2004年から11年までの8年間、中日の監督として4度のリーグ優勝と1度の日本一を達成した落合博満が球団初のゼネラル・マネジャー(GM)に就任した。
 来季からプレーイングマネジャーとしてチームの指揮を執る谷繁元信を後方から支える。

 どうすればチームを再建できるか――。白井文吾オーナーから相談を受けた落合が提案したのが“プレーイングマネジャー谷繁”だった。

 実は落合、一昨年11月、監督を退任して球団を去る際の記者会見で、谷繁の名前を口にしていた。

<「一番変わったのは谷繁かもしれません。FAで来て、よそでレギュラー捕手だったわけですが、彼にも甘いことは一切言わなかった。彼が指導者になったとき、今まで経験したことをやってくれれば、いい指導者になると思います」>(東京中日スポーツ11年11月23日付)

 では落合は、どういうかたちで愛弟子をバックアップするつもりなのか。

<「オレは黒子に徹するだけ。オレが表に出るとやりづらいでしょ。それがこのチームを浮上させる一番のポイント。監督の思うように、すべてが同じ方向を向いて出発しないとこの船は沈没する。(今年は)沈没しちゃったんだから。それを立て直すには倍の力じゃない、3倍の力がいる」>(東京中日スポーツ10月12日付)

 一口にGMと言っても、いろいろなスタイルがある。一例をあげれば日本プロ野球における実質上のGM第1号と言われる根本陸夫は、西武、ダイエーで管理部長などを務め、ドラフトやトレード、FAで敏腕を発揮した。プロのみならずアマチュアにまで張り巡らせた“人脈力”が根本の最大の強みだった。

 翻って、落合の場合、“オレ流”という代名詞からも分かるように、球界においては孤高のイメージが強い。根本のような“寝技”が得意とも思えない。
 現時点での情報から判断すれば、どちらかというと強化本部長的な役割を担うことになるのではないか。それは就任記者会見での次のコメントからも明らかである。

<「どの選手が使えてどの選手が使えないのか。これから秋の練習が始まるわけでしょ。ここで彼らが何を見せてくれるか。それによっては戦力外通告をしなければならない選手も出てくる。(中略)ぬるま湯の中ではやらせないよ。オレの名前が出た時点で選手は分かりきっていることだと思う」>(同前)

 黒子に徹する、と本人は言うが、V4監督の威光は絶大である。グラウンドの隅から目を光らせているだけでも、選手はピリッとするはずだ。新体制での初日となった15日の秋季練習では落合が姿を現しただけで緊張感が漂っていた。

 選手時代は史上最多の3冠王3度獲得、監督時代はリーグ優勝4回。名選手名伯楽たりえた落合がGMでも成功すれば、別の意味での“3冠王”ということになる。

<この原稿は『サンデー毎日』2013年11月3日号に掲載されたものです>

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