第1215回 韓国サッカー「積弊」一掃できるか――今が正念場
韓国には3つの「閥」があると言われる。「学閥」「地域閥」、そして「財閥」。この3つは密接にからみ合い、時に反目しながらも、国家運営や国家の意思形成に、今なお多大な影響を及ぼし続けている。そして、それは国民的スポーツであるサッカーにおいても、例外ではない。
6月30日、国会で聴聞会が開かれ、サッカーW杯北中米大会において1次リーグで敗退し、辞任に追い込まれた韓国代表の洪明甫(ホン・ミョンボ)前監督と、大会終了後に辞任した鄭夢奎(チョン・モンギュ)大韓サッカー協会前会長が出席した。そこでは2人が高麗大の同窓であることを理由に縁故疑惑が指摘されもした。
先走っているのは李在明(イ・ジェミョン)大統領だ。「無能な人を指揮官に選べば結果は明らかだ」。寅さんじゃないけど、それを言っちゃあ、おしめえよ。配慮がないにも程がある。
いずれにしても政権は、チーム強化やW杯出場には「多額の税金」(李大統領)が投入されている以上、「国民を虚脱感に陥れた」(同)罪は重く、言葉は悪いが、国民のガス抜きのためにも吊し上げの場が必要だと考えたのだろう。お隣の国のこととはいえ、スポーツが権力者の玩具にされているようで不愉快な気分になる。
7月15日付けの小欄で、韓国に特有の構造とも言える政治と財閥とサッカー(スポーツ)の関係性について述べた。この鉄のトライアングルの源流は、韓国が「国家的成功体験」と位置付ける1988年のソウル五輪開催、その前段の招致活動にまで遡る。
そもそも88年大会の大本命は名古屋だった。ソウルは「3、4票がせいぜい」と酷評されていた。ところがフタを開けると52票対27票。ソウルの圧勝に終わった。
この逆転劇の立役者こそ、現代グループの創業者で、五輪推進委員会委員長の鄭周永(チョン・ジュヨン)氏である。貧しい寒村の生まれで、学歴は小学校卒。生活のため仕事を転々としながら、一代で巨大コングロマリットを築き上げた。その6男が現代重工業社長を経て国会議員となった鄭夢準(チョン・モンジュン)氏だ。大韓サッカー協会会長、FIFA副会長なども歴任。辞任した夢奎氏は、いとこにあたる。
五輪招致を巡り、勝敗を分けたのは、リーダーの熱量と資金力だった。周永氏は多額の私財を投じたと言われる。また自社のフランクフルト支店を欧州での活動拠点にあてた。息子の夢準氏には広報部門を担当させた。現代グループの総力を結集して招致活動に取り組んだ経験が、後のW杯招致にも生きたと言われる。
軍政から民政への移行期、韓国は社会の成熟度を世界に示すためにスポーツを必要とした。現代グループは、それを資金面で支えた。しかし、一族支配があまりにも長期に及ぶと、情実人事がはびこり、既得権益が固定化され、やがて腐臭を放つようになる。まさに、今の韓国サッカーの姿だ。それこそ組織の「積幣」が目に見えるかたちで一掃されない限り、“アジアの虎”の復活は望めまい。ネポティズムをどう退治するか。今が正念場である。
<この原稿は26年8月5日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>
