11月4日(日)、愛媛FCは今シーズンのホームゲーム最終戦を迎えた。
 ホーム最終戦ということで、今年も私たち愛媛FCサポーターは、試合前にニンジニアスタジアムがある愛媛県総合運動公園内の清掃活動を行った。この活動は「愛媛ゴール裏net」にて取り組んでいるボランティア活動の一環で、毎年、最終戦の試合前に、1年間お世話になったスタジアムへの感謝の気持ちを込めて、ゴミ拾い等の清掃活動を実施しているものである。
 この日も公園の東側駐車場からスタジアムに向けて、サポーター約30名でゴミ拾いを行ったのだが、例年に比べて大量のゴミが放置してあるのが見つかり、少し残念に感じた。駐車場の植え込みの中に弁当の空き容器や空き缶、ペットボトルが捨ててあったり、改修工事中のスタジアム外周にもタバコの吸殻などが多く散乱していた。一部の心無い方の仕業であるとは思うが、施設利用者のモラルが疑われるような状況を目の当たりにした。

 来年のスタンドのリニューアルを受けて、美しいスタジアムをアピールしたいところだが、これでは先が思いやられる。来シーズンの開幕前にも、スタジアム清掃を行う予定になっているので、少しでも良い環境へと近付けるよう、私たちが率先して気を配りながら利用者の意識改善にも努めていきたいと感じている。


 そして試合前、横断幕の準備でスタンドへ足を踏み入れると、そこには観客席(ベンチシート)を丁寧に磨いている青年がひとり。よく見ると、愛媛FCのルーキー・藤直也選手がボランティアスタッフに交じって汗を流していたのである。「今日はスタッフのお手伝い」とのことで開場後もバックスタンド入場口にてマッチデープログラムの配布など献身的に試合の運営業務をこなしていた。

 こちらが声を掛けると「研修です!」と笑顔で応えてくれたが、ベンチ入りできない悔しさを、どこか心の中で押し殺しているのであろう。それでも腐らず、熱心に働いている姿には頭が下がる思いがした。

 この日のホームゲーム最終戦には、6,000人を超える観客がスタジアムへと詰めかけ、応援も大いに盛り上がった。そのおかげか愛媛FCはザスパ草津を相手に3−1で快勝した。

 試合終了後、ひとりの偉大なプレーヤーの引退セレモニーが行われた。今季を最後に、現役引退を決意した大木勉選手である。
 大木選手は愛媛県松山市出身で、南宇和高や青山学院大で活躍後、1995年にサンフレッチェ広島に加入し、プロサッカー選手としての生活をスタートさせた。07年からは愛媛FCでプレーし、その存在感を示した。

 相手チームが試合を優位に進める重苦しいムードにおいても、途中から出場して、その悪い流れを断ち切り、一気に明るい雰囲気に変えてくれる。そんな素晴らしいプレーを魅せてくれる選手だった。まだまだピッチの上で、その雄姿を見たかったのだが、本人曰く「思い残すことはない」とハッキリ気持ちを決めていたようだ。ここは気持ち良くピッチから送り出してあげたい。

 引退セレモニーで、お別れの挨拶を行う大木選手。
「皆さんのおかげで、素晴らしいサッカー人生を送ることができました。本当に……長い間、ありがとうございました!」
 途中、感極まって言葉を詰まらせ、涙をにじませながら挨拶する姿に、私も自然と目に熱いものがあふれてきた。

 サポーターからは「18年間お疲れ様でした。ありがとうベンさん」と書かれた大きな白幕が掲げられた。厳しいプロの世界で18年間も現役を続けられるなんて、本当にすごいことだと思う。ケガで苦しんだ時期もあっただろうが、ほとんどのシーズンにおいてチームの主要メンバーとして闘い続けてきた点も実に素晴らしい。

 また、広島に所属していた頃から愛媛FCを気にかけてくれており、陰ながら支援してくれたこともあった。 そう、あなたこそ「愛媛の誇り」と思える選手だったのだ。
「オオキーススムー! ラララーラララ ラララーラララーラララー!」
 セレモニー終了後も、サポーターによる大木選手を称えるチャントの大合唱が何度も繰り返された。


 翌週の11月11日(日)、今シーズンの最終戦となる愛媛FC対ロアッソ熊本の一戦が、熊本県熊本市のKKWING(熊本県民総合運動公園陸上競技場)にて行われた。
 試合は、終盤まで一進一退の攻防が続いたが、後半のアディショナルタイム、途中出場の藤選手が、前野貴徳選手からのスルーパスを受けて決勝ゴールをあげ、見事、1−0で愛媛FCが勝利を手にした。

 前週、ホームゲームの際に裏方の仕事に汗を流していた、あの藤選手がこの日は決勝点を決めてくれたのである。彼にとっては「陰での努力が、報われた瞬間だった」と言えるプロ初ゴールではないだろうか。

 愛媛を象徴するベテラン選手が引退した翌週、愛媛の若きキャプテンからのボールを、そのまま愛媛生え抜きのルーキーが決めた。この勝利は、とても印象深いものとして心に残った。それはクラブの明るい未来を予感させるような場面に出逢えたからかもしれない。大木選手の引退は本当に寂しい出来事だったが、シーズン最終戦の勝利は実にすがすがしく、晴れ晴れとした気持ちで愛媛への帰路に着くことができた。

 去る者がいれば、また、その意志を受け継ぎ、新たな歴史を紡ぐ者が現れる――。愛媛FCの未来を築く若き選手たち。ぜひ大木選手をしのぐほどの素晴らしいプレーヤーへと成長してもらいたい。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>
 1967年5月14日生まれ、愛媛県松山市出身。
 愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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