2013−14 シーズン、 JTサンダーズは初優勝に向け、新たな戦力が加わった。越川優、 29歳だ。並外れたジャンプ力から繰り出すパワフルなサーブとスパイクを武器とする越川は、全日本代表の主力としても活躍し、 2008年には北京五輪に出場。その後3シーズン、イタリア・セリエAでプレーするなど、実力、経験ともに国内トッププレーヤーだ。彼の加入が、8シーズンぶりのファイナル進出、そして初優勝を目指すサンダーズにとって大きな戦力アップになることは間違いない。そこで今回はシーズン開幕を前に、越川に直撃インタビュー。サンダーズの印象、今シーズンにかける思い、そして同じく新監督のもとでスタートした全日本代表の現状について訊いた。

 優勝達成の確信あっての移籍

―― 昨季は4シーズンぶりに国内リーグに復帰。その2シーズン目の今季、 JTサンダーズに移籍した理由とは?
越川: 国内外を問わず、オファーをいただいたチームと交渉する中で、一番自分を評価をしてくれて、なおかつ最も自分を必要としてくれていると感じたのがサンダーズでした。特に一番はじめの交渉で、昨シーズンのデータを示しながら、具体的かつ細かく評価してくれたんです。それが、とても嬉しかったですね。それに、サンダーズは優勝できるチームだという確信もあった。だから迷うことなく、サンダーズへの移籍を決めました。

―― これまでのサンダーズに対する印象は?
越川 実は僕がVリーグに入った1年目、所属チームが優勝したのですが、その時のファイナルの相手がサンダーズだったんです。その時から、「歴史があって、強いチーム」というイメージをもっていました。最近はファイナルに進出することができていませんが、それでも能力の高い選手は多いと感じていました。優勝できるポテンシャルは十分にあると。ただ、若手とベテランの入れ替わりの時期にあって、なかなか勝利にまで結び付けられていないな、というのがサンダーズへの印象でしたね。

―― 昨季、4シーズンぶりにVリーグで対戦してサンダーズに感じていたことは?
越川: あいかわらずいい選手が多いな、と思いましたね。ただ、もっと強くなれるのに、とも感じていました。たとえば、昨季加入した外国人助っ人のイゴール・オムルチェン(クロアチア)ですが、もう少し彼をうまく使えると、彼本来の力が引き出せるだろうし、チームとしても違う戦い方ができるんじゃないかなと思います。

―― 「うまい使い方」とは?
越川: 僕がイタリアにいた時、イゴールも同じセリエAのチームでプレーしていたんです。その時の彼は、もう手が付けられないというような選手でした。それが、昨季はイゴールにボールが集まり過ぎて、なかなか彼本来の力を発揮できずにいるような感じがしました。イゴールはどちらかというと、コマのひとつとして使ってあげることで活きるタイプの選手だと思うんです。そんな彼の良さを知っている僕がチームに入ることによって、セッターを含めて、今季はもっと彼を活かせる戦い方ができるのではないかと思っています。

 初合流でつかんだ手応え

―― サンダーズでの自分の役割とは?
越川: これまでの経験で感じたのは、優勝するためには優勝の味を知っている、勝つことを知っている選手の存在が必要だということです。古巣のチームでは僕が新人で入った年に5連覇を達成しました。当時を振り返ると、ジルソン・ベルナンド(米国)のように、海外でも活躍して勝つことを知っている選手がいたんですよね。そういう選手の存在があったからこそ、勝てたゲームがすごくたくさんあったんです。だからサンダーズに入って、自分だからこそできることはあるんじゃないかなと。若い選手に「勝つということは、こういうことなんだよ」ということを伝えていけたらと思っています。とは言っても、「こうしないと勝てないんだよ」というふうにするつもりはありません。自分が経験したことを実際にやっていくことで、それを見た他の選手が何かを感じてくれればいいと思っています。

―― 実際にチームに加入して、どんな印象を持ちましたか?
越川: 思っていた以上に、力を持っているなと思いましたね。全日本の合宿もあって、なかなかチーム練習に参加できていないのですが、僕が初めて練習に参加した日がちょうど招待試合だったんです。それまで一度も練習したことがないまま、いきなりゲームをやったので、正直僕はメンバーがどんなプレーをするのかわからなかった。対戦相手としては見ていましたが、ネットの向こうと同じコートに立っているのとでは、やっぱり違いますからね。そこで僕は、とりあえず自分がこうしてほしいということを要求したんです。そしたら、それに対してみんながすぐに対応してくれた。咄嗟に対応するって、とても難しいことなんですけど、結構すぐにできていたんですね。その時に、「あ、やっぱりこのチームは力がある。よし、いける」と思いましたね。あとは自分がどれだけチームにフィットさせていけるか。でも、それも「自分がやらなくちゃいけない」と気負うのではなく、チームのメンバーにカバーしてもらいながら、自分がやるべきことをやっていこうと考えています。

―― 新しく就任したヴェセリン・ヴコヴィッチ監督の印象は?
越川: 監督とはよく話をしていますが、個人的な印象としては、ヨーロッパ型のバレーをする監督だと思いますね。

―― ヨーロッパ型とは?
越川: アメリカのバレーが個人技を重視する一方、ヨーロッパは個人技よりもチームシステムを大事にするんです。データなどを駆使して相手のクセを見抜いたり、このローテーションでは、どこに何%の確率でトスが上がるかを分析し、それによってブロックを考えたりする。イタリアのバレーは、まさにその典型ですね。

