日米の野球シーズンは、いよいよ大詰めを迎えた。ワールドシリーズは25日、日本シリーズは27日に開幕を迎える。長丁場のレギュラーシーズンと、短期決戦のポストシーズンを勝ち抜き、最後に歓喜の雄たけびをあげるのはどのチームか。

 3冠カブレラの陰にフィルダーあり

 まず一足先にスタートするワールドシリーズはナショナルリーグ覇者のサンフランシスコ・ジャイアンツと、アメリンカンリーグを6年ぶりに制したデトロイト・タイガースが激突する。ジャイアンツは2年ぶり7回目、タイガースは28年ぶり5度目の世界一を狙う。

 ここまでの両チームの戦いを見ていると投打の軸がしっかりしている。まずタイガースは初戦の先発が決まったジャスティン・バーランダーが絶対的エースとして君臨する。このポストシーズンでも3試合に登板して3勝。防御率は0.74と絶好調だ。昨季は最多勝、最多奪三振、最優秀防御率の3冠を獲得し、サイ・ヤング賞にも選ばれた。150キロ台の速球を連発し、落差のあるチェンジアップで緩急をつけるピッチングスタイルでメジャーの強打者たちを牛耳っている。

 打線ではミゲル・カブレラ、プリンス・フィルダーの3、4番がメジャー屈指の破壊力を誇る。カブレラは今季、打率.330、44本塁打、139打点で45年ぶりの打撃三冠を達成した。カブレラが思う存分、打ちまくれたのも、後ろにフィルダーという強打者が控えていたからに他ならない。今季、ミルウォーキー・ブルワーズから移籍したフィルダーは打率.312、30本塁打、108打点。父は日本でもおなじみの元阪神のセシル・フィルダー。親譲りのパワーはもちろん、どっしりとした構えからコースに逆らわないバッティングをみせる。これだけのバッターがいれば相手ピッチャーはカブレラと勝負せざるを得ない。いずれも3割、30本塁打、100打点以上をマークした2人の中軸に導かれ、チーム打率.268はリーグ3位だ。

 日本で成長したボーグルソン

 一方のジャイアンツもチーム打率は.269と好調で相手を上回る。打線の中心に座るのはバスター・ポージーだ。2年前にも実質1年目ながら4番でキャッチャーを務め、ワールドシリーズ制覇に貢献した。昨季は本塁のクロスプレーで大ケガを負い、長期離脱を余儀なくされたが、復帰した今季は打率.336とヒットを量産し、首位打者のタイトルを手にした。マスクを被れば、投手陣を巧みにリードし、チーム防御率は3.68と安定している。

 投手陣は2年連続サイ・ヤング賞のエース、ティム・リンスカムの不調を他の先発陣が補った。今季揃って16勝をあげたマット・ケーン、マディソン・バムガーナーに、15勝のバリー・ジト、14勝のライアン・ボーグルソンだ。特にこのポストシーズンに入って評価がうなぎ昇りなのがボーグルソンだろう。セントルイス・カージナルスとのリーグチャンピオンシップでは第2戦と第6戦に先発し、いずれも勝ち投手になった。

 彼は07年から3年間、阪神、オリックスでプレーしている。本人によれば、日本で学んだ制球力と忍耐力が好調の要因だそうだ。昨今はコルビー・ルイス(テキサス・レンジャーズ)のように日本での経験を生かして、メジャーで活躍するピッチャーも増えてきた。日本の細かな投球術がパワーで上回る米国の野球に彩りを与えているのだとすれば興味深い。ボーグルソンは現状では第3戦で先発が濃厚だ。

 タイガースはヤンキースを4連勝で撃破し、休養十分でシリーズに突入する。一方のジャイアンツはリーグチャンピオンシップを最終第7戦まで戦って、中1日での初戦だ。先発投手のやりくりではタイガースのほうが有利だろう。しかし、ジャイアンツには勢いがある。ディビジョンシリーズでは2連敗から3連勝。リーグチャンピオンシップでは1勝3敗から再び3連勝でシリーズを勝ち上がった。1、2戦目をホームで迎えるアドバンテージもある。投打に充実した両チームががっぷり四つの戦いを繰り広げるのではないだろうか。

 三振が大幅に減った阿部

 日本シリーズは北海道日本ハム.vs巨人と両リーグの優勝チーム同士の顔合わせとなった。日米ともジャイアンツが最終決戦にコマを進めたが、この両チームには共通項がある。チームを牽引するのが4番・キャッチャーである点だ。ジャイアンツは先に紹介したポージー。巨人は阿部慎之助である。

