いよいよ3月2日、Jリーグが開幕します。今季は1993年にJリーグがスタートしてちょうど20年目の節目です。昨季のJ1では終盤まで優勝争いが続いたように、メモリアルシーズンも熱い戦いを期待しましょう。
 広島がスーパー杯でみせた強さ

 今季の優勝候補の筆頭は、昨季の覇者・サンフレッチェ広島と見ています。26日の富士ゼロックス・スーパー杯では攻撃力の高い柏レイソルを完封しました。監督、選手などの陣容は昨季から大きく変わらず、守りの要だった森脇良太(現浦和)が抜けても大幅な戦力ダウンは感じられなかったですね。キャンプを通じて既存選手の底上げなども行えたのではないでしょうか。

 スーパー杯の試合を少し振り返ってみると、広島はチーム内の約束事が明確で、選手たちがそれを忠実にこなしていました。特に、攻撃時にDFラインの選手が前線までオーバーラップしていくことを意識していたように感じます。DFが流れの中で攻撃参加すると、相手の守備陣にとっての“予想外”を誘発する効果があるのです。

 わかりやすかったのが得点シーンでしょう。左サイドからのクロスに反応したのは、センターバックの水本裕貴でした。昨季まではワントップで小柄なFW佐藤寿人くらいしかゴール前に入っていかなかった場面です。ここに高さのある水本が入り込む“予想外”が生じたことで、柏のDFは彼の存在を意識せざるを得なくなりました。それはすなわち、佐藤に対するマークが緩くなったことを意味します。結果、水本が頭で後ろに逸らしたボールを佐藤がボレーで合わせることができました。もし、ゴール前に佐藤ひとりしかいなかったとすれば、柏のDFに難なくクリアされていたでしょう。

 広島はDFがただ高い位置でプレーしていたわけではありません。水本などDFラインの選手が攻め上がった時は、ボランチの選手がしっかりとカバーに入っていました。当たり前のように行っていたように映りますが、異なるポジションのカバーに入ることは意外と難しいものです。広島の強みは、攻撃参加などで空いたポジションを守りに残った選手たちが補えること。選手が流動的に動いても崩れない組織ができあがってきています。

 広島以外でも、ベガルタ仙台や柏はチーム構成に大きな変化は見られません。イチからチームづくりを始めなくても良かったわけですから、これらのクラブは開幕から安定した戦いができるでしょう。

 昨季3位の浦和レッズも前年の主力をベースに、森脇やFW興梠慎三など、即戦力の選手をうまく補強しました。興梠もチームにフィットしているようです。彼が加入することで、前へのスピードは確実にアップします。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が志向する攻撃的なサッカーがより洗練されるのは、見る側としては楽しみですね。

 鹿島、大事なのは負けないこと

 一方で、心配なのが古巣の鹿島アントラーズです。昨季に続いて、監督、選手ともに大きく顔触れが変わりました。パスの供給役のMF野沢拓也が戻ってきたのは心強いですが、受け手となるFWも新加入のダヴィです。これにより、中盤から前線へかけての組み立て方を再構成する必要が出てきました。昨季J2得点王・ダヴィの能力がいくら高くても、連係がうまくとれなくてはゴール量産は難しいでしょう。基本的に鹿島は安定したディフェンスから、ボールを奪い、速攻と遅攻を使い分けてゴールに迫るスタイルです。ダヴィには少しでも早くチームのコンセプトに順応してほしいですね。

 もちろん、ダヴィの加入によるプラス面もあります。それはFW大迫勇也への相手の警戒が軽減されることです。昨季の大迫はワントップとして起用されるケースが増えました。ただ、どうしても集中的にディフェンスを受けるため、なかなかフリーにさせてもらえなかったのも事実です。今季はダヴィと2トップのコンビを組むことが予想されますから、相手DFはターゲットマンの大迫と裏へ飛び出すダヴィの両方をケアする必要が出てきます。前線のバリエーションが増えるのは今季の鹿島の楽しみなところです。

 前回も書いたように、新監督のトニーニョ・セレーゾは守備ありきのスタイルを志向しています。第1次セレーゾ政権時(00年〜05年)は、前線からのハイプレスを徹底していました。前線から相手の攻めるコースを規制して、できるだけ早い段階でボールを奪う。今季の鹿島はそのハイプレスを再び取り入れてくると見ています。

 攻撃に関しては、昨季は連動性が見られませんでした。ボールを動かすたびに選手が止まり、次にパスを受けるべき選手が動き出していないなど、ぎくしゃくした印象を受けたものです。24日のプレシーズンマッチ(対水戸)を見ると、多少、連動性は出てくるようになってきてきました。しかし、守から攻へ転じる時には、まだ戸惑っている観があります。速攻なのか、遅攻なのか、選手間での意思を十分に共有できていないのでしょう。この部分は時間をかけて、すり合わせていくしかありません。鹿島にとっては開幕から大事なのは、負けないこと。負けが込むとどうしても戦術やメンバー変更を考えてしまうものです。サガン鳥栖との開幕戦(アウェー)では、まず負けないためにしっかりと守ることを意識してほしいですね。

 20年目、Jへの提案

 J2についても触れておきましょう。今季はJ1から降格したガンバ大阪が中心になることは間違いありません。日本代表MF遠藤保仁、DF今野泰幸ら主力が多く残留し、戦力は他クラブを大きく上回っています。Jリーグを代表するクラブのひとつですから、個人的には1年でJ1に戻ってきてほしいと感じています。
 
 G大阪が降格した主な要因は、守りが崩壊状態だったからです。昨季はJ1最多得点(67)の一方で、失点が同ワースト2位(65)でした。今季はディフェンス面を徹底的に整備してくるでしょう。このチームには今野という日本を代表するDFがいます。今までは攻撃第一のチームだっただけに、守備に比重を置けばバランスのとれたサッカーを展開できるのではないでしょうか。近年J1タイトルを獲得した広島や柏の共通点は、J2降格を経験して、這い上がってきたということ。G大阪にも、降格の悔しさをバネに、J1で再び頂点に立てるクラブに蘇ってほしいと願っています。

 また、昨季は初めてプレーオフ(PO)制度が導入され、終盤まで熱い戦いが続きました。PO圏内を争うクラブ間の実力は拮抗しています。その中を勝ち抜いていくポイントは、監督の考えたゲームプランを選手たちが忠実に実行することです。監督は選手がどのような考えでプレーしたいのかを把握すべきですし、選手も積極的に自らの意向を伝えるべきでしょう。広島の森保一監督や仙台の手倉森誠監督は、その辺のコミュニケーション力にも優れているように感じます。自分の考えを伝え、選手の意見もピックアップしながらチームをまとめあげる。監督と選手の相互理解が深まった結果が、昨季の好成績につながっているのではないでしょうか。

 今季、20年目を迎えたJリーグで実現できたらいいなと考えていることがあります。それは、20年前、10年前、そして現在の試合や選手たちのプレーを比較するのです。たとえば、スタジアムで試合前に、20年前の同じ対戦カードの試合映像を流した後に、実際の試合を観戦する。そうすることで「20年前は考える時間と動き出すスペースが多かった」「スピード感が全然違う」といった違いがはっきり分かると思っています。

 現在、Jリーグのピッチでボールを追いかけているのは、Jリーグがスタートした時に子供だった選手たちがほとんどです。彼らが、「いつかJリーガーになる」と夢見て努力してきた結果が、リーグの成長につながっています。近年は多くの日本人選手が海外に出て行ってしまい、Jリーグがつまらなくなったという声も聞こえてきます。だからこそ、昔のJリーグと比べることで、今のJリーグの魅力を実感してほしいのです。Jリーグの関係者の皆さんには、ぜひ僕のプランを検討してもらえるとうれしいですね。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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