「森保一、葛藤と反省の先に見えた『希望』」聞き手・二宮清純

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 4日、日本サッカー協会(JFA)は、11月にシンガポールで行なわれるブラジル、パラグアイ戦に臨む日本代表を発表した。前日にアジア・サッカー連盟(AFC)が来年1~2月にサウジアラビアで開催予定だったアジアカップを、中東の情勢を考慮して2027年12月から28年1月に延期すると発表していた。そのため、同大会終了まで指揮を執る予定だった森保一監督の子州のタイミングに注目が集まったが、この日のメンバー発表会見では「目の前のできることにベストを尽くす」と話すにとどめた。

 

 当HP編集長・二宮清純は、北中米ワールドカップ後、森保監督にインタビューを行なった。先のW杯における日本代表の総括、自身の去就について語った「サンデー毎日」2026年8月16・23日号の記事を再掲する。

 

二宮清純: まずは北中米W杯、お疲れさまでした。

森保一: いや、僕は疲れてないんですよ(笑)。もっともっと皆さんに喜んでいただきたかったのに、早く帰ってきて残念です。

 

二宮: 北中米W杯については、後ほど総括していただくとして、来年1月から2月にかけてサウジアラビアで開催されるアジア杯までの続投が決まりました。

 契約については、日本サッカー協会の宮本恒靖会長から、今年3月の時点で「任期は北中米大会まで」と告げられていたと聞きました。ところが、5月になると一転して契約延長の可能性があると……。気持ちの整理に時間はかかりませんでしたか?

森保: W杯に行く前に、あと1年延長という話が出ました。1年とはいっても、実際にはアジア杯までだろうな、と解釈していました。でも結局は、W杯の結果次第なので、「そこから判断してもらって大丈夫ですか?」という話はしました。

 A代表のスケジュールを考えると、年内に親善試合が6試合あります。で、アジア杯の決勝まで含めると計13試合。仮に新しい監督が就任するのであれば、この13試合で、いろいろと試すことができる。こちらは、そうした懸念も伝えましたが、それでも協会の意向は変わらないというので、お引け受けしました。

 

二宮: アジア杯後は、2028年ロサンゼルス五輪を目指すU21代表監督の大岩剛さんが、A代表の監督も兼任することが決まっています。宮本会長は「継承と進化」をスローガンに掲げています。となるとアジア杯では大岩さんのベンチ入りもあるのでしょうか。

森保: いや、それについては、まだ何も決まっていません。18年のロシアW杯では、東京五輪代表監督の僕もコーチとしてベンチ入りしました。しかし、あの時とは状況が違います。あの時の僕は1コーチでしたし、開催国ということで五輪出場も決まっていた。

 何より大事なのは、選手たちの視線ですね。影響があるのか、ないのか。そこを判断材料にしたいと考えています。

 

二宮: 要するに、ベンチに監督が2人いたのでは、選手が戸惑うということでしょうか。

森保: まぁ、そういうことも含めて、これについては僕が決めることになると思います。

 

二宮: 北中米W杯を迎える前、故障者が相次ぎました。昨年12月に南野拓実(モナコ)が左ひざ前十字じん帯断裂、今年5月には三笘薫(ブライトン)が左太もも裏を負傷。主力2人を失った上に、26人のメンバーに選出されていたキャプテンの遠藤航(リバプール)が5月31日のアイスランド戦で左足の古傷を悪化させ、初戦のオランダ戦の3日前にチームを離脱しました。

 南野と三笘については、時期が早かったこともあり諦めもついたと思いますが、遠藤については開幕から逆算して左足に人工じん帯を入れる手術を受けたと聞いています。彼の離脱は誤算だったのでは。

森保: それについては、おっしゃる通りです。航については、ドクターと相談しながら、リハビリを進めていました。まずはアイスランド戦でテストし、本番前に、(キャンプ地の)モンテレイ(メキシコ)での紅白戦で、もう一度テストする予定でした。

 ところが、アイスランド戦で古傷に痛みが出て、ハーフタイムで交代させざるを得なかった。今にして思えば、あの時点で、本大会の出場は難しかったかもしれない。フルパワーのプレーは難しい状況でしたから。

 

二宮: そこで引導を渡すべきだったと?

