今季、アイランドリーグは新たなチャレンジを始めました。この4日から高知で10日間に渡って開催されたウインターリーグです。記念すべき第1回目は27名が参加。ここにアイランドリーグ在籍の選手も加わって46選手が2チームに分かれ、8試合の実戦を行う中で選手の力量をチェックできました。結果、アイランドリーグからは各球団2名ずつ計8名の交渉権獲得選手が出ています。
 今回、意義があったのは海外からも9選手が参戦し、日米からスカウトや編成担当が訪れたことです。テキサス・レンジャーズの関係者や、かつてのMLB本塁打王ダレル・エバンス(元タイガース)さんなどにも足を運んでいただき、このリーグに興味を持ってもらえました。まだアイランドリーグ以外で具体的に獲得へ乗り出しているケースはありませんが、来春のマイナーリーグのキャンプに選手を招待する動きが出てきています。日本に限らず、多くの国の選手にアピールの機会を与え、国内外問わず各リーグへ人材を供給する。ウインターリーグ開催の目的は、一定程度、達成できたのではないでしょうか。

 こういった試みは、まずやってみないと何も分かりません。1度、実施することで課題もたくさん出てきます。最初の予定は80名を募集していたにもかかわらず、そこまでの選手が集まらなかったのは告知の点で改善の余地があるでしょう。期間中、もっと積極的に参加選手のプレーや結果について情報を発信し、多くのスカウトや関係者、メディアの方に「高知に行ってみよう」と思っていただける工夫も必要だと感じます。今回はアジアからの参加はありませんでしたから、来年は韓国、台湾といった近隣の地域にも声をかけていきたいと考えています。

 創設以来、継続してきた選手育成でも9年目のシーズンは大きな成果がありました。10月のドラフト会議では香川の又吉克樹投手が独立リーグの選手で史上最高順位となる2位で中日から指名を受けたのです。アイランドリーグや又吉投手はもちろん、ドラフト会議当日の会見場にスポンサーのかどや製油さんのごま油が設置されていたことがインターネット上で話題になるなど思わぬ波及効果が出ています。

 一方で全体での指名は2名にとどまり、昨年同様、やや寂しい結果となったのも事実です。アイランドリーグの選手たちがNPB相手に最もアピールしなくてはならない、秋のみやざきフェニックス・リーグでも2勝11敗1分と大きく負け越しました。残念ながら、このオフはリーグ出身のNPB選手が多数、戦力外通告を受けています。単にドラフトに指名されるだけでなく、NPB1軍でも通用する選手を育てる。各球団の監督、コーチと連携して、多くの原石を集め、四国で光り輝く存在にする努力が今まで以上に求められています。

 可能性のある選手を増やすには、アイランドリーグへつながるルートを増やすことが大切です。この16、17日にはBCリーグとの共催で米国カリフォルニア州で初の海外トライアウトも実施しました。プロ志望の日本人アマチュア選手を獲得し、NPBに送り込むスタイルだけにこだわらず、先のウインターリーグも含め、複数のルートを駆使して逸材を見出し、NPB、MLBをはじめとする各地のリーグに売り込む。リーグの“入口”と“出口”の多様化を進めることが、この先は大事になるでしょう。

 また選手確保のひとつの方策として、昨年紹介したセカンドキャリアサポートに関しては、通信制大学の星槎大との提携が、この春、実現しました。BCリーグとも一緒に、希望選手に対しては教員免許取得へ奨学金を出して支援します。どのくらいの選手が制度を活用するかは、まだ分かりませんが、将来も見据えつつ、野球に打ち込める環境をこちらもいろいろと整えていくつもりです。

“出口”の観点からNPBにお願いしているのは、高校や大学を中退してリーグ入りした際に、社会人チームの選手と同じく指名に制限がかかるルールの撤廃です。高校中退の場合は3シーズン、大学中退の場合は2シーズン、指名の対象とはなりません。

 しかし