川淵三郎氏「FIFA、地に堕ちたり!」聞き手・二宮清純

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 28日、日本サッカー協会(JFA)は副会長の岡田武史氏が24日付けで辞任したことを発表した。岡田氏はJFAを通じて<私はこれまで、スポーツは高潔であるべきだという信条のもと、その社会的価値を大切にしてきました。しかし、今回のFIFAワールドカップをめぐる一連の対応については、私自身の信条との間に大きな隔たりがあり、それを一人のスポーツマンとして受け入れることができず、このたびの決断に至りました>とコメント。国際サッカー連盟(FIFA)やアジアサッカー連盟(AFC)に対する現執行部とのスタンスの違いが辞任の背景にあると見られている。

 

 当HP編集長・二宮清純は、北中米W杯後、JFAの相談役で、元会長の川淵三郎氏にインタビューを行なった。先のW杯におけるFIFA会長の暴走、秋春制へ移行のJリーグについて舌鋒鋭く語った「サンデー毎日」2026年10月11日号の記事を再掲する。

 

二宮清純: 国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長の暴走が目に余ります。北中米W杯後、インファンティーノ氏はW杯運営のための新会社を設立し、株式の2割を外部の投資家に売却する計画を明らかにしました。

 これによりFIFAは最大で42億ドル(約6438億円)の資金を手に入れる予定でしたが、欧州サッカー連盟(UEFA)などの反発により、撤回に追い込まれました。

 投資家の中には、ドナルド・トランプ米国大統領の娘婿の弟であるジョシュ・クシュナー氏も含まれていたといいます。

 サッカーの普及や発展、そのための環境整備に安定した財源が必要なのは理解できます。しかし、FIFAは非営利組織です。健全な商業主義であれば否定しませんが、インファンティーノ体制下のFIFAは“利益至上主義”のように映ります。

川淵三郎: 僕に言わせれば、「FIFA、地に堕ちたり!」だね。もう情けなくてね。ああいう醜態を見せられると、サッカーが嫌いになる人が増えるんじゃないかな、と心配になる。

 インファンティーノ氏について言えば、ただ儲かればいいんじゃないのと。それしか考えていないように見えて仕方がない。じゃあ、理事たちはなんで反対しないんだと。たとえば財政が豊かではないアフリカ諸国の中には、FIFAからの分配金さえ増えれば喜ぶような国もある。

 

二宮: 来年3月にはFIFA会長選があり、インファンティーノ氏は3期目を目指すとされている。要するにカネで票を買っていると?

川淵: まぁ、そう思われても仕方ないね。FIFAに24年間君臨したジョアン・アベランジェ氏に対しても、いろいろな批判はあったけど、彼には、たとえ貧乏な人でもサッカーを楽しんでもらいたい、普及のためには、できるだけ放映権料を低く抑えようという考えがあった。要するにインファンティーノ氏とは、サッカーに対する基本的な哲学が違うんですよ。

 実は北中米W杯後、帰国した田嶋幸三氏(日本サッカー協会名誉会長)に「なんでインファンティーノのやり方に誰も反対しないんだ?」と聞いたんです。彼は今でもFIFAカウンシルメンバーだからね。すると「全く聞いてなかった」と。要するにインファンティーノ氏の独断で決めたと言うんですよ。

 

二宮: そう言えば、トランプ氏への「FIFA平和賞」の授与も独断だったと聞きました。

川淵: 一事が万事だね。レッドカードを巡る問題もそうでしょう?

 

二宮: 決勝トーナメント1回戦の米国対ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で米国のフォラリン・バログンはレッドカードを受けながら、FIFAは処分を保留し、次のベルギー戦に出場しました。トランプ氏のインファンティーノ氏への電話が出場停止処分の延期につながったと見られています。絵に描いたような政治的圧力です。これに対する規律委員会からの納得のいく説明は、いまだにありません。

川淵: もしFIFAのトップがアベランジェ氏や後任のゼップ・ブラッター氏だったら、絶対にあんなことになっていませんよ。彼らにもおカネにまつわる噂はあったけど、少なくともピッチの中で起きたことに対して、外部からの介入は頑として許さなかった。そこは毅然としていた。フェアプレーを遵守しなければならない団体のトップが率先してアンフェアなことをやっているなんて、本当に信じられない。はっきり言って、こんなW杯なんて、過去に例がない。だから「FIFAは地に堕ちた」と言ったんです。

