第288回 アジアの熱風に吹かれて ~ベトナムで見つけた「のびしろ」~

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 とにかく暑い。日差しが強い! ダナンの空港に降り立った瞬間から、ベトナムの太陽は容赦なく僕の肌を焼いてくる。今回の舞台は「IRONMAN Vietnam Da Nang」。昨年負った上腕骨骨頭骨折という怪我からの完全復活を目指す僕にとって、このレースは今の自分がどこまで戻れているかを確認するための、いわば「リハビリの仕上げ」のような位置づけだった。

 

 結果から言えば、なんとか10時間の長旅を走り抜くことができた。スイムではようやく肩の可動域が戻ってきたことを実感し、さらには「泳ぎながらの用足し」という、トライアスリートとしての新たな特殊技能!?まで習得してしまった。バイクでは強烈な日差しに背中を焼かれ、ランでは氷を詰め込んだハットを相棒に、一歩一歩コツコツと距離を刻む。自分のカラダをいかに思うように進めるか。ちょっと他人を見ているような不思議な感覚さえあった。その終点、赤いカーペットを踏んだ瞬間に、それまでの苦痛がキラキラした思い出に変わっていく感覚。いかんいかん、こうやってまた自分に騙され、次のレースに進んでしまうのだ。

 

 しかし、今回の遠征で僕が感じたのは、自身の復活への手応えだけではない。それ以上に強く印象に残ったのが、アジア諸国の凄まじい「熱気」だ。近年、東南アジアでのマラソンやトライアスロンの人気は、僕たちの想像を遥かに超えるスピードで加速している。まさに「スポーツ・バブル」と言っても過言ではないだろう。

 

 例えば、最新のデータを見てみると、その勢いは一目瞭然だ。2025年のレポートによれば、タイやマレーシアではランニングとウォーキングが不動の人気を誇り、さらに筋力トレーニングへの関心も急上昇中。アジア全体では、ピックルボールが急増している。かつては「暑すぎて日中にスポーツなんて無理」と言われていた地域で、今や早朝から数万人規模のマラソン大会が当たり前のように開催されている。今回のダナンでも、早朝に泳いだり、走ったり、ダンスをしたりとビーチはさながらスポーツクラブのようだった。

 

 このスポーツ熱は、単に健康志向の高まりに留まらない。この熱狂の背景にあるのは、何と言っても「若さ」だろう。日本の平均年齢が50歳に迫ろうとしているのに対し、ベトナムは約32.8歳、マレーシアは約30.0歳と、圧倒的に若い。街全体、国全体にみなぎるエネルギーが違うのだ。

 

 彼らにとってスポーツは単なる健康維持の手段ではない。SNSで自らのライフスタイルを表現し、仲間と繋がり、新しい自分を発見するための「最高にクールなツール」として機能している。この「FOMO(取り残される恐怖)」が良い方向に作用し、スポーツウェアやギアへの投資、大会への参加費、さらにはトレーニングジムへの入会など、巨大な消費市場を生み出しているのだ。スポーツに注がれる熱量が、そのまま国の経済を回すエネルギーへと直結している。そのダイナミズムには圧倒されるばかりだ。

 

超高齢社会を迎える日本でのスポーツ

 では、そんなアジアの熱風を目の当たりにして、僕たち日本はどうすべきか。

 

「若さ」という馬力では敵わないかもしれない。だが、悲観する必要は全くない。今回のレースで僕が痛感したのは、課題があるということは、そこに「のびしろ」があるということだ。日本は、アジア諸国に先駆けて超高齢社会を迎えている。だからこそ、この「高齢化社会におけるスポーツの重要性」を示す、世界でも稀有なモデルケースとなることができるはずだ。

 

 日本には、長年培ってきたスポーツ文化の深みと、年齢を重ねてもなお挑戦し続ける情熱的なアスリートがたくさんいる。高齢者フィットネスの先進モデルを作るのもいいし、よりパーソナライズされた深いスポーツ体験を提供していくのもいい。例えば、ウェアラブルデバイスを活用した詳細な健康データ分析に基づく個別トレーニングプログラムや、機能改善を目的としたファンクショナルトレーニングは、高齢化社会における予防医療としても非常に重要になってくるだろう。

 

 また、地域コミュニティにおけるスポーツ活動の活性化は、健康寿命の延伸だけでなく、社会的な繋がりを強化し、生きがいを創出する上でも大きな役割を果たす。アジアの国々が「いつかあんな風にスポーツを楽しみたい」と憧れるような、成熟したスポーツ大国を目指す道があるはずだ。

 

 僕自身の「のびしろ」も、まだまだこれから。翌日に肩が上がらなくなったのは、まだ無理をしていた証拠。10月のアイアンマン世界選手権までに、どこまでレベルを上げられるか。課題が見つかるたびに、悔しいけどワクワクしてしまう自分がいる。

 

 僕もいつの間にか若者ではなく、高齢者に近くなってきたが、アジアの風に負けないくらいの熱い走りを、これからも見せていきたい。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17~25年まで東京都議会議員を務めた。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

 

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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