日本初のプロ野球独立リーグ「四国アイランドリーグPlus」は、この秋、9年目のシーズンを終えた。記念すべき10年目を迎える前のNPBドラフト会議で、初の上位指名選手が誕生した。中日から2位指名を受けた又吉克樹(香川オリーブガイナーズ)である。
 又吉を初めて見た時の印象は「右の森福允彦(福岡ソフトバンク)」。細身だが、サイド気味のフォームからキレのいいストレート、スライダーをビュンビュン投げ込む。ストレートは最速で148キロ。ドラフト前、本人は「館山昌平さん(東京ヤクルト)のようにサイドスローでローテーションに入り、10勝できるピッチャーを目指したい」と語っていた。

 香川の監督は元広島の外野手・西田真二。勝負強い打撃に定評があった。その西田の目に又吉は、どう映っていたのか。「彼はアイランドリーグだけでなくNPBでも珍しいタイプ。ボールに力があるだけでなく、初速と終速の差をあまり感じない。しかもコントロールがいい。スライダーや変化球の精度が高くなれば十分、1軍でも活躍できるでしょう」

 アイランドリーグの創業者は西武などで活躍し、オリックスで監督も務めた石毛宏典。「四国アイランドリーグという花壇ができました。100名のタネを持った若者が花を咲かせようと今日から努力します。皆様方の水と肥料が必要です」。開幕を告げた名スピーチは今も記憶に新しい。

 果たしてアイランドリーグという花壇からは、この9年で40人がNPBへと芽を伸ばした。出世頭は昨季のパ・リーグ首位打者の角中勝也(千葉ロッテ)だろう。この春のWBCでは日本代表として出場した。地味ではあるがヤクルトの三輪正義もユーティリティープレーヤーとしていぶし銀の光を放っている。

 翻ってパッとしないのが、ピッチャーである。米マイナーリーグ経験者で今季7勝をあげたアレッサンドロ・マエストリ(オリックス)を別にすると、ドラフト入団組で勝ち星をあげたのは金無英(ソフトバンク)のみ。それも、わずか通算1勝だ。なぜか四国の花壇からはピッチャーという名の花は咲きにくい。それが実情である。

 又吉はそんなジンクスを打破できるのか。本人は「困ったら又吉、と頼りにされるピッチャーになりたい」と意気込んでいる。 

<この原稿は13年10月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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