監督就任1年目のシーズンが終了しました。今季の富山サンダーバーズは、前期は16勝19敗1分で北陸地区3位、後期は13勝21敗2分で同2位という成績でした。正直、「苦しいシーズンだった」と言わざるを得ません。特に後期は、新潟アルビレックスBCには福井ミラクルエレファンツ、石川ミリオンスターズ同様、1勝も挙げることができず、圧倒されてしまいました。まさに力を見せつけられたという感じです。
 とはいえ、選手たちが成長しなかったわけではありません。例えば、前期に最大の課題とされていた投手力ですが、後期ではストライクゾーンで勝負するようになり、四球数も減りました。ところが、逆に打線が落ち込んでしまったのです。相手投手が良かったということもあるとは思いますが、投手陣にはそれをカバーするだけの、踏ん張りが欲しかったですね。

 昨季、安定感のあるピッチングでチームに貢献してくれた日名田城宏や田中孝次といった柱が抜けた穴をどれだけ埋められるかが、今季戦ううえでのポイントとなっていましたが、結果的に見れば、2人の穴を埋めるだけの投手力を築くことができなかったということです。投手陣のけん引役として期待していた杉山直久は確かにリーグ2位タイの12セーブを挙げ、抑えとしての働きをしてくれました。しかし、彼の実力からすれば、こんなものではありません。結局は、杉山につなぐ中継ぎが心もとなく、勝利の方程式をつくることができなかったのです。

 加えて、前期頑張っていた先発陣も後期は猛暑の影響もあり、スタミナ不足が目立ちました。最も安定していたルーキーの高塩将樹(藤沢翔陵高−神奈川大−横浜金港クラブ)も、暑さで体のキレが悪くなっていましたから、来季への課題としてオフに取り組まなければいけません。

 私が富山のコーチに就任した2010年から比べると、毎年、それぞれに改善点も見られます。例えば、百合翔吾(出石高−大阪経済法科大−明石レッドソルジャーズ)は、1年目の昨季は、武器になるような決め球がありませんでした。そのため、せっかく2ストライクに追い込んでピッチャー有利のカウントにしても、決め球がないために、結局イーブンカウントにしてしまう、あるいは打たれてしまうといったケースが少なくなかったのです。しかし、今季は変化球がいいところで落ちるようになり、決め球として進化しつつあります。とはいえ、十分のレベルまでには達していません。百合のみならず、それぞれの改善点をさらに精度を上げていくことが必要です。

 17日には信濃グランセローズから大竹秀義(春日部共栄高)が移籍することが決定しました。彼は故障が続き、なかなかシーズンを通しての活躍には至っていませんでしたが、今季はようやく、1年間しっかりと強いボールを投げられることを証明してみせてくれました。富山にはいないタイプの投手だけに、来季の活躍を期待している一人です。

 力みを生み出す“4割の壁”

 一方、野手はというと、やはり1年目にして3割5分という好打率をマークし、首位打者を獲得した有澤渉(高岡商業高−日本体育大−きらやか銀行)でしょう。最も評価すべき点は、シーズンを通してコンスタントにヒットを打ち続けたことです。彼は50メートル6秒ジャストと俊足で、長打力をも兼ね備えています。また、簡単にアウトを取られない粘り強さもあります。NPBに行くだけの素質は十分にありますから、あとはどのようにしてスカウトの目に留まる選手になるのか、が重要です。つまり、スカウトを引きつけるだけのアピールポイントが必要なのです。

 見た目としてアピールしやすいのは飛距離なのですが、彼は長距離砲というよりは、中距離打者ですから、あっという間に塁間を抜けて行くような打球の速さを追求していきたいですね。そのために課題として挙げられるのが、インパクトの瞬間の強さです。つまり、ボールがバットに当たる瞬間に、いかにウエイトを乗せることができるか。これが打球への速さへとつながるのです。有澤にもこのインパクトでの強さが欲しいところ。今季は主に3番だった有澤ですが、来季は主軸として4番、あるいは5番に据え、打点を稼いでスカウトへのアピールのひとつとしてほしいなと思っています。

 投手成績は振るいませんでしたが、今季の富山はチーム打率では新潟に次ぐ2割6分7厘をマークしました。しかし、ヒットは打つことができても、それを線としてつなげることができず、ランナーを次の塁に進めることができないことも少なくありませんでした。そこには、「140キロの壁」があったのです。つまり、140キロを超えるボールに対して、自分のバッティングができなくなってしまうのです。

 その要因のひとつには、速くて強いボールに対して「力負けしたくない」という心理が働き過ぎることです。そうすると、力で対応しようと体に力みが生じ、動きにキレが失われてしまうのです。私が選手によく言っているのは「バットはバットという道具として使いなさい」ということ。体に力が入ると、しなりなど、バットの特性を利用することができず、単なる棒きれになってしまうのです。バットを道具としてどう使ってバッティングをするのか。そのことを考えながら、「140キロの壁」を乗り越えてもらいたいと思います。

 現在、「日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップ」まっただ中。新潟が四国アイランドリーグplusの覇者・香川オリーブガイナーズに連勝し、リーグとしては昨季の石川に続いての連覇達成に王手をかけており、熱戦が繰り広げられています。そんな中、我々は既に来季に向けてトレーニングを開始しています。今季はほぼ半数の選手が新人と、チームを一からつくりあげましたが、今回は多くの選手が残留しました。来季は今季やってきたことを継続し、そしてレベルアップさせた野球をしたいと思っています。そして、08年以来となるリーグ優勝を目指します。

進藤達哉(しんどう・たつや)プロフィール>:富山サンダーバーズ監督
1970年1月14日、富山県高岡市出身。高岡商では1年夏、3年夏に甲子園に出場。1988年、ドラフト外で大洋(現・横浜)に入団。5年目からレギュラーに定着し、98年の38年ぶりとなるリーグ優勝および日本一に大きく貢献した。97〜99年には3年連続でゴールデングラブ賞を獲得。01年、交換トレードでオリックスに移籍し、03年限りで現役を引退した。翌04年には横浜の内野守備コーチに就任。08〜09年は同球団でスカウトを務めた。2010年に富山の守備コーチとなり、12年からは監督として指揮を執る。
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