第17回「部活動は、まちづくりの所産」ゲスト芦立訓氏
二宮清純: 今回のゲストはスポーツ振興を目的として設置された日本スポーツ振興センター(JSC)5代目理事長の芦立訓さんです。
芦立訓: 本日はよろしくお願いいたします。
二宮: 政府は部活動改革の関連経費について、2025年度補正予算82億円と2026年度予算57億円の計139億円を計上していると発表しました。JSCとしては、部活動の地域展開をどうサポートしようと考えていますか?
芦立: 我々がやっている事業の柱のひとつが、スポーツ振興くじの販売です。何のために販売しているのかというと、国の強化費だけでは足りないNF(国内競技団体)に対する支援策が半分、それから地域スポーツを下支えするための助成が半分です。つまり部活動の地域展開は、我々の大目的と言ってもいい。当初、部活動地域展開は教員の多忙化対策のような文脈で強く語られていた側面がありました。部活動地域展開が、地域でスポーツを展開していくための基盤づくりのひとつとして位置付けられれば、まさに我々が扱っているスポーツくじが最初に支えなければなりません。
二宮: 実際に部活動の地域展開を事業として運営されている側としては、いかがでしょうか?
伊藤清隆: 今、当社が契約している自治体は、国からの助成ではなく各自治体の予算で部活動の地域展開を先行して進めています。部活動の地域展開を進めていない自治体の首長とお話をすると、「ぜひ、進めたいんだけど予算がない」と言われます。そうすると、受益者負担にならざるを得ない。しかし、ご家庭によって経済的格差もあるので、紛糾している状況です。もしtotoの助成が入ってくれば、裕福ではない自治体も部活動の地域展開を進められる。部活動の地域展開は、日本のスポーツを劇的に良くしていく、あるいは地域にスポーツが根付いていくチャンスだと捉えています。
二宮: 受益者負担については、避けて通れない道だと思います。これまでスポーツはタダというイメージを持つ人が少なくなかった。しかし、皆さん学習塾にはお金を払いながら、「スポーツはタダでやらせろ」というのは、もう通らない話でしょう。だからと言って、伊藤社長がおっしゃったように、地域の経済格差をどうするか、という問題は放置できません。
芦立: JSCとしては、地域展開を事業化しているわけではないので、受益者負担の問題を言及する立場にはありません。その一方で、我々が部活動の地域展開に対して何もしないわけにはいかない。今年でスポーツくじが全国発売を始めてちょうど25周年になります。25周年を迎えるにあたって、今までいただいた経費を地方公共団体にどれだけ還元できているかを調べてみました。すると、実は4分の1の自治体が、今まで一度もスポーツくじの助成金を受け取っていないということが分かりました。
二宮: それはただ受け取っていないのか、申請しながら却下されたケースが多いのか?
芦立: その詳細までは現時点で分かりませんが、少なくとも我々から拠出した記録はありません。それを踏まえ、今年からは試行的に進めていきたいのが、全ての自治体に一律同一金額を助成すること。「どこかで線引きすべきだ」という声もありますが、まずはスポーツ振興に寄付していただいたものを、全自治体にお返ししようと考えています。現状のtotoの売り上げでは、一律数十万円となりますが、今後はtotoの売り上げを伸ばしていくことによって、増やしていきたい。また自治体の規模によって、助成の手続きを踏むことすら大変なところもあるでしょう。補助金ではなくて交付金というかたちで渡すことを計画しています。
地方自治の根幹
二宮: 地方に分配することについて、伊藤社長はどうお考えですか?
伊藤: 本当に素晴らしいことだと思います。地方自治体によっては、国からの予算があるのに使おうとしない。つまり申請しないというケースをよく聞きます。
二宮: 申請の仕方が難しいのでしょうか?
