残るイスはあとひとつ――。J1昇格プレーオフが18日(日)から始まる。同制度は今季から導入され、J2の年間3位から6位までの4クラブがトーナメント方式でJ1昇格を争うもの。熾烈なラストバトルに駒を進めたのは京都サンガF.C.(3位)、横浜FC(4位)、ジェフユナイテッド千葉(5位)、大分トリニータ(6位)。準決勝の組み合わせは京都―大分、横浜FC―千葉となった。果たして、準決勝と23日(祝・金)の決勝を制し、国立競技場でサポーターたちと喜びを分かち合えるのはどのクラブか――。

 まずはプレーオフの概要を確認しておこう。準決勝は上位チームのホームで行われ、決勝の舞台は中立地の国立。準決勝、決勝ともに一発勝負だが、90分間を終えて引き分けの場合は延長戦を行わず、リーグ戦順位で上回るチームが勝ち進む。たとえば準決勝で京都―大分がドローとなった場合は、リーグ戦3位の京都が決勝に進出するという仕組みだ。準決勝に限っていえば京都と横浜FCは引き分けでもいいが、下位の千葉と大分は勝つしか道はない。このレギュレーションは試合展開に影響を及ぼしそうだ。

 パスサッカーの京都 vs.カウンターの大分

 西京極で行われる京都−大分は、互いのスタイルがぶつかり合う展開となりそうだ。
 3年ぶりのJ1を目指す京都は今季、序盤から上位をキープ。第41節終了時点で自動昇格圏の2位に位置していた。ところが、勝てば昇格決定だった最終節で痛恨のドロー。湘南ベルマーレに逆転されるかたちでプレーオフに回った。このショックから1週間で、いかに立ち直れるか。

 京都の特徴はパスサッカーだ。選手間の距離をコンパクトに保ち、縦横無尽のパスワークで相手守備網を切り崩していく。昨季、そのスタイルでJ1の強豪を撃破し、J2ながら天皇杯決勝まで勝ち進んだことは記憶に新しい。2年目の大木武監督の下、持ち前のパスサッカーには磨きがかかっている。

 中心選手はトップ下の中村充孝だ。市立船橋出身の22歳は、キープ力の高さを生かして味方が動きだす時間をつくりだし、チャンスを演出する。ひとりで突破してゴールまで持ち込む力もあり、リーグ戦ではチーム最多の14得点(リーグ5位)をマーク。アシスト数もチーム2位で、中村なくして京都の攻撃は成り立たないと言っても過言ではない。

 京都にとってカギを握るのは攻撃後の守備への切り替えだ。大分はカウンターを得意とするだけに、ボランチを含めた守備陣が相手の速攻を食い止め、攻撃につなげたい。京都は引き分けでも勝ち抜けられる。下手に攻め急がず、ボールを支配してリスクを負わない戦い方も選択肢のひとつだろう。

 対する大分は4年ぶりのJ1復帰を目論む。リーグから多額の借入金を抱え、プレーオフ出場資格が得られるか危ぶまれていたが、地元の支援を受けて無事完済を果たした。地元の後押しがなければ立てなかった舞台だけに、選手たちのモチベーションはいやがうえにも上がる。

 全員が激しく連動してプレッシングし、ボールを奪えばすぐさま前線に送るのが大分のスタイルだ。その象徴が9月の京都戦(2−0)の2点目と言っていいだろう。チーム全体が連動して相手のパスコースを切り、前線でボールを奪ってMFチェ・ジョンハンのゴールにつなげた。

 キーマンとなるのがトップの森島康仁と右MFの三平和司だ。森島は186センチ、80キロの体格で抜群の強さを誇り、前線でターゲットマンの役割を担う。今季はチーム最多タイの14ゴールを挙げた。その森島と並んでチームの得点王だったのが三平である。右サイドから中央斜めに走り込んで、相手DFラインの裏をとり、ゴールを重ねた。2人の活躍が示すように、大分は2つのカウンターパターンを備えている。森島を中心とした前線の選手にボールを当てるかたちと、三平が裏へ抜け出すかたちだ。

 効果的にカウンターを使うには、ポゼッションを高めてくる相手から、いかに連動してボールを奪えるかが重要だ。京都のパスワークにいなされてしまっては、勝機は見えてこない。引き分けが許されない状況だけに、選手たちには立ち上がりからいつも以上のハードワークが求められる。早い時間帯で先制点を奪い、京都が焦って前に出たところをカウンターで突く流れに持ち込みたい。