 今季の阿部は、もはやMVP確定と言っても過言ではない。打率.340、打点104と初の打撃タイトルを獲得。ただ打つだけではなく、今季は三振が大幅に減った。一昨年は91個だった三振が昨季は66、そして今季は前年より100打席以上多いにもかかわらず、47個だった。これは規定打席以上のバッターでは最少である。巧みなバットコントロールと、キャッチャーならでは配球の読みが光った結果だろう。

 彼はリーグ優勝を果たした翌日(9月22日付)のスポーツ報知上の手記で<ストライクを見逃す勇気を持てるようになった。橋上さんは「割り切りが大事」っていう。例えば、今まで打てなかった投手に対して「低めを絶対に我慢しよう」とか「見逃し三振はOK」とかね。これまでだったら、三振をしたくないから振りにいっていた。でも「三振をしてもいいんだな」って思えるようになり、余裕が生まれた>と明かしている。文中に出てくる「橋上さん」とは今季から戦略コーチに就任した橋上秀樹である。

 橋上は知将・野村克也の懐刀として東北楽天で4年間、ヘッドコーチなどを務めた。徹底してデータを分析し、1球1球の根拠を重視する“ノムラの教え”が巨人にも浸透していることが阿部の証言から読み取れる。阿部といえば、以前はリード面での課題が指摘されていたが、もう、それも昔の話だ。キャッチャーには辛口の野村も「バッターの動きをよく観察できるようになった。年々、進歩している」と褒めている。この攻守の要がシリーズにおいてもキーマンとなることは間違いない。

 中田、ジャパンの4番への飛翔

 対する日本ハムは若き投打の柱がチームを引っ張る。24歳の先発左腕・吉川光夫と、23歳の4番・中田翔だ。今季、吉川のここまでの飛躍を誰が予想しただろう。14勝5敗、防御率1.71。押しも押されもせぬ大エースだったダルビッシュ有(レンジャーズ)の穴を見事に埋めた。

 制球難に苦しみ、昨季までの3年間、1勝も挙げられなかった左腕が大変身を遂げたのは、新指揮官・栗山英樹の一言だったというのは広く知られている。
「来年、ダメならユニホームを脱がせるからな」
 この“最後通告”が悩める若者を救い出した。
「監督から“納得するボールを投げろ”と言われてから、四球を出すことを恐れなくなった。しっかり腕を振った中での四球なら仕方ないと、自分でも割り切れるようになったんです」
 終わってみれば、無四球完投が2試合。制球難という病はいつの間にかに完治していた。

 4番の中田は指揮官の我慢が光った。栗山は開幕から彼を4番に据え、1度も打順を下げなかった。6月までは打率1割台と低迷していたにもかかわらず、4番を外さなかった意図はどこにあるのか。栗山本人に訊ねるとこんな言葉が返ってきた。
「打順を下げれば打てるのはわかっています。しかし僕は翔にはウチの4番というより将来的にはジャパンの4番に座ってもらいたいと考えているんです。ちょっと大袈裟に言えば、彼を4番として育てられなかったら球界全体の損失になるでしょう。これは誰が監督であってもやらなければならない仕事なんです」

 そこまで見込んで使い続けた栗山も立派だが、最終的には期待に応えた中田も立派である。福岡ソフトバンクとのクライマックスシリーズでは、第3戦に先制打。同シリーズの打率はチームトップの.444と4番の役割を果たした。実は中田は巨人戦に強く、今季の交流戦では16打数で7安打を放っている。初戦の先発が予想される吉川とともに中田がシリーズの主役になれば、日本ハムに勝機が出てくる。

「中心なき組織は機能しない」
 ヤクルトで日本シリーズを3度制した野村は勝てるチームづくりの要諦をこう表現している。短期決戦は常にラッキーボーイ的な“伏兵”が活躍するものだが、最終的に勝敗の決め手になるのは、やはり“中心”たるエースや4番の仕事ぶりにかかっている。

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<ワールドシリーズ日程> (放送はJ SPORTS、日付は日本時間)

サンフランシスコ・ジャイアンツ × デトロイト・タイガース
第1戦 10月25日(木) AT&Tパーク
第2戦 10月26日(金) AT&Tパーク
第3戦 10月28日(日) コメリカパーク
第4戦 10月29日(月) コメリカパーク
第5戦 10月30日(火) コメリカパーク
第6戦 11月1日(木) AT&Tパーク
第7戦 11月2日(金) AT&Tパーク

<日本シリーズ日程>

読売巨人軍 × 北海道日本ハムファイターズ
第1戦 10月27日(土) 東京ドーム
第2戦 10月28日(日) 東京ドーム
第3戦 10月30日(火) 札幌ドーム
第4戦 10月31日(水) 札幌ドーム
第5戦 11月1日(木) 札幌ドーム 
第6戦 11月3日(土) 東京ドーム
第7戦 11月4日(日) 東京ドーム

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