私にとって、BCリーグでの初めてのシーズンが終わりました。正直、野球のレベルは思った以上に高いものがありました。特にピッチャーは、各チームのエース級となると、球威、コントロールが良く、レベルの高さを感じました。その中で、来季は監督として指揮を執ることになりました。今季得たことをいかしながら、しっかりとしたチームをつくっていきたいと思っています。
 さて今季、群馬ダイヤモンドペガサスは、前期は16勝18敗2分で上信越地区2位、後期は15勝19敗2分で同3位という結果に終わりました。その中で後期、投手陣に大きな影響を与えたのが、8月に加入した小林宏之(春日部共栄高−千葉ロッテ−阪神)の存在です。小林は周知の通り、NPBで日本一を経験したり、第1回ワールド・ベースボール・クラシックにも出場したこともある一線級の投手です。技術的なことはもちろんのこと、練習の取り組み方についても、他の若い投手にとっては参考すべき点がたくさんあったと思います。

 特に影響を受けていたと思われるのが、3年目の栗山賢(日本文理高−鷺宮製作所)です。グラウンドでは、小林といるところをよく見かけました。詳しいことは聞いていませんが、栗山の方から積極的に小林に話しかけていたのかもしれませんね。NPBの第一線で活躍した小林から、多くのことを学んだことでしょう。

 その栗山は今季、エース級の働きをしてくれました。初の2ケタ勝利(11勝8敗)を挙げ、防御率はリーグでもトップ10に入る2.45をマークしました。しかし、栗山にはまだ修正すべき点があります。フォーム投球です。前期から比べれば、だいぶ良くはなりましたが、それでもまだ完璧とは言えません。

 栗山は体重移動の際に、頭が右打者の方に突っ込んでいくクセがあるため、窮屈なピッチングになってしまいます。頭が正しい位置からブレないようにしなければなりません。そして、もうひとつは骨盤に角度をつけることです。軸足で立ち、踏み出す足を上げて踏み込む際、腰は開いてはいけません。左の骨盤を内側に絞るイメージで、開かずにそのままの状態で着地し、着地してから腰をグッと開くのです。つまり、着地する際にいったん左の骨盤で壁をつくるのです。その時にためた力を利用して投げると、球に勢いがつきます。骨盤の使い方ひとつで、ピッチングはガラリと変わるのです。

 四死球が多かったワケ

 一方、昨年7月からケガの治療に専念するためにチームを離れた堤雅貴(高崎商業高)は、今年6月に復帰し、12試合を投げて2勝5敗、防御率4.66でした。もちろん、彼の実力はこんなものではありません。彼もフォームの修正が必要です。栗山の課題である腰の使い方については、堤はもともと骨盤に角度をつけて投げることができています。しかし、軸足で立って、体重移動をする際に、頭が先に行ってしまうため、せっかく軸足にためられた力が抜け、ボールに伝わっていません。さらにヒジが上がらず、ボールが高めに浮いてしまう。今季、四球が多いのはそのためです。

 四死球が多かったのは、堤だけではありません。チーム全体として多かったことは否めません。特に、死球の数は他のチームと比べても、多かったのが実情です。しかし、これは理由がはっきりしています。実は、シーズン開幕前、私はピッチャーに「他のチームに“群馬のピッチャーはインコースを突いてくる”という印象をつけさせろ」と指示していました。なぜなら、 “インハイ”を弱点とするバッターは少なくありません。アウトコースへのボールを踏み込んで強振してくるバッターを抑えるには、インコースへのボールは不可欠だからです。

 インコースのボールをヒットにするためには、バッターは打つポイントを前にしないといけません。そうすると、アウトコースへのボールが打ちづらくなる。ピッチャーが優位に立つことができます。しかし、実際にはピッチャーにインコースを突く技術がまだ伴っておらず、死球になることが少なくなかったのです。この点においても、やはりフォームへの修正が課題として浮き彫りとなりました。

 このように、どのピッチャーにも課題は少なくありません。しかし、逆に言えば、それだけ伸びしろがあるということです。課題を克服した先には、進化が見込めます。彼らのピッチングにどんな変化があるか、ファンの皆さんには楽しみに、来季も球場に足を運んでもらいたいと思います。

 さて、来季は私が監督として指揮を執ることとなりました。ピッチャー出身の私にとしては、バッテリーを中心とした守り勝つ野球を目指していくつもりです。もちろん、攻撃の方も補強し、強化していきます。そして、常に相手に向かっていく気持ちを前面に出して戦います。群馬はここ3年間、地区優勝から遠ざかり、リーグ優勝においては初優勝した2009年以降、達成することができていません。ファンの皆さんも鬱憤がたまっていることでしょう。来季はぜひ強いペガサスを見せたいと思いますので、応援よろしくお願いします。

川尻哲郎(かわじり・てつろう)>:群馬ダイヤモンドペガサス新監督
1969年1月5日、東京都生まれ。日大二高、亜細亜大、日産自動車を経て、94年にドラフト4位で阪神に入団。2年目にプロ初勝利を挙げると、翌年には自己最多の13勝(9敗)をマーク。98年5月26日の中日戦で史上66人目となるノーヒットノーランを達成し、同年オールスターゲームにも出場した。2004年に近鉄に移籍し、翌年には楽天へ。05年シーズン限りで現役を引退した。13年より群馬の投手コーチを務め、来季より監督として指揮を執ることが決定した。
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