎ泉」は、複合施設であることを再度強調しておこう。

 

 

 アイスホッケーのチームが貸し切りで練習する時も、“ラインが綺麗に見える”と喜びの声があがった。以前は、サビついた結露の影響で氷が濁り、リンク上のラインが見えにくくなっていたのだ。

 

「羽生さんは、“いろんなところで、スケートリンクがどんどん無くなっていっている。ここはそうなってほしくないんです”と我々に話してくれました」と馬場施設長。

 

 取材を「notte stellata2026」期間中に行なったこともあるだろう。フィナーレに使われる「希望のうた」の一節が、脳裏をよぎった。

<〽 握りしめているもの 希望というもの 誰にもわたさない 誰にも奪えない>

 

 

 実際にスケート靴を履いて「ベルサンピアみやぎ泉」の綺麗なリンクを滑った。親に手を引かれて一緒に滑る子どもがいれば、「手はつながなくて大丈夫!」と親の手をはらってひとりで滑りたがる子どももいた。スケートを楽しむカップルや仲間がいた。リンク中央では、アップライトスピンやダブルアクセルの練習に励む少女がいた。

 

 羽生結弦は、この光景を守りたかったのだろう。彼の行動は、確かに希望をつないでいる。

 

(文・写真/大木雄貴、写真提供/ベルサンピアみやぎ泉)

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