伊藤: そんなことありません。自治体から相談を受けて我々が手伝うこともありますが、多くの自治体が、申請のやり方を分かっていないんです。国はもっと周知していく必要があるのかもしれませんね。
芦立: 自治体によって、活用していただいているところは本当によく申請していただいています。例えば、野球のバックネットが老朽化した場合、その修繕費用の大半をスポーツくじの助成で賄えるプログラムがあります。一方で、それを知らない自治体はボロボロのまま。そこも地域によって温度差があるので、工夫の余地はたくさんあると思います。
二宮: 今後、部活動の地域展開を進める上で、何が必要だと感じますか?
伊藤: 首長によって温度差があり、スポーツを後回しにされているところも残念ながらあります。子ども、スポーツが優先事項にない。それであえて申請しないところも多いと思うんです。
二宮: 部活動の地域展開をコーディネート、あるいはマネジメントする人が少ないということですね。
伊藤: その通りだと思いますね。
芦立: 地域スポーツというのは地方自治の根幹です。やはり国がやるとなると、国際競争が優先的に掲げられ、ハイパフォーマンススポーツに対する支援であったり、ドーピング対策が中心となる。他にもアスリート保護のための仲裁機構への支援や、相談窓口の設置などが先になってしまう。それぞれの自治体がスポーツのために何をするかは、首長の地域政策の一環という位置付けです。地域スポーツを広げることが、日本全体のスポーツの底上げにつながるというストーリーを示していかなければならないと思います。
二宮: スポーツの地域展開は、現在は土日、公立の中学校が対象です。今後は高校あるいは私立の学校にも広がっていくのでしょうか。
芦立: 私の個人的な思いとして言いますと、少子化が進んでいく中で、部員不足で部活動が成り立たなくなってきている。部活が成り立たないということは、中学の時に部活動を全くやらない子が地域で出てくる可能性があるということ。それは地域づくりの観点で見てもマイナスです。部活の地域移行は、スポーツに親しむ地域住民を継続的に生み育てていく側面もある。各地域がどうやって、世代間のバトンをつないでいくか。それを地域政策の主眼にしてもらいたい。
二宮: そこはJSCもサポートしていきたい、と。
芦立: もちろんです。首長を含め、地域議会の方や地域住民の方にどれだけ理解していただくかが、一番重要だと考えます。それがまちづくりのための大事な所産となると伝えていきたいと思っています。
(鼎談構成・写真/杉浦泰介)
<芦立訓(あしだて・さとし)プロフィール>
独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)理事長。1960年、宮城県出身。85年、上智大学法学部法律学科卒業後、文部省(現・文部科学省)入省。スポーツ・青少年局競技スポーツ課長、高等教育局国立大学法人支援課長、大臣官房総務課長、大臣官房審議官(スポーツ・青少年局担当)を歴任。15年、内閣官房オリンピック・パラリンピック推進本部事務局総括調整統括官等を経て、18年に文科省文部科学審議官(文教担当)に就任。20年に文部科学省退職後、2021年に現職に就いた。22年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。修士(スポーツ科学)。23年、JSC理事長に再任した。座右の銘は「我思う、故に我在り」。好きなスポーツは大相撲。
<伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>
1963年、愛知県出身。琉球大学教育学部卒。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時より、スポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導など、所謂「スポーツ根性主義」を否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱。子ども向けスポーツスクール会員数は3年連続国内No.1、部活動受託校数も国内No.1(※1)の実績を誇る(2024年12月現在)。2025年10月、日本のスポーツ企業として初めてNASDAQに上場を果たす。社外活動として、スポーツ産業推進協議会代表者、経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会委員、日本民間教育協議会正会員、一般社団法人日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員ほか。
<二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>
1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士後期課程修了・博士(学術)。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)、『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)など著者多数。
※1
*スポーツスクールの会員数3年連続 国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較
・会員数の定義として、会員が同種目・異種目に関わらず、複数のスクールに通う場合はスクール数と同数とする。
*部活動受託校数 国内No.1
・部活動支援事業売上高、上位3社の2024年の受託校数を比較
株式会社 東京商工リサーチ調べ 2024年12月時点