唐突に辞職を表明した石原慎太郎都知事が旗振り役となってスタートした東京五輪・パラリンピック招致活動。首都に2020年五輪・パラリンピックがやってくるかどうかは来年9月まで待たなければならない。だが、2019年ラグビーW杯の日本開催は既に決定している。逆算すれば、遅くとも18年度内にはメインスタジアムを完成させていなければならない。
 これを受け、3月には「国立競技場将来構想有識者会議」が立ち上がり、7月には2回目の会合が持たれた。都知事も同会議のメンバーのひとりである。

 前回の五輪・パラリンピック招致では東京の晴海地区にスタジアムを建造する計画だったが、私は老朽化した国立競技場(正式には国立霞ヶ丘陸上競技場)の全面改築に勝るプランはないと当初から考えていた。その第一の理由は利便性である。

 調べたところ、徒歩で約15分圏内の駅が同競技場にはJR千駄ヶ谷駅、信濃町駅、地下鉄の国立競技場駅、外苑前駅、北参道駅と5つもある。これだけ交通の便がいい場所は、東京広しと言えども、そうはない。

 国立競技場を管理、運営する独立行政法人日本スポーツ振興センターの河野一郎理事長は「全天候型のスタジアムをつくりたい」と語っている。そこで議論になっているのが開閉式か閉開式かという問題だ。

 要するに普段はオープンエアにしておいて雨が降った時や文化イベントの時だけ閉めるか、逆に普段は閉め切っておいて、天気のいい日には開けるかという選択である。

 私見を述べれば、閉開式はありえない。サッカーやラグビー関係者と陸上競技関係者との間には若干の温度差があるかもしれないが競技場の命は天然芝である。果たして閉開式で最良のピッチコンディションが保てるだろうか。河野理事長も「スポーツの観点から言えば芝生をどうとらえるかが一番重要になる」と語っていた。

 有識者会議は新ナショナル・スタジアムの収容人数を現在の5万4千人から8万人に増やすことで既に合意している。「世界一の競技場をつくる」(河野理事長)以上、開閉式か閉開式かも含め、もっと国民的議論を喚起してもいいのではないか。ユーザー目線の提案にも耳を傾けるべきだろう。

<この原稿は12年10月31日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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