 粘り強さの横浜FC vs.バランスの千葉

 もうひとつのカードはリーグ戦を4連勝で終えた横浜FCと3連勝で締めくくった千葉が相まみえる。勢いを持った両チームだけに激しい試合となりそうだ。

 開幕当初、横浜FCがプレーオフに進出すると予想した人間は少なかったのではないか。第8節まで勝利がなく、一時は最下位に沈んでいた。しかし、3月途中から監督に就任した山口素弘の下、徐々にほころびを修正。第13節から6連勝を記録し、その後は連敗が1度だけと驚異的な巻き返しをみせた。

 6年ぶりのJ1復帰をうかがう横浜FCの特徴は接戦の強さにある。今季の22勝のうち、1点差で制したのは半数以上(13)にのぼる。守勢に回っても粘り強く対応し、泥臭くゴールを奪う試合が目立った。最終節のFC岐阜戦も先制されたものの、打ち合いに持ち込んで最終スコアは3−2。この勝利で4位に浮上し、プレーオフ準決勝のホーム開催権を手にした。

 基本戦術はパスを回してゲームを支配するポゼッションサッカーだ。だが、時には長身FWを生かし、セットプレー、ロングボールで好機をつくるなど泥臭さも兼ね備えている。大きな武器となるのはMF地系治の精度の高いキックだ。ボランチの位置からのロングフィードやセットプレーから、チーム最多の9アシストを記録した。対戦相手の千葉は個人の能力の高い選手が多く、ずるずると下がってしまえば、防戦一方になってしまう。それを避けるためにも、地のキックで千葉の押し上げを抑えたい。

 千葉は4年ぶりのJ1復帰を狙っている。選手層の厚さはJ2屈指だ。元日本代表のDF山口智、MF佐藤勇人に加えて、シーズン途中には谷澤達也(前FC東京)や高橋峻希(前浦和)らJ1で活躍する選手を獲得。負傷者も復帰しており、万全の状態で大一番へ臨めそうだ。

 ストロングポイントは攻守におけるバランスの良さだ。総得点61はリーグ5位タイ、33失点は同最少である。特に守りは高い位置でブロックを構築し、前線からのプレスが機能している。最終ラインは経験豊富な山口が統率。どんな時も組織を崩さず、文字どおり鉄壁の守りを築いている。攻めに転ずれば、落ち着いたパス回しで相手守備網のギャップを見逃さない。ワントップを張るのは得点ランク4位(15点)の藤田祥史。中央、サイドとピッチを広く使ってゴールに迫る。

 最終節の徳島ヴォルティス戦は千葉の良さがすべて出た試合だった。攻めては引いた相手をパスで崩して3ゴール。守ってはGK岡本昌弘のファインセーブもあって無失点で締めくくり、結果と内容が伴ったかたちでリーグ戦を終えた。ラスト3試合は7得点無失点と攻守の歯車がかみ合っている。。

 横浜FCに対しては今季2戦2勝(3−0、1−0)と相性の良さを見せるが、今回は状況が異なる。勝たなければならないというプレッシャーが戦い方にどう影響するか。持ち味のバランスの良さが崩れれば、ホームの横浜FCが粘り強さを発揮するだろう。千葉としては「先手必勝」で臨みたい。

 このように4チームのチームカラーにはそれぞれ特徴がある。しかも、リーグ戦では3位京都から6位大分までの勝ち点差はわずかに3しかない。4チームの実力は拮抗している。どこか勝ち上がるか予想するのは本当に難しい。痺れるような一発勝負をスカパーで堪能したい。

 今シーズンより導入された「J1昇格プレーオフ」
 J1昇格の最後の1枠をかけて、J2年間順位3〜6位が激突!
 それぞれ現地スタジアムから完全生中継!!



【準決勝】
11月18日(日)
(1)京都サンガF.C. × 大分トリニータ (西京極、14:00〜)
(2)横浜FC × ジェフユナイテッド千葉 (ニッパ球、14:00〜)

【決勝】
11月23日(祝・金)
(1)の勝者 × (2)の勝者 (国立、13:00〜)

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
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