まだ3試合とはいえ、後期は1勝2分と負けなしのスタートです。前期は開幕8連敗と出だしでつまづいただけに、選手には「8連勝するつもりでやろう」と話をしていました。特に最初の相手は前期優勝の香川。ここで勝つと負けるとでは大違いだと感じていました。
 先発に立てたのは山中智貴。彼は前期、良い時と悪い時がはっきりしており、途中からは中継ぎに回していた右腕です。ただ、短いイニングで思い切って放らせることで、本来のピッチングが戻ってきました。四球での自滅も少なくなり、改善の兆しが見えたのです。

 そこで後期から再び山中を先発に戻す決断を下しました。代わって調子の上がらない野原慎二郎をリリーフに配置転換。香川戦では山中から野原へと継投しました。これがうまくハマりましたね。山中は5回を1失点でまとめ、野原は3回を1安打無失点の好投をみせました。最後はクローザーとして本領を発揮している吉川岳が3者凡退の締めくくり。ポイントとなる大事な初戦をモノにし、チーム全体が「後期は行ける」という気持ちになったのではないでしょうか。

 前期は最下位とはいえ、最後の6月は8勝6敗2分と勝ち越し、投打はかみ合っていました。結果的には愛媛に大きく負け越しただけで、優勝した香川ともほぼ互角の勝負ができており、チーム内には「後期こそ」との思いが生まれていました。実は7日の徳島戦ではエースの井川博文が立ち上がりに5失点を喫しながら雨でノーゲームになり、天も味方してくれるようになったのかな(笑)と前向きにとらえています。

 後期は優勝を目指すことはもちろん、個々人にとってもドラフト指名への最終アピールをする重要な時期となります。今季から高知では各選手ごとに「育成シート」を作成し、指導に生かしています。前期を終えて、もう一度、各選手の課題と目標を明確にすべく、個人面談を実施しているところです。

 面談は選手自身に自己分析を事前に書いてもらい、それに基づいて監督、コーチが評価をし、話をします。たとえば井川とは、同じ横手投げで前期MVPに輝いた香川の又吉克樹との比較が話題になりました。ストレートの速さなら井川は又吉より上です。奪三振も井川が上回っています。しかし、又吉がリーグトップの防御率を誇り(1.49)、スカウトの評価も高いのはなぜでしょう。

 その要因のひとつは、井川は武器であるストレートを生かし切れていないからです。又吉は球速こそ井川より落ちるものの、キレのあるストレートで打者をしっかり抑えています。一方、井川の場合、最後はスライダーで仕留めるパターンが7割以上。これではスカウトもストレートで本当にバッターを牛耳れるのか判断がつきません。

 ストレートはどんなピッチャーにおいても基本となるボールです。やはり、このリーグでは7割くらいはストレートで三振がとれるレベルにならないと、注目度は高まらないでしょう。誤解をしてほしくないのですが、これは「ストレートだけを投げろ」と言っているわけではありません。ストレートを効果的に見せるために、変化球をいかに使うか。それを含めて井川には考えてピッチングをすることが後期のテーマとなります。

 野手では中軸の河田直人がようやく実力を発揮してきましたね。ルーキーながらクリーンアップを任せて他球団からマークされたため、なかなか結果が伴わなかったものの、個人的には全く心配はしていませんでした。弘田澄男総合コーチの下、バットが最短距離で出るように練習した成果も出ているようです。

 5月の阪神との交流試合で藤浪晋太郎からタイムリー二塁打を放ち、先のフューチャーズ3連戦では13打数7安打の大当たりでした。NPB相手に成績を残し、スカウトの評価は高まっています。河田にとっての最大の魅力は一発長打。外野手ですからバッティングでも飛び抜けたものをみせることが求められます。ぜひシーズンを終えて、3割、10本塁打以上の数字が残せるよう、上を見据えて頑張ってほしいです。

 NPB行きのチャンスは、誰にでもあります。僕もスカウトをしていて、お目当ての選手を観に行ったところ、違う選手が目に留まったことが何度もありました。今のところ、リーグで一番、NPBに近いと言われているのは香川の又吉です。ということは彼を打てば、スカウトに自身の存在を印象付けられるかもしれません。

 泣いても笑っても今季はあと残り3カ月。悔いのないよう、野球にすべてを賭けて1日1日を過ごしてほしいものです。3期連続最下位の汚名を返上すべく、後期はチームとしても、個々の選手にもいい思いができるよう、必要なことはコーチとともに徹底して言っていきたいと考えています。

 ケガで離脱していた梶田宙今中尭大が復帰し、打線もベストメンバーが組めるようになりました。優勝から遠ざかって4年経ち、そろそろ勝利の味をファンと一緒にかみしめたいところです。暑い日が続きますが、引き続き、応援よろしくお願いします。


定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は東北楽天の内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。
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