 

利益至上主義

二宮: 北中米大会では新しい試みもありました。たとえば前半と後半の中間に設けた「ハイドレーションブレイク」(飲水タイム)。熱中症対策が目的でしたが、これによりNBAやNFLのように事実上の4クオーター制になってしまった。

川淵: そもそも、なんであんな暑い時期にW杯をやるのか、という疑問もあるけど、まぁ、それはいい。飲水タイムを設けるのはいいけど、わざわざ3分間もとる必要があるのか。1分で十分なんじゃないの。空調の効いたスタジアムも屋外も一律に3分間というのも理解できない。

 決勝戦でのハーフタイムショーもいかがなものか。サッカーは規則上、ハーフタイムは15分以内と決められているのにショーの影響で30分近くかかった。こんなのサッカーに対する冒涜ですよ。サッカーをなめるにも程がある、と思ったね。

 

二宮: 今大会の参加国・地域数は48。従来の32から16も増えました。インファンティーノ氏は次回大会から、64に拡大する案を提示しています。

川淵: 要するにW杯予選ごと全部、本大会にしようということでしょ。現在、FIFAの加盟協会は211。このうち64カ国・地域が出場するとなると、3分1近くになる。果たして、これでW杯と言えるのか。誰が見たってW杯の価値が落ちるのは明白だよね。今回も1次リーグでは大差のついたゲームがたくさんあった。

 で、出場国・地域数についてですが、僕は32に戻すべきだと思う。仮に64カ国・地域が参加するとなると、とても1カ所では開催できない。日本は「2005年宣言」で、2050年までに2度目のW杯を開催することを目指す、としている。これは当然、1カ国開催を前提にしています。

 

二宮: 64カ国・地域も参加すれば、五輪のように「参加することに意義がある」となり、五輪との差別化が難しくなってしまう。

川淵: FIFAは、今回予選落ちしたイタリアや中国を出したいのかな。大会の質よりも利益の拡大を優先する姿勢には、とても同意できないね。

 

二宮: 先ほどから川淵さんはFIFAのフェアプレー精神の欠如を憂いておられますが、W杯終了後、FIFAを反面教師にして、Jリーグはクリーンなサッカーを展開する必要がある、との要望を、野々村芳和チェアマンにメールで送ったそうですね。

川淵: いや、その通りなんです。ここにコピーがありますよ。

<過去の国際大会でも一番フェアプレイ賞を取っているのは文句なしに日本。フェアプレイ世界一の日本から、模範国として世界にフェアプレイを取り戻す活動をすべきだ!>

 するとチェアマンからすぐ、それに関するガイドラインを作成したという返信があった。「Jリーグらしさ」とか「熱狂とリスペクトの両立」という文言が入っていたけど、僕はそれを見て本当に感心した。そして安心しましたよ。Jリーグは大丈夫だと……。

 

秋春制移行のメリット

二宮: そのJリーグは1993年5月、春秋制でスタートしましたが、34年目の今年、欧州と同じ秋春制に移行しました。

 野々村チェアマンは「日本における夏場のパフォーマンス低下がデータで明らかになった。これを変えていかなければならない。“谷型カーブ”を描く環境の中で選手にプレーさせることは、僕にはできない」と語っています。

川淵: 野々村チェアマンは、春秋制だと2月にスタートして12月に終わる。勝負の夏場に入ると、選手も疲れが出ていい試合ができない、と語っていた。これは確かにその通りだと思ったね。

 それ以上の問題として、春秋制のままだと、シーズンの一番大事な時期に、欧州のクラブなどに選手が取られてしまう。ファンにとってこんな不愉快なことはないですよ。

 僕は昔から欧州5大リーグ(プレミアリーグ、ラ・リーガ、ブンデスリーガ、セリエA、リーグ・アン)でレギュラーを張る選手が20人を超えれば、日本がW杯で優勝する可能性が出てくる、と言っていた。今10人くらいですか。あと10人は欲しいね。

 