 “自分自身”から“チームの勝利”へ

―― 北京オリンピック後には3シーズン、イタリアでプレーしました。そこで得たものとは?
越川: 自分へのプレッシャーが消えたことですね。イタリアに行くまでは、試合に出ることを一番に考えていました。とにかく自分が活躍したい、そのためには何をしなければいけないかということをずっと考えてバレーをやっていたんです。それがいい意味でも悪い意味でも自分へのプレッシャーにつながっていました。

―― そのプレッシャーとは、具体的にどんなものだったのでしょうか?
越川: 日本代表としてもやらせてもらっていましたし、チームに戻っても主力としてプレーしていましたから、常に「自分がやらなければいけない」という考えがありました。もちろん、それで結果が出ている時は充実感を感じることもできましたが、逆に負けてしまうと「自分ができていないからだ。もっとこうしなくちゃいけない、ああしなくちゃいけない」と重荷を背負うことにもなっていたんです。

―― イタリアでのどんな経験が、考えを変えるきっかけとなったのでしょうか?
越川: イタリアでは優秀な選手はたくさんいましたから、自分がそんなに重荷を背負わなくても勝てるということを思い知らされました。とはいっても、自分が何の役にも立っていないかというと、決してそうではないんです。たとえスタートから出られなくても、ピンチサーバーなどで、僕が必要とされる場面は1セットに1度は必ずありました。そのワンプレーで試合の流れが変わり、勝負のポイントとなったこともあった。つまりスタートから出なくても、自分が持っている力を発揮して、勝利に貢献することはできる、それがわかったんです。だから、今は「チームが勝つために何ができるか」を考え、その時のベストを尽くすことを大事にしてプレーしています。イタリアでは監督がチームに不足している部分に、うまく自分の力をあてはめてくれた。そのことで気づかされた部分は大きかったですね。

―― ベンチに“頼れる選手“がいるチームは強いですよね。
越川: そうだと思います。コート内の選手にとっても、非常に心強いと思いますよ。例えばミスをした時、特に若い選手にとっては「次もミスをしたらどうしよう」と思うのか、それとも「いや、ここで自分がミスをしても、ベンチには○○さんがいるから、自分はとにかく思い切りやろう」と思うのかでは、次のプレーはまったく違うものになる。コートの中と外とのバランスがうまくとれると、チームとしていい流れができるのではないかと思います。

―― イタリアでの最後のシーズンは、リベロも経験しました。
越川: 意外だと言われますが、僕は結構、守備が好きなんです。とはいっても、日本には僕以上に守備が巧い選手はたくさんいるので、どうしても攻撃面をメインに見られがちなのですが、逆に海外に行くと、僕よりも高さもパワーもある選手がたくさんいますから、守備力を求められる。そういう中でリベロを3試合やりましたが、改めて大変なポジションだなと痛感しましたね。

―― リベロの経験が、これまでのバレーボール観を変えた面もあるのではないでしょうか?
越川: 実際に自分がリベロをやってみて思ったのは、ミスを取り返すことのできないポジションなんだなということです。アタッカーはたとえミスをして失点しても、次に自分が得点すればいいわけですよね。ところが、リベロはスパイクを打つことができませんから、自分のレシーブで失点しても、自らが得点してミスを取り返すチャンスは与えられない。特に僕はもともとアタッカーですから、そのことに対して非常にフラストレーションがたまりました。リベロをやって守備への意識が増したということもありますが、彼らがミスを取り返せない分、せっかく拾ってくれたボールは自分たちアタッカーが得点につなげてあげたいという気持ちも、これまで以上に強くなりましたね。

(後編につづく)

越川優(こしかわ・ゆう)
1984年6月30日、石川県生まれ。小学4年からバレーボールを始め、中学時代から全国大会で活躍。岡谷工業高校(長野)3年時には主将として春高準優勝に導いた。同年のアジア大会で男子では初の高校生での全日本入りを果たす。2003年、サントリーサンバーズに入団。1年目のVリーグにて新人賞を獲得し、史上初の5連覇に貢献した。08年には北京五輪に出場。翌年より3シーズン、イタリア・セリエAでプレーし、昨季、4シーズンぶりに国内リーグに復帰。今季、JTサンダーズに移籍した。

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 2013/14V・プレミアリーグ、女子は11月30日(土)開幕!

 JTマーヴェラスは、尾侯新監督、上屋敷綾新キャプテンの下、V・プレミアリーグをはじめとする各大会での優勝を目指します。ぜひ会場へ足を運び、選手たちの活躍をご覧ください。

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<開幕からの試合日程(年内)>
11月30日(土)12:30〜 vsトヨタ車体 所沢市民体育館(埼玉)
12月1日(日)15:00頃〜 vs東レ 所沢市民体育館(埼玉)
12月7日(土)16:00頃〜 vsパイオニア 西尾市総合体育館(愛知)
12月8日(日)15:00頃〜 vs日立 西尾市総合体育館(愛知)
12月21日(土)14:00〜 vs岡山 佐賀県総合体育館
12月22日(日)15:00〜 vs久光製薬 佐賀県総合体育館
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(聞き手・写真/斎藤寿子)
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