足が速いこと。肩が強いことはもちろんだが、ケガに強いこともプロ野球選手にとっては才能のひとつだろう。
世界記録となる1492試合連続フルイニング出場を誇る阪神の金本知憲が今季限りで引退を表明した。
忘れられないのは2004年7月30日の巨人戦だ。前日の中日戦で、金本は岩瀬仁紀から死球を受け、左手の関節を痛めていた。
にもかかわらず何食わぬ顔で試合に出場し、右手1本で2本のヒットを放ったのだ。鉄人伝説の真骨頂だった。
鉄人といえば元祖は2215試合連続出場の日本記録を持つ衣笠祥雄だ。
衣笠の場合、死球を受け、左肩甲骨を亀裂骨折しながら、翌日のゲームに出場し、フルスイングを見せたことがある。江川卓の快速球の前に三球三振だったが、スタンドからは大きな拍手が送られた。
話を金本に戻そう。彼を21年間にわたって支えたのは叩き上げ意地だった。志望していた大学に落ち、1年間の浪人生活を余儀なくされた。生活費を稼ぐため工事現場で働いた。
東北福祉大を経てドラフト4位で入団したものの評価はさして高くなかった。
当時の監督・山本浩二はこう語ったものだ。「バッティングはダメ、守備はダメ、足だけはそこそこ。とてもレギュラーになれるような選手じゃなかった。ところがハートだけは強かった。1年目、オープン戦に出したら、打てなくても四球をとってくる。これはやるぞと思ったね」
数ある彼の偉大な記録の中で、最も光っているのが日本記録の1002打席連続無併殺だ。ランナーをおいてゴロを打てば、普通はがっくりきて全力疾走を怠りがちだが、彼は鬼のような形相で一塁に駆け込んだ。フォア・ザ・チーム。誰よりもこれに徹した選手だった。
「いろんな選手と一緒にやったけどナンバーワンだった」とは阪神監督時代に金本を獲得した東北楽天監督の星野仙一だ。これ以上の褒め言葉は他にない。
<この原稿は2012年10月8日号の『週刊大衆』に掲載されたものです>
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