二宮: 一方で川淵さんはJクラブに対し、「選手を取られることばかりでなく、取ることも考えて欲しい」と語っています。

川淵: 僕が腹立たしいのは、あのリオネル・メッシが米MLSのインテル・マイアミに移籍する前、どうしてJリーグのクラブが獲得に動かなかったのか、ということ。

 もしメッシが来ていたらホームスタジアムだけでなく、アウェーもメッシ見たさでいっぱいになりますよ。リーグ全体でものすごくプラスになっていたはず。

 

二宮: 2018年、ヴィッセル神戸にスペイン代表のアンドレス・イニエスタが加入した時、神戸のみならずリーグ全体が活気付きました。

川淵: 神戸がイニエスタを取る前、オーナーの三木谷浩史さんから連絡があり、「イニエスタを取るから、バックスタンドの入場料金を4000円くらいにしたいんだけど、どう思いますか?」と相談を受けた。それまでより1000円くらい高かったんじゃないかな。

 

二宮: 川淵さんの返事は?

川淵: 僕は一も二もなく賛成しましたよ。あれだけの選手が来るんだから、少々の値上げは当たり前だと。世界最高峰のプレーを見るには、このくらいはかかる、という感覚を日本のファンやサポーターにも身に付けてもらいたかった。実際、イニエスタ効果はリーグ全体に波及しました。

 

フェアプレー精神に立ち戻るべき

二宮: Jリーグのスタート時にはジーコ、ピエール・リトバルスキー、ゲイリー・リネカー、ラモン・ディアスら世界的な選手が参集しました。ピークを越えていたとはいえ、彼らの存在が観客動員に貢献したのは間違いありません。

川淵: サッカーに詳しくない人でも、知っている選手が必要だった。それ以上に世界が驚いたのは1994年米国W杯の優勝国ブラジルから、ドゥンガ、レオナルド、ジョルジーニョ、べべットら8人の選手が相次いでJリーグにやって来たこと。まだ彼らの報酬が低かったとはいえ、Jリーグにも野心的な経営者が多かった。選手を育成するという発想は必要だけど、それだけではダメ。せっかく秋春制に移行し、欧州とスケジュールが一緒になったのだから、向こうから選手を引っ張ってくるという攻めの姿勢も示してもらいたい。

 

二宮: 選手を鍛えるという観点からも秋春制のメリットは大きいと言われている。

川淵: 僕に言わせれば、Jクラブの練習は、本当にトロい。ケガをさせちゃいかん、とか言って指導者もきつい練習を避ける傾向にある。それこそ欧州の選手は、自分が試合に出たいものだから、練習試合でもものすごくアピールする。秋春制に移行したことで、欧州で合宿を張るJクラブが増えてきた。そこで欧州のクラブと強度の高い練習試合を組むことができるようになった。それにより、日本の選手たちが変わるきっかけになるのではないか、と期待しています。

 

二宮: 川淵さんは「スポーツが変われば、日本も変わる」と昔、おっしゃっていた。そもそも1872年、明治政府が「学制」を公布し全国各地に学校を設立した際、入学時期はドイツや英国にならって9月でした。それが1886年、政府の会計年度が「7月~翌年6月」から「4月~翌年3月」に変更されたことに伴い、4月入学に改められた。グローバルな時代、世界から優秀な学生を集めるためにも9月入学に戻した方がいいのでは……。

川淵: そういうことになればいいけど、時間がかかるだろうね。東大でも難しかったんだから。その前に大学サッカーから変えてみるという手はある。ホームスタジアムを持つなど、大学サッカーも変わらなければならない時期に来ている。

 

二宮: スペインの16年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた北中米W杯。川淵さんが印象に残った試合は?

川淵: 僕はフランスとイングランドの3位決定戦だね。イングランドが6対4で勝った。よく3位決定戦は「付録」だの「緊張感がない」だのと言う人がいるけど、全くサッカーがわかっていないね。

 ファウルが少なく、クリーンな試合になると、あのくらいの点数は入るんですよ。ところが今はシャツを引っ張っても、ホールディングしても、ほとんどレフェリーが反則をとらない。ちょっとでも反則をとろうものなら、選手がすぐに審判に文句を言う。もう見苦しいったらありゃしない。サッカーは、今こそフェアプレーの精神に立ち戻る時ですよ。

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