第18回「スポーツ指導員の国家資格化」ゲスト遠藤利明氏
二宮清純: 今回のゲストは、2021年東京オリンピック・パラリンピックに招致から携わり、大会成功に尽力した日本スポーツ協会(JSPO)の遠藤利明会長です。
遠藤利明: 本日はよろしくお願いいたします。
二宮: 政府は部活動改革の関連経費について、2025年度補正予算と2026年度予算を合わせて計139億円を計上していると発表しました。当初は部活動の地域移行という名称でしたね。
遠藤: その名称は誤解を生みましたね。“移行”という言葉を使うと、これまでの部活動がダメだから地域に取って代わるという印象を持たれてしまう。私としては部活動と地域スポーツの一体化を指示していたのですが……。
伊藤清隆: それで現在は部活動の「地域展開」という言葉を使われているのですね。
遠藤: そうなんです。あくまで部活動と地域スポーツの連携や一体化が目的なんです。どんなかたちでもいいんですよ。しかし、各自治体の指導者を抱えているスポーツ協会や少年団と学校をうまくつないでくれる人がいないのが現状です。そこが実はいま一番苦労している点です。
二宮: コーディネーターの役割を果たす人が少ないということですね。
遠藤: その通りです。学校によっては、教師が部活動の指導にこだわっている場合がある。あるいは神戸市のように全部地域に任せるというスタンスのところもあります。そこは、いろいろなパターンがあっていい。学校でやろうが、地域でやろうが、学校と地域が一緒になってやってもいい。子どもたちが、いいかたちでクラブ活動、スポーツ活動ができることが目標ですから。
二宮: 前回のゲスト、日本スポーツ振興センター(JSC)の芦立訓理事長は「4分の1の自治体が、今まで一度もスポーツくじの助成金を受け取っていない」と、話していましたが、まだ助成を受ける手続きが広く知られているとは言い難い。
遠藤: 部活動の「地域展開」を含め、いま困っているのが、みんなまだ何をしていいか、わかっていないこと。手を挙げてくれるところがまだまだ少ない。その意味で、伊藤さんのような部活動の「地域展開」に関わっている方々にも、広く宣伝をしていただきたい。
二宮: 部活動の「地域展開」に取り組んでいるリーフラス側から見ても、認知度はまだ低い?
伊藤: 遠藤先生がおっしゃったように、私も自治体の首長と話してきましたが、まだ部活動の「地域展開」に国が予算を付けたことすら知らない人も少なくありません。自治体から相談を受け、我々が手伝うこともありますが、多くの自治体が申請のやり方を分かっていないというのが実状です。
「技術を教えるだけではない」
二宮: JSPOとしては、部活の地域展開について、今後どのように関わっていきますか?
遠藤: 1つ考えているのは、スポーツ指導員の国家資格化です。実は昔、文部大臣(当時)認定事業としてスポーツ指導員制度を設けていたんです。それが2000年の行政改革大綱でその制度は廃止となりました。ただ外部指導員に部活動の生徒を預けるという話をしたときに、ある県の教育長から「遠藤先生、部活の先生の仕事は、ただ技術を教えるだけではないんです。親にも相談できない、担任の先生に言えないことも、部活の先生だと話せるという生徒がいっぱいいます。こういう人たちの存在は大事ですよ」と言われた。そう考えると、部活動指導を担当する外部指導員の方にも、学校の先生と同じとまではいかなくとも、似たようなレベルの資格が必要だと思うんです。それでスポーツ指導員の国家資格化を、我々JSPO内でチームをつくって検討しています。
二宮: この計画については?
伊藤: 私も詳しくは知りませんでしたが、今回、部活動の地域展開をしていく上で、各スポーツ指導員の方が国家資格を取得するのは、とても意義のあることだと思います。全く無資格の人が子どもたちを教えるのは健全ではありませんから。少なくとも現行のJSPOのスポーツ指導員ライセンスでも十分かなと思っていたんですが、それが国家資格化となれば、一番いいかもしれませんね。
二宮: 国家資格化を図る上では、日本サッカー協会のように独自に指導者ライスセンス制度を設けている競技団体との調整も必要では?
遠藤: サッカーにはサッカーの基準があるので、そこは一緒にすることができません。ただ全体としてのスポーツ指導員の国家資格化を進め、その資格を得た上でサッカーはサッカーの資格を取得しなければならない、と段階的に設定できればいいと考えています。
二宮: スポーツ指導員の国家資格化には、私も賛成です。もし指導員がパワハラ、体罰などを犯したら、資格をはく奪することもできる。資格を取得したら一生、指導できるのではなく、それをチェックする機関も必要になりますね。
遠藤: そうですね。JSPOで、各競技団体、各県の競技団体と連携し、例えば暴力行為があった場合、JSPOとして資格を半年間活動停止などの処分を科す仕組みがあります。スポーツ指導員が国家資格化した際には、それをベースにペナルティー制度も設けていく必要があると思います。
スポーツ界に横連携を
二宮: 現在、部活動の地域展開は、中学校を中心に進めていますが、国家資格制度ができた場合、中学校の体育の先生は教員免許を持っていますよね。これに加え、スポーツ指導員の資格が必要だということでしょうか?
遠藤: 既に教員免許を持っている指導者は必要ないと思っていますが、そのあたりの整備はもう少し考えていく必要がありますね。
二宮: たとえば少年野球などでは、野球好きの方が指導しているケースもある。
遠藤: 個人でやっている人には強制できないんですよね。地域スポーツとして、スポーツクラブなり、スポーツ協会なりに連動した人は少なくとも国家資格取得を義務付けることになります。元々は、地域の指導者って、心意気だけで教えている人がいっぱいいる。ただやっぱり、これからはケガのリスクもあるため、保険にも入ってもらうことになるでしょう。そのためにもスポーツ指導員の国家資格をきっちり持っている、ということが大事かなと考えています。
二宮: その方が、子どもを預ける親御さんも安心するでしょう。国家資格があることで、教える側もより責任と誇りを持つはずです。伊藤さん、個別の資格制度は以前からリーフラスでも設けていると、うかがいました。
伊藤: 当社の場合、当社基準の資格を有していないと現場には立てません。その中身はJSPOと同じ。安全性とか、言葉掛けなど、子どもにスポーツを教えるために必要な知識をちゃんと持っていないと、現場に立たせられません。
二宮: ちなみに、指導員の国家資格化は、いつぐらいを目処に?
遠藤: いま、「早くやれ」と尻を叩いているところです。できれば1年以内に目指したいところですが、なかなか簡単にはいきません。
二宮: 遠藤会長は日本スポーツ政策推進機構の会長も兼務されています。
遠藤: この機構は、スポーツの経団連と呼んでいます。スポーツ界は縦社会。JOC(日本オリンピック委員会)はJOC、JSPOはJSPO、日本パラスポーツ協会は日本パラスポーツ協会といった具合に、ほとんど横の連携がなかった。いろいろなスポーツが関係しているのに、全くバラバラ。そこでスポーツ界をトータルした組織をつくり、スポーツ政策を考えようと。私自身、自民党にスポーツ調査会をつくり、スポーツ議員連盟で政策をつくってきました。こういったサイクルを私がいなくなった後も続けていることが大事なんです。またスポーツ界はスポーツ界だけで生きている人が多く、中には世の中のことを知らない人もいる。スポーツと経済界、役所、政治、トータルした連携をつくっていかないと、これからのスポーツ振興につながりません。スポーツ界、社会全体へと橋渡しをしていくために必要な政策を提言し、つくっていくために4年前に、この機構を立ち上げました。いまも、いろいろなテーマで議論し、活動しています。
(鼎談構成・写真/杉浦泰介)
<遠藤利明(えんどう・としあき)プロフィール>
公益財団法人日本スポーツ協会会長。1950年1月17日、山形県生まれ。中央大学法学部に入学後、ラグビーを始める。ポジションはスクラムの最前線を担うプロップを務めた。大学卒業後、山形県議会議員を経て、93年に衆議院議員に当選。以降、文部科学副大臣、農林水産委員会委員長、自民党幹事長代理、自民党総務会長を経験した。26年1月に政界引退するまで10度当選した。東京オリンピック・パラリンピックに合わせて設けられた初代オリンピック・パラリンピック担当大臣に就任。東京大会組織委員会の副会長も務めた。ラグビー、柔道の経験者で、長くスポーツ行政に注力してきた。23年6月から現職。一般財団法人日本スポーツ政策推進機構の会長も務めている。
<伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>
1963年、愛知県出身。琉球大学教育学部卒。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時より、スポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導など、所謂「スポーツ根性主義」を否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱。子ども向けスポーツスクール会員数、スクール数ともに4年連続国内No.1、部活動受託校数は2年連続国内No.1、支援部活動数も国内No.1(※1)の実績を誇る(2025年12月現在)。2025年10月、日本のスポーツ企業として初めてNASDAQに上場を果たす。社外活動として、スポーツ産業推進協議会代表者、経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会委員、日本民間教育協議会正会員、一般社団法人日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員ほか。
<二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>
1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士後期課程修了・博士(学術)。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)、『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)など著者多数。
※1
*スポーツスクール会員数4年連続 国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較
・会員数の定義として、会員が同種目・異種目に関わらず、複数のスクールに通う場合はスクール数と同数とする。
*スポーツスクールスクール数4年連続 国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社のスクール数で比較
・キッズ・小学生で分かれている場合は、それぞれを1スクールとする。
*部活動受託校数2年連続 国内No.1
・部活動支援事業売上高上位3社の2025年の受託校数を比較
*支援部活動数 国内No.1
・部活動支援事業売上高上位3社の2025年の支援部活動数を比較
株式会社 東京商工リサーチ調べ 2025年12月時点