森保: そうですね。ただし彼はキャプテンであると同時に、チームの皆が彼にはW杯に出てもらいたい、という思いを持っていた。航には、これまで随分チームを引っ張ってもらったし、これからも引っ張ってもらいたかった。

 ただし、(離脱の)判断を遅らせたことで、彼や彼の家族を逆に傷つけてしまったのではないか、という反省はあります。

 

浮き彫りになった課題

二宮: 監督は常々「想定外も想定内」と口にされていましたが、今回は想定外が多すぎた……。

森保: それについては、今いる選手がベストなので、言い訳するつもりはありません。ただし、本当に元気な選手たちを選んで戦っていたら、どうなっていたんだろう、という気持ちは正直言ってあります。

 

二宮: さて、「最高の景色」を目指して臨んだ北中米大会、日本はベスト32に終わりました。またしても決勝トーナメント1回戦の壁にはね返されてしまいました。

 昔ほどの力はない、とはいえ、相手はW杯優勝5回のブラジルです。FIFAランキング6位とはいえ、自他ともに認める王国です。容易な相手でないことは最初から分かっていました。

森保: 結果論としてブラジルに勝てなかった。その先の景色をお見せすることができなかったことは事実なので、僕としては、負けてしまってすみません、と言うしかない。

 しかし、多くの方から期待され、また批判をいただいたということは、それだけ日本が力を付けた証拠でもあると思うんです。逆に言えば、すごくないですか? ブラジルに勝たなければいけない立場に今の日本があるというのは?

 

二宮: 06年ドイツW杯の1次リーグでは、先制しながら1対4と逆転負け。ただし国民の失望を比べれば、06年と26年では、まるで違っていました。この20年間で、日本は目覚ましい進歩をとげた。

森保: そうだと思います。たとえば攻から守、守から攻へ。そこは一番キツイところなのですが、日本の選手たちは献身的に実行することができる。これこそは日本の武器であり長所だと思います。ただし、クオリティーの部分は、もっともっと上げていかないといけない。決勝点となった2点目は、日本のミスのように映るかもしれませんが、日本の守から攻を許してくれなかったブラジルは、やはり日本より一枚も二枚も上だった。今後の課題が浮き彫りになった場面でした。

 

二宮: 少し話を整理しましょう。F組に入った日本は初戦のオランダに2対2で引き分け、2戦目のチュニジアには4対0で大勝、3戦目のスウェーデンには1対1で引き分け。グループ2位で決勝トーナメントに進出します。

 ブラジル戦を前に、森保さんは「本気のブラジル」との対戦が楽しみだ、と語っていました。ホームでの親善試合とはいえ、昨年10月には2点を先制されながら、3対2で逆転勝ちを収めている。ここを突破すれば「新しい景色」がどんどんアップデートされていくのでは、と期待しました。

 試合は前半29分、敵陣でボールを奪取した佐野海舟(マインツ)がミドルシュートを決め先制。絵に描いたようなカウンターアタックでした。

 ところが後半に入るとブラジルは戦い方をガラリと変えてきます。エースのヴィニシウス・ジュニオールを左サイドに張り付かせ、精度の高いクロスを放り込んできました。この手の飽和攻撃に日本は弱い。

森保: クロスにしろパワープレーにしろ、日本がリードしている場面で、相手が何をやってくるかというのは、十分わかっていました。その意味では、想定の範囲内でした。

 まずは相手のボールの出所を潰す。そこではファースト・ディフェンダーの仕事が重要になる。だが、それがなかなかうまくいかなかった。競り勝てないまでもセカンドボールは我々が拾う。チーム戦術として準備はしてきたのですが、結果には結び付かなかったということです。

 

二宮: 後半11分にガブリエウ・マガリャンイスのクロスをカゼミーロがヘディングで決め1対1に。その10分後、日本は堂安律(フランクフルト)に代え、菅原由勢(ブレーメン)を、中村敬斗(ランス)に代え、鈴木淳之介(コペンハーゲン)を入れました。この選手交代に対しては「攻撃の推進力が失われた」との声も上がりました。実際、それ以降、日本は1本もシュートを放つことができなかった。

森保: 攻撃の中心だった堂安、中村、伊東純也(ゲンク)らは、これまで守備に追われ、疲れの色が見えていた。また相手も、そこを狙ってきていた。

 フレッシュな選手を投入することで、相手の勢いを止め、チームの基本コンセプトである「いい守備からいい攻撃」につなげられるかな、と思ったのですが、相手の圧力に抗い切れなかった。

 

「過去と未来をつなぐ役割」

二宮: 1対1になって以降は、延長戦、さらにはPK戦も想定していましたか?

森保: そう考えていました。延長に入ればスピードのある塩貝健人(ヴォルフスブルク)を使おうとか。

 

二宮: 初戦のオランダ戦で左ひざを故障した久保建英(レアルソシエダ)を、それ以降は使えないのも痛かった。これも“たられば”ですが、久保や三笘、南野らがいれば、“戦術カタール”じゃないけど、スピードのある伊東や前田大然(セルティック)を後半に取っておくことができた。

森保: 前線でギアを上げられ、相手にプレッシャーをかけられるという意味で、彼らをベンチに置きたかったというのは、その通りです。でも、それができない以上、ブラジル戦では“先行勝ち切り”が最も有効だと考えていた。この事前のイメージが間違っていたとは思いませんが、私の采配次第では勝てたのかな、という思いが一方であるのも、また事実です。

 

二宮: NHKのインタビューで谷口彰悟(シントトロイデン)が「ダブルチームをやめて1対1でやってもよかったかな」と語っていました。「やるべきことに縛られすぎたかな」とも。

森保: あれは僕も見ました。ダブルチームなんて一言も言ったことないんですけど(笑)。要は1対1になった時の責任者は決めるけど、水漏れすることもあるから、カバーできるところにポジションを取ろうよねと。あるいは、競ってこぼれてきたボールは、しっかり拾おうよねと。保険をかけることでリスクを減らすことがダブルチームの狙いなのですが、選手たちの話を聞いていると、ちょっと、そこを強調しすぎた。もう少し、選手たちの背中を勇気を持って押してあげた方がよかったかな、との思いはあります。

 

二宮: 結局、北中米W杯のベスト4はFIFAランキング1位のアルゼンチン、2位のスペイン、3位のフランス、4位のイングランドが占めました。ランキング通りの結果になりました。優勝したスペインは、8試合でわずか1失点。ボールを手放さないから、ピンチらしいピンチを招かない。準決勝ではキリアン・エムバペのいるフランスを、決勝ではリオネル・メッシのいるアルゼンチンを完封しました。

森保: よく個か組織か、という話になります。でもフランス戦でのスペインの選手たちの戦いぶりを見てください。ボール争奪の局面では、ほとんどスペインが勝利していました。サッカーの本質って、それこそデュエル(球際の競り合い)じゃないけど、結局はボールの奪い合いなんです。

 

二宮: 要するに個の強さが基本にあって、組織力が生きてくると?

森保: そうだと思うんです。個がしっかりしているからこそ選手同士の距離が的確に保たれ、水漏れを補うサポート体制を確立することができる。さらには、それが戦術に落とし込まれていく。スペインは長い歳月をかけて、自らのサッカーを熟成させてきた。

 

二宮: 日本もスペインに学ぶべきだという意見があります。

森保: プレーモデルとしては、そうかもしれませんね。スペインの基本フォーメーションは4-1-2-3とも4-3-3とも言われますが、どちらにせよ個々の選手の役割は変わらないんですよ。ただし、年代によってタレントの質は変わってくる。それを監督が、どう表現するかでしょうね。

 

二宮: 監督は常々、「自分は日本サッカーの歴史の一部」だとおっしゃっている。アジア杯後の身の振り方は?

森保: 今は二つの考えが頭にあります。一つは、これまで通り監督として、すなわち現場の人間として、日本のサッカーを未来につなげていく。もう一つは、フロントというか、いわゆる現場から一歩離れた立場で、環境づくりをお手伝いする。いずれにしても、日本サッカーの過去と現在をつなぐ役割には、今後もこだわり続けたいと考えています。

 

※FIFAランキングおよび選手の所属は北中米W杯直前時点。

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