胴上げ投手は星野仙一監督の予告どおり「18番」だった。
 東北楽天が球団創設9年目で初のリーグ優勝を果たした。

 優勝を決めた試合、エースの田中将大が西武ドームのマウンドに上がったのは4対3と1点リードで迎えた9回裏だった。

 1死二、三塁と一打逆転サヨナラのピンチを招いたが、ランナーを背負ってから本領を発揮するのがマー君だ。埼玉西武が誇る3、4番の栗山巧と浅村栄斗を真っ向勝負のストレートで連続三振に切ってとった。最後はまさに“マー君劇場”だった。

 今季、26試合目の登板はクローザーとしてだった。指揮官の腹の中には「大黒柱としてチームを支えた田中に胴上げ投手の栄誉を!」という配慮の他に、もうひとつ別の狙いが含まれていたのではないか。

 というのには理由がある。09年、初めてCSに進出した楽天は北海道日本ハムとの初戦、9回表までリードしながら、その裏、サヨナラホームランを浴びてまさかの逆転負けを喫した。

 当時の監督は野村克也だ。「なぜマー君をベンチに入れ、あそこでリリーフに使わなかったのか?」という私の質問に知将は、こう答えた。
「いや、もうそれは十分考えていましたよ。でも、クビ通告のショックで戦闘意欲が鈍っていた……」

 野球に“たら・れば”は禁句だが、もし、あそこでマー君を使っていたら、負けることはなかっただろう。CSの流れを引き寄せていた可能性が高い。

 星野がそれを知らないわけがあるまい。いや、知らなかったとしても、短期決戦では詰めが大事なのは百も承知、二百も合点。つまり修羅場でマー君を投入することで、クローザーとしてのテストを試みたとの見方もできるのだ。

 CSを勝ち上がり、日本シリーズを制するには、絶対的な切り札の存在が欠かせない。その役目を果たせるのは、楽天ではマー君しかいない。
 守護神・田中。星野の腹はもう固まっているように映る。

<この原稿は2013年10月21日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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