政府から国民栄誉賞を授与されることが決定した長嶋茂雄と松井秀喜の出会いは21年前に遡る。
 92年のドラフト会議、4球団の指名が重なる中、“当たりくじ”を引き当てたのが当時の巨人監督・長嶋だった。

 翌年、キャンプがスタートするなりミスターは「4番1000日構想」なる壮大なプランをブチ上げた。
 3年で松井を巨人の4番、すなわち球界を代表する強打者に育て上げると宣言したのである。
 ミスターは松井の素振りにも付き添い、随時、アドバイスを送った。遠征の際にはホテルの自室に呼び、素振りの音に耳を澄ませた。
 その甲斐あって入団4年目の96年、松井は打率3割1分4厘、38本塁打、99打点という好成績を残し、初めてリーグMVPに輝いたのである。

 その直後に行ったインタビューで、私は松井に直截に訊ねた。
――長嶋さんは「素振りの音で松井の調子がわかる」と語っている。具体的に、どんな音がいいんでしょう?
「高くて鋭い音がいいというんです。“ヒュッ”と空気を斬り裂くような音が一番いいと。逆に悪い時は“ボワッ”という音がする。
 スイングが鈍いため、空気が乱れてしまうというんです。確かに音が(部屋に)広がっていく時は、試合でも、あまりいい結果が出ないですね」

 こう書くと、何やら荘厳な儀式をイメージしがちだが、厳しい中にもクスッとさせるエピソードが残っている。
「遠征先で、監督の部屋に呼ばれて素振りをしていた時のことです。途中で“よーし、1分休憩”となった。その間に呼吸を整えようとすると“よーし、いってみよう!”。まだ10秒もたっていないんですよ。こっちは息をゼエゼエさせているのに。“おいおい、どこが1分やねん!?”と思わず突っ込みを入れそうになりましたよ」
 想像するだけで吹き出しそうになる。

 さらに松井は続けた。
「96年の日本シリーズ開幕前のことですよ。ホテルのミーティングルームに全員集められた。そこで監督、こう話したんです。“11ゲーム差をひっくり返してリーグ優勝できたのは、キミたちがネバーギブアップしなかったからだ”って……。最前列に座っていた僕は、笑いをこらえるのに必死でしたよ」

 ミスターとゴジラ。今、振り返ってみても、この2人は最強にして最良の“師弟コンビ”だった。

<この原稿は2013年5月3日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

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