新チームでの練習が始まり、約3週間。新人を含めた多くの選手が順調にトレーニングを重ねています。昨季はリーグ優勝こそできましたが、BCリーグ王者・新潟アルビレックスBCとの独立リーググランドチャンピオンシップでは3連敗を喫しました。その悔しさがあるのでしょう。どの選手も体がしっかりできている状態で、いいスタートを切れました。
 新人選手も最初の1週間を別メニューで体力づくりにあて、いい動きをみせています。2人のルーキー投手も出来がよく、オープン戦での登板が楽しみです。特に沖縄出身の又吉克樹(西原高−IPU環太平洋大)は予想以上のピッチングをみせ、西田真二監督も高く評価しています。

 彼は右のサイドハンドながら144キロの速球を投げ、フォームに躍動感があります。単にボールが速いだけでなく制球力があり、自滅しないタイプです。野球への取り組みも素晴らしく、さらなる成長を感じさせます。ピッチャーとしての完成度は、チームの中でもトップレベルでしょう。

 投げるのが大好きな選手ですから、まずは実戦で力試しをした上で、できれば先発で経験を積ませたい逸材です。アピール次第では、このオフにドラフト指名を受けることも十分に可能だとみてます。ぜひ、皆さんも又吉の名前を覚えておいてください。

 もうひとりの右腕、田村雅樹(土庄高−中部大)もコントロールが良く、球筋がきれいなピッチャーです。器用なタイプで、こちらのアドバイスをどんどん吸収していきます。まだ球速は140キロ強と右のオーバーハンドとしては物足りないため、いかに力強さを身につけるかが香川での課題です。

 田村にはぜひ目標としてほしいピッチャーがいます。それは広島の野村祐輔。彼は177センチと大きな体ではありませんが、非常にどっしりとした下半身をしています。下からの力をうまく上体から指先へ伝え、コントロールよく、かつキレのあるボールを投げているのです。
 
 田村も176センチと背格好は野村と似ています。しかし、上体に頼って投げているため、体全体の力をうまくボールに乗せられていません。これが昨年のNPB新人王との大きな違いです。本人にも既に「野村を目指せ」と話をしていますから、この1年間でどのくらい変わるか注目してみていきたいと思っています。

 そして、新人以外でも香川にきて復活を目指す右腕がいます。愛媛にいた篠原慎平です。彼は高校からアイランドリーグ入りし、本格派右腕としてドラフト指名候補にも挙がっていました。彼を初めて見た時は、僕もまだ現役でしたが、「すごいピッチャーがいるな」と思ったものです。

 ところが、肩の故障から彼の野球人生は大きな回り道を強いられることになりました。昨年、一昨年は公式戦での登板はなし。愛媛を退団し、トライアウトを再受験してラストチャンスに賭けています。

 万全な状態でない中、トライアウトで140キロを出したように、彼の能力は優れたものがあります。ただ、何年もまともに投げていないため、気づかないうちに肩をかばった投げ方になっていました。これでは余計に身体に負担がかかり、悪循環に陥ります。

 何より、投げることへの不安を乗り越えることが復活への第一歩です。僕は最初に、彼の状態を的確に把握するためにも「何かあったら隠さず話してほしい」と告げました。選手はケガや違和感といった自分にマイナスの話はどうしても隠したがるものですが、それは決してプラスにはなりません。自分ひとりでもがいて焦るくらいなら、一緒に解決方法を考えよう。篠原も少し気がラクになったのか、今は香川で前向きに練習を取り組んでいます。

 もちろん技術的には故障を再発しないフォームを確立することが大事です。今は無理のないテイクバックから投げるスタイルを固めている最中で、これで腕が触れるようになれば、復活どころか、より進化した篠原の姿が見られるかもしれません。150キロの剛速球を投げるのも夢ではないでしょう。

 かなり実戦から離れていますから、状態を見極めながら、まずはオープン戦で登板機会をつくっていく予定です。そしてシーズン中も戦力として活躍してくれると信じています。

 実はもうひとり、ピッチャーでは竹田隼人(呉港高−四国学院大)をドラフト指名していたのですが、メディカルチェックでヒジに故障が見つかり、手術をすることになりました。彼は140キロ台後半のスピードボールを投げ、ドラフト候補にもあがっていた素材です。即戦力として考えていた選手だっただけに非常に残念です。選手契約はしていませんが、リハビリは香川で続けます。シーズン終盤での選手登録を目指し、こちらも復帰をサポートしていくつもりです。

 竹田の故障という誤算はあったものの、現時点での投手力は昨年と比較してもアップしており、開幕がとても楽しみです。新戦力を含めた先発、中継ぎ、抑えの役割分担のプランもできあがりつつあります。後は実際に試合の中で、どんなピッチングを見せてくれるのか。すべてがうまくいくことはないでしょうが、選手とともに考えながら、日々、成長できればと考えています。今季も応援、よろしくお願いします。
 

伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
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