第4回 スパイクとボールが織り成す“一瞬の物語”


(写真:すべてのスパイクにmiCoach SPEED_CELLを搭載可能 写真提供:adidas)
重量、質感、形状、クッション性……選手によってまさに十人十色のこだわりが存在するフットボールギアがスパイクだ。adidasは現代フットボールプレーヤーを多角度から分析し、4つのタイプに分類。それぞれの特徴を反映させ、「nitrocharge」「predator lethal zones」「adipure 11 pro」「adizero F50」の4シリーズのスパイクを開発している。
4シリーズすべての日本モデルには日本人の足型を徹底調査・分析して生み出された「ジャパニーズマイクロフィットラスト」を採用。日本人プレーヤーにとってのジャストフィットを追求している。
[size=medium] 走りまくれ。暴れまくれ――nitrocharge[/size]

(写真:adidas)

「エナジースリングには伸縮性に富むラバー素材を採用していて、足が様々な動きをするなかで、ラバーが伸びたり縮んだりするんです。たとえば、足を踏み込んで、次の動きに移行する際にラバーが伸びてから縮むことによって生じる反発力を、次に踏み出す足のエネルギーとしてつなげていきます」
(写真:adidas)
こだわったのはそれだけではない。「ナイトロチャージ」はハードなプレーにおける選手のダメージを軽減することにも工夫を重ねた。
アッパーの中足部と後足部には、軽さと耐久性に優れ、引き裂き強度と耐摩耗性において通常の人工皮革をしのぐ「プロテクションメッシュ」を採用。これによりタフなプレーの繰り返しによるダメージを軽減し、優れたホールド性を長く維持することに成功した。
つま先とアキレス腱部分にはクッション材が内蔵された「プロテクションパッド」を搭載。相手に蹴られたり、踏まれたりするなどしてダメージを受けやすい両部を保護する。
これだけの機能がつきながら、「ナイトロチャージ」の片足重量は軽量の部類に入る255グラム。軽さと強さのバランスを追求した、これまでにはなかった新モデルと言えるだろう。
「エナジースリングのホールド性もいいし、かかとのクッション性も良い。さらに通気性も良くて軽いので、とても履きやすいスパイクです」
「ナイトロチャージ」をこう絶賛するのは、サッカー日本代表の清武弘嗣だ。清武といえば、高い技術のみならず、攻守ともに走り回ってチームに貢献するまさにエンジンプレーヤー。実際に「ナイトロチャージ」を着用しているだけに清武の言葉には説得力がある。
[size=medium] 必殺のボールスキルを解き放て――predator lethal zones[/size]

昨年6月、「プレデター」は劇的なリニューアルを果たした。大きな目玉となったのは「必殺5ゾーン」。プレーヤーがスパイクのどの位置で、どういうプレーをしているのかを分析し、「コントロール&パス」「ドライブ」「スウィートスポット」「ファーストタッチ」「ドリブル」の5つのゾーンに分類。各ゾーンにおけるボールスキルを向上させた。それらをさらに進化させたのが2013年モデルの「プレデター リーサルゾーン」だ。

(写真:adidas)
インステップ部分に配置された「ドライブゾーン」は、前モデルより約28パーセント拡大した厚みのあるジグザグ状の3Dラバーが搭載され、ロングパスや高速シュートにおけるボールスピードと飛距離をアップさせる。
インフロントキックによるサイドからのクロス、スピンやカーブをかけた高速ショットをサポートするのが「スウィートスポットゾーン」だ。ジグザグ状で粘り気のある大型3Dラバーを前作より約18パーセント拡大し、ボールの吸い付きとひっかかりやすさを高めて強力なスピンを可能にした。
つま先部分にある「ファーストタッチゾーン」は、十字形状にくぼんだ凹型ラバーがボールに吸い付きやすく、ボールの衝撃吸収にも優れた力を発揮。シャビ・エルナンデスが得意とする浮いたボールのクッションコントロールや、コントロールしながら方向転換するプレーをサポートする。
アウトサイド部分に配置された「ドリブルゾーン」には、十字形状の凸型ラバーを前作から約80パーセント拡大。ドリブル時において、足元から離れすぎず、近すぎない絶妙なボールコントロールや細かいボールタッチを実現させる。
このように、「プレデター リーサルゾーン」はあらゆるボールスキルを追求する“ボールマスター”に最適なフットウェアだ。重量も片足255グラムで軽量クラスに抑えた。
現在、FIFAコンフェデレーションズカップブラジル2013に出場しており、実際に着用しているシャビやサッカー日本代表のハーフナー・マイク、オスカルは、いずれも繊細なボールコントロールの持ち主。ハーフナーは「プレデター リーサルゾーン」についてこう語っている。
「シュートもそうですが、前線でプレーする選手にはポストプレーなど攻撃の起点となる動きが求められます。このスパイクは、限られた時間とスペースの中で的確にボールをコントロールする上で自分のプレーを支えてくれているんです」
「プレデター リーサルゾーン」が果たす役割はまだある。山口が「選手を教育してくれるスパイク」と表現するように、どの位置で、どのようにボールを操れるかが非常にわかりやすいのだ。ハーフナーも「このスパイクは是非毎日の練習で技術を磨きたい中高生に履いてほしい。必ずプレーヤーの技術を引き出してくれるはずです」と育成年代の選手への効果を期待している。
[size=medium] 素足感覚でピッチをつかめ――adipure 11 pro[/size]

「アディピュア 11 プロ」のこだわりは、足とシューズが一体化するようなフィット感。アッパー部分に採用している天然革「ウルトラソフトタウラスレザー」が素足感覚の履き心地をもたらす。片足重量265グラムは4シリーズのなかで最も重いが、山口は「軽さだけが選手のニーズではない」と語る。
(写真:adidas)

(写真:(C) J.LEAGUE PHOTOS)
その内田は「アディピュア 11 プロ」について、こう述べる。
「サイドバックは相手とのマッチアップが多く、ストップ&ゴーの連続です。長い距離も走るし、短い距離も走る。だから、走れて、軽くて、ボールタッチも助けてくれる。そういったいろんな要素をバランスよく採り入れているこのスパイクは最適です。足をしっかり守ってくれる点も気に入っています。特にかかとがしっかりしているのが助かります。adidasのスパイクは僕にとっては完璧。あとは自分がしっかり練習をして、技術を磨きたいと思います」
内田が語るようにadidasのスパイクはかかとのホールド力を重視している。かかとは足の中でも最も衝撃を繊細に感じる部分のひとつ。その衝撃ができるだけプレーに影響しないようにとの工夫がなされている。
また「アディピュア 11 プロ」はつま先部分に耐摩耗性に優れた「デュラコーティング」を採用。摩耗の激しい同箇所を保護することで、プレー中の安定感をもたらしている。高機能素材ペバックスを使用し、軽量かつ強度の高い「スプリントフレームアウトソール」も、優れたグリップ力と安定性を高めることに貢献している。90分間安定したプレーを持続したいバランサーに必須のスパイクだ。
[size=medium] 異次元のスピードでぶっちぎれ――adizero F50[/size]

(写真:adidas)
他モデルのスパイクより前方に配置されたadidasのシンボルである3ストライプスには、人工皮革をさらにステッチングで補強した「ミニマム3ストライプス」を採用(写真)。足の横ブレを低減し、ハイスピードプレー時においても力を逃さない。また、3ストライプスの向きも逆にしたことで、よりスピード感を演出させるなどデザインにもこだわった。

(写真:adidas)
言うまでもなくサッカーはスピードに乗った状態でボールをコントロールしなければならない。メッシ、香川ともに、スピードとともに柔らかいボールタッチに定評がある。軽さを求めるあまり、ボールコントロールに支障が出てしまうようでは本末転倒である。これについて、山口はこう説明する。
「余計な機能や素材を取り除いてしまえば、スパイクはいくらでも軽くできるでしょう。しかし、スパイクの最大の目的は、選手の足を守り、パフォーマンス・武器を最大限発揮させること。選手のハイパフォーマンスを引き出す構造を成しながら、どこまで軽量化できるかに挑戦したのがアディゼロ F50です」
ゆえに、「アディゼロ F50」ではワンピース構造のレザーアッパーにより、ボールコントロールに対するニーズに応えている。素材は柔らかく加工されたゴレオレザー(牛革)を採用。素材の重なりがないワンピース構造にすることで、従来以上に足あたりをよくし、ボールのフィーリングが得られやすくなっている。山口は「表面はプリント加工で手触りが少しざらざらする質感に仕上げていますので、ボールが滑りにくくもなっています」とその効果を語る。
もちろん、スパイクのもうひとつの目的である「足を守る」ことにも目配りされている。スパイクの内側に樹脂でできたパワーバンドを組み込んで補強し、衝撃から足を保護するのだ。

「この新しいモデルは、スピードに乗った状態でボールをコントロールしやすくなっています。アッパー部分が一層構造になったことで、ボールタッチがよりスムーズになり、自分の武器であるトップスピードでの正確なプレーのレベルをより高められるし、ハイスピードなゲームを展開できます。
それと、新しいモデルになって、フィット感がさらに高まったように感じます。アッパーがシンプルになったので、今まで以上にストレスがなくなりました」
(写真:(C) J.LEAGUE PHOTOS)
「スパイク開発で一番難しいのは、選手が足で感じたスパイクの感覚を的確に理解することですね。それをかたちにすることが何より重要なんです」
そう語る山口自身は今も社会人リーグでプレーを続けている。スパイクの着用感を自身の足で感じ、少しでも選手たちのニーズに近付けるためだという。また、adidasが開催する小中高生向けのイベントにも足を運び、実際に着用している学生や子供の声を拾いに行く。
「たとえば『ナイトロチャージ』は構想から約3年かけて完成させることができました。世に送り出すまでに試作した数は数えきれません。ですから、我々にとってスパイクを完成させて発売にこぎつけた段階で非常に嬉しいです。もちろん、それを履いている選手が活躍してくれるとことが一番の喜びですけどね」
[size=medium] cafusaでスピード感あふれるフットボールを[/size]

現在行われているFIFAコンフェデレーションズカップブラジル2013の公式試合球に採用されたのは、昨年のFIFAクラブワールドカップジャパン2012でも使用された「cafusa(カフサ)」。グリーンとイエローのカラーリングが、14年ワールドカップ開催地のブラジルを連想させるこのボールは、ネーミングも王国をイメージさせるものだ。「cafusa」の「ca」はポルトガル語の「carnaval(祭り)」、「fu」は「futebol(フットボール)」、「sa」は「samba(サンバ)」を語源としているのだ。
構造的な特徴はサーマルボンディング(熱接合)技術を用いた変則的な32枚のパネルだ。グリーンとイエローでデザインされた6つの円は、それぞれ4枚のパネルを組み合わせたものだ。そして白い部分が8枚のパネルで構成されている。サーマルボンディングはadidas独自の技術で、滑らかなシームレス表皮構造をつくりだすことで俊敏で繊細なボールタッチを実現させる。
長年、ボールの構造や動き方を研究している筑波大学教授の浅井武も「選手が扱いやすボール」と評し、カフサの特性をこう語る。
「カフサは少しの力でスピードも飛距離も出ます。だからクイックモーションで蹴っても、遠くに速いボールがピュッ、ピュッといくんです。『jabulani(ジャブラニ)』(FIFAワールドカップ2010南アフリカ公式試合球)と比べても、パスボールくらいのスピードである中速領域(毎秒15〜20メートル)では、カフサの方が伸びがいい。ですから、日本のようなパスサッカーには最適なボールだと言えます。シュートなど、中速領域よりも上の速度においては『ジャブラニ』の方が飛距離は出ますが、それも若干の差です」
近代サッカーはゴールに迫るスピードがより求められる。その意味で、細かいパスワークからゴールに早く向かうスタイルの日本にとってアドバンテージになり得るというわけだ。
また浅井は「『ジャブラニ』に比べるとインパクトした時の感触も少し柔らかい」と語る。
「ガーンと強く蹴った時にスクっと力が抜けていくような感じですね。ボールはインパクトした瞬間に変形します。そして元に戻ろうとする力と押している足の力が反発することによってボールが飛ぶ。その反発力がどれだけ大きいかによって、ボールの威力やスピードが決まります。ボールが大変形する現象をバックリング(座屈的変形)というのですが、カフサはその変形が大きいですね」

浅井は最後にこう語った。「スパイクとボールが交わる時間は一瞬です。しかし、その一瞬に物語がつまっている。メーカーはその物語をどうつくろうかということに頭を悩ませるわけです」
“一瞬の物語”の主人公は、もちろんプレーヤーである。
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