みなさんがご存知のとおり、日本は26日に行われたブラジルW杯最終予選ヨルダン戦に1−2で敗れ、予選突破を確定させることができませんでした。ホームで6−0の大勝を収めた相手に、なぜ日本は敗れてしまったのか。最大の要因は、普段のザックジャパンの戦い方ができなかったことでしょう。
 香川は使われてこそ生きる

 ヨルダン戦は、MF本田圭佑(CSKAモスクワ)、DF長友佑都(インテル)を負傷で欠いた試合となりました。本田が務めてきたトップ下にはMF香川真司(マンU)、長友の左サイドバックにはDF酒井高徳(シュツットガルト)が起用されました。これまでのザックジャパンは、長友と香川のいる左サイドからチャンスを多くつくりだしてきました。しかし、ヨルダン戦の左MFには清武弘嗣(ニュルンベルク)が入り、生命線ともいえる左サイドの組み合わせがまったく異なったものになったのです。

 その結果、ヨルダン戦では左サイドからの攻撃が少なくなり、真ん中から切り崩していくかたちが多くなりました。守る側からしてみれば、人数が揃っている中央を攻め込まれても対応は容易です。ボール保持者をすぐ複数の選手で囲むことができますからね。

 日本としては香川の高いキープ力が生きれば問題なかったのでしょうが、彼はどちらかというと“使われて生きるタイプ”。守から攻へ移り変わる際にボールを受ける選手ではありません。今までは本田がトップ下でボールを収めることで、香川は前を向いてスペースへ動きだす時間をつくれていました。本田の欠場により、香川は持ち味を出しにくくなってしまったと言えるでしょう。

 長友の不在も響きました。彼は攻撃に移った時に、すぐにオーバーラップしてボールを受けられる選手です。左サイドで連係する香川の態勢が不十分な時は、長友がパスの受け手役になったり、相手の右サイドバックを押し下げる役割を担っていました。代役の酒井高は、時折いいオーバーラップもありましたが、上がるタイミングが遅れるなど、長友に比べると力不足と言わざるを得なかったですね。

 目についた消極的なパス選択

 チーム全体も本来の姿ではありませんでした。ヨルダンのロングボール戦法に合わせるかのように、長いボールを蹴り合ってしまいました。ザックジャパンは細かくパスをつないだ上での、縦へ速いボールを入れるのが真骨頂です。当日のピッチはでこぼこしており、パス回しに不利な環境だったとはいえ、攻めのかたちが整っていない時にボールを放り込んでも跳ね返されるだけです。組み立てを経ずにボールを蹴り込む戦い方では、しっかりと組織を築いていた相手の守備を揺さぶれません。

 また、シュートを打てる時にパスを選択する消極的なシーンも多く見受けられました。密集地や、角度がないところからでもシュートを打てば、たとえ外しても次の機会に、相手のDFは「シュートなのか、パスなのか」と迷いが生じます。もちろん、アタッキングエリアでのパスがすべて悪いというわけではありません。ただ、もう少し「俺が、俺が」とシュートを打つことができれば、ただのパスが、“予想外のパス”になってゴールチャンスにつながったのではないかと感じます。

 このようにヨルダン戦は終始攻めあぐねたものの、後半の香川の得点シーンはよかったと思います。清武がPA手前から少し下がりながら受けたボールを右のアウトサイドでチョンと浮かしてDFラインの裏へ送り、ゴールに向かって走りだしていた香川が冷静に決めました。やはり、香川は前を向いてプレーできれば決定的な仕事をこなせる選手です。今後もああいうかたちが、ザックジャパンの得点パターンになっていけばおもしろいですね。

 改善必要なセットプレーの守備

 次に、2失点を喫した守備を分析してみます。1点目は前半アディショナルタイムに突入したところでのCKから。なぜ、日本はあっさりと先制を許してしまったのでしょうか。

 まず考えられるのが、終了間際という時間帯で選手の緊張が少し緩んでしまった点です。サッカーでは前半、後半それぞれの開始直後と終了直前は危険な時間帯であるといわれます。にもかかわらず日本の選手は足が止まり、走り込んできたヨルダンの選手に誰も体を寄せていませんでした。「ここは集中しないと」と意識していれば、体は自然と反応するものです。厳しいですが、気持ちのどこかに「あとワンプレーで終わり」との油断があったように見えました。

 足が止まっていたがゆえに、相手を自由にさせてしまったことも原因のひとつです。セットプレーでは、キッカーに自由にコースを狙われます。ですから、守る側はマークを確定し、その選手に負けないことが求められます。日本としては、走り込んでくる選手を自由にさせないことがピンチを脱する条件でした。

 あの場面、マークについていたのはおそらくMF岡崎慎司(シュツットガルト)だと思いますが、体をくっつけて相手を走らせないようにしたり、ジャンプさせないようにプレーができていれば、失点を防げた可能性が高かったでしょう。今後は危険な時間帯でのセットプレーへの考え方と守り方を改善しないといけません。

 吉田に求められる我慢の守備

 続く2点目は、カウンターからゴールを奪われました。あの場面では、DF吉田麻也(サウサンプトン)の1対1の強さが裏目に出てしまったように感じました。彼のアグレッシブにボールを奪いに行く姿勢は評価できます。ただ、あの時は酒井高がスピードで振り切られ、プレスにいった吉田が抜かれれば、後ろはGKだけ。もう少し我慢する必要がありました。

 具体的には、ヨルダンの選手を外に追い込みながら、味方が守備に戻る時間をつくってほしかったですね。また、コースを規制することでGKもシュートコースの予測がしやすくなります。ストッパーとして、味方を有利に、相手を不利にする仕事をしてほしいシーンでした。

 前に出るべきか、我慢するべきか。この判断は非常に難しいものです。私が現役時代の時は、同様の状況では相手がコントロールミスでもしない限りは飛び込みませんでした。ボールを奪えればいいですが、もし、かわされて抜かれた場合は無責任な守備になるからです。こういった見極めは私も経験を積むことでできるようになりました。吉田には苦い経験を糧にさらなる成長を望みます。。

 確かに悔しい敗戦でしたが、日本はグループBの首位を保ち、あと勝ち点1を獲得すればW杯出場権を得る優位な状況に変わりはありません。しかも、次のオーストラリア戦(6月4日)の会場は埼玉スタジアム2002。過去、日本はすべてアウェーで予選突破を決めてきただけに、これはこれで楽しみです。史上初のホームでの歓喜の瞬間を心待ちにしながら、みなさんもザックジャパンに熱い声援を送りましょう!

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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