米国の51番目の州昇格をめぐるプエルトリコの住民投票で賛成が過半数を占めたのは昨年11月のことだ。だが、バラク・オバマ大統領は、この問題には慎重だと伝えられている。
 周知のようにプエルトリコはグアムやバージン諸島などと同じ米国の自治領で、大統領選での投票権は与えられていない。これを受け、地元では「2等市民だ」との不満の声が絶えない。一方で51番目の州になれば連邦税を徴収されることに加え、カリブ海に花咲いた独自のスペイン語圏文化が損なわれかねないと州移行に難色を示す向きもあるという。

 確かにプエルトリコには独自の文化がある。少年の私にそれを教えてくれたのがアルフレド・エスカレラというボクサーだ。
 エスカレラは、WBC世界ジュニアライト級王者・柴田国明が4度目の防衛戦の相手として迎えたプエルトリカンで、戦前の予想は柴田有利だった。ところがこのプエルトリカン、恐ろしく強く、チャンピオンを2ラウンドで沈めた。

 驚いたのは、その直後だ。無傷の顔のまま、なんとサルサを踊り始めたのだ。もちろんサルサなんて、それまで見たことも聞いたこともない。「ボクシングはサルサと一緒さ」。エスカレラはそう言い、次のような言葉をつないだ。「プエルトリコに根ざす独特のリズムが自分の強さの背景にはある」
 この後、エスカレラは10度の防衛に成功する。ニカラグア人のアレクシス・アルゲリョとの2度の死闘は今も語り草だ。

 話を野球に戻そう。WBC2次ラウンドでプエルトリコが米国を4対3で退け、決勝トーナメント進出を決めた際の歓喜には、“支配国”へのレジスタンスも幾分か含まれていたのではないか。今にもサルサを踊りだしそうだった。

 恐るべしプエルトリコ。この勢いとまとまりは侮れないと感じたが、ついには日本もカリブのアウトサイダーに食われてしまった。現役バリバリのメジャーリーガーがスタメンに4人も名を連ねたチームをアウトサイダー視するのはどうかという気もするが、代表チームとしては未知数で過去2回のWBCは全て2次ラウンドで姿を消していた。それだけに今大会の躍進は眩しく映る。

 サッカーW杯や五輪とは比べられないにしても、WBCという野球世界一を決める大会で、小国ですらない自治領の島が頂点に立てば、偉業としてスポーツ史に刻まれるだろう。

<この原稿は13年3月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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