現在、1位・福井ミラクルエレファンツと2位・富山サンダーバーズとの差は、1.5ゲーム差。いよいよ今日25日の直接対決で、後期の北陸地区チャンピオンが決定します。福井にとってはシーズン最終戦でもあるこの試合、これまでやってきたことを全て出し切って勝利を引き寄せたいと思います。
 勝率2割5分で最下位だった前期から一転、後期は途中から首位の座を守り続けてきました。前期にあった迷いが、後期に入って徐々に整理され、選手たちがしっかりと集中して野球ができたことが一番の要因だったように思います。特に投手陣がそうでした。前期は先発をやったり抑えをやったりと、とにかくみんなでどうにかやり繰りをするというかたちをとっていました。しかし、後期はきちんと役割分担したことで迷いがなくなり、各投手が自分のポジションに専念することができたのです。

 そのポジションについて、首脳陣が一番悩んだのが、大西文晴(神港学園高−法政大−明石レッドソルジャーズ)のでした。昨季、彼は抑えとしてチームの地区優勝に貢献してくれました。その大西を抑えにし、関口貴之(小豆島高−東北福祉大−九州三菱自動車)とオリックスからの派遣選手である山崎正貴とともに、先発には藤井宏海(福井高−千葉ロッテ−三菱自動車岡崎)をもっていくか、それとも大西を先発にして藤井を後ろにまわすか……。彼のピッチングはチームに大きな影響をもたらすだけに、随分と悩みました。

 独立リーグであるBCリーグは、チャレンジする場です。そういう意味では昨季、抑えにまわった大西は勝てる試合で、しかも短いイニングしか投げることができませんでした。ですから今季は、大西にはより多くピッチングの場を与えたいという思いがありました。そして、藤井はプレーイングコーチとして、指導者の立場からも投手陣を引っ張ってくれています。その藤井には最も重圧のかかる最後のイニングを任せたいという気持ちがありました。そこで後期は大西を先発にし、藤井を抑えに固定させたのです。それがいい流れを生み出しました。

 一方、打線では4番・ジョニーにどうつなぐかが重要と考えていました。そこでキーマンとなったのが、森田克也(愛知啓成高−愛知学院大)です。彼は人一倍練習熱心で、バッティング技術もあり、とても信頼のおけるバッターです。後期の序盤は彼を5番にしていたのですが、チームで最も高打率を残していた森田にはチャンスメーカーになってもらいたいと、7月下旬から3番に上げたのです。それが、前期よりも打線がつながり始めた要因の一つです。

 そして、陰の功労者といえば、7月に石川ミリオンスターズから移籍してきた佐藤健太(日大三高−立正大)です。彼は18試合にしか出場しておらず、打率も1割4分6厘と成績はふるいませんでした。しかし、彼の存在はチームにとって非常に大きかったのです。彼が移籍してきたことで内野陣の競争が激しくなり、他の選手にいい刺激を与えてくれました。

 さらに彼はムードメーカーとしてもチームに貢献してくれました。佐藤は初回から最終回まで、大きな声で選手を迎えるなど、常にチームを盛り立ててくれました。自分が出場できなくても、チームのために本当に一生懸命なのです。彼のおかげでベンチの中が変わり、それもチームの勢いとなったことは間違いありません。

 最後にいきた負けない強さ

 とはいえ、後期も決して順風満帆だったわけではありません。そんな中、首位の座をキープできた要因のひとつは、リーグ優勝した昨季もそうでしたが、引き分けが多かったことが挙げられると思います。特に9月に入り、シーズンも佳境に入った終盤、新潟アルビレックスBC、そして首位を争う富山と2試合連続で引き分けにもちこむことができました。今にして思えば、この2試合で黒星を増やさなかったことは非常に大きかったと言えます。

 引き分けは勝ち切ることができない弱さということも言えますが、逆に言えば、負けない強さでもあります。その強さは、日々の苦しい練習が実を結んだものだと思うのです。だからこそ、特に疲労がたまり、故障者が出やすい夏場、他球団と比べても、福井は体力的には全く落ちることなく戦うことができたのです。

 しかし、優勝マジック1が点灯してから、福井は連敗を喫してしまいました。選手たちも改めて1勝の難しさを痛感したことでしょう。ただ、この2試合も何か違うことをしようとしていたわけではありません。これまでやってきたことをやろうとしている姿勢は見えました。結果として勝利することはできませんでしたが、やっていることは決して間違ってはいません。

 今日の試合は監督就任2年目にして、最も重圧のかかるゲームと言っても過言ではありません。富山は投打のバランスがいいチームです。投手陣は継投でつなぎ、打線はジワジワと攻めてくる怖さがあります。その富山との試合で最も重要なのは、ミスをしないこと。特に富山の進藤達哉監督は私と同じ内野手出身ということもあり、内野でのミスを非常に嫌がります。だからこそ、逆に相手がミスをすれば、そこにつけこんで流れを引き寄せようとするでしょう。つまり、数字には表れないミスさえも命取りになるのです。緊迫した試合であればなおさらでしょう。とにかくミスをせずに、自分たちの野球がやれるかどうか。そこが一番のポイントです。泣いても笑っても、あと1試合。チーム一丸となって、プレーオフ進出を決めたいと思います。

酒井忠晴(さかい・ただはる)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツ監督
1970年6月21日、埼玉県出身。修徳高校では3年時にエースとして活躍し、主将も務めた。89年、ドラフト5位で中日に入団。プロ入り後は内野手として一軍に定着した。95年、交換トレードで千葉ロッテに移籍し、三塁手、二塁手のレギュラーとして活躍した。2003年、再び交換トレードで中日に復帰したが、その年限りで自由契約に。合同トライアウトを受け、東北楽天に移籍した。05年限りで引退したが、07年からは茨城ゴールデンゴールズでプレーした。12シーズンより、福井ミラクルエレファンツの監督に就任した。
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