第330回 拓真、天心に連勝 7回ダウンの顛末

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 チャレンジャーは見せ場こそつくったものの、またしても王座には届かなかった。

 

 9月27日、トヨタアリーナ東京。WBC世界バンタム級王者・井上拓真に同級1位・那須川天心が挑んだ一戦は、3対0の判定で王者が2度目の防衛に成功した。

 

 昨年11月以来、約10カ月ぶりの再戦とあって、天心は「オレが勝った方がボクシングは盛り上がる」と意気込んでいたが、王者の卓越の技巧に屈し、返り討ちに遭った。

 

 天心にとって最大のチャンスは7回。開始20秒に得意の左ストレートを拓真の顔面にぶち込み、ダウンを奪った。

 

 まだ時間はたっぷりある。さぁ、どう詰めるか。

 

 ところが、ロープを背負ってから、王者は驚異的な粘りを発揮する。ボディブローこそ許したものの、ガードを固め決定打を許さない。

 

 試合後、拓真は「ロープ際は、自分の得意なパターン」と語り、続けた。

 

 

「ダウンは一瞬の気の緩み。本当に集中したら、ロープ際では絶対に(パンチを)もらわないという自信があった」

 

 将棋でいえば、拓真がロープ際で採った戦法は、玉(急所)を囲う「穴熊」である。それもただの「穴熊」ではなく、相手がパンチを打つタイミングに合わせ、微妙に立ち位置を変えたり、ガードの角度をずらしたりする移動式の「穴熊」だ。

 

 通常なら当たるはずのパンチがかわされる。効いているはずのパンチが流される。想像するに天心は陽炎(かげろう)と戦っているような心境に陥ったのではないか。

 

 それにしても天心の左ストレートは、いつ見ても惚れ惚れする。リーチは拓真の163センチに対し、176センチ。バンタム級での13センチ差は、かなりのアドバンテージだ。射程が長く、軌道がブレない。さらにはノーモーションで放たれるため、相手は出所が読みづらい。

 

 惜しむらくは、インファイトに、まだ甘さが垣間見えることだ。詰め切らなければならない局面で詰め切れない。至近距離での攻防は拓真が一枚も二枚も上だった。

 

 拓真の兄で現世界スーパーバンタム級4団体統一王者の尚弥もそうだが、この兄弟はダウンしても冷静で、そこからの立ち直り、そして反転攻勢が素晴らしい。日頃のトレーニングの成果であると同時に、危機管理の引き出しの多さのなせる業だ。

 

 3度目の対決は? 拓真は会見の場で「ない」と明言した上で、「天心選手が他団体のベルトを獲れば」と含みを持たせた。世界王座の統一戦ならあり得るということか。その日を楽しみに待ちたい。

 

<この原稿は『週刊漫画ゴラク』2026年10月30日号に掲載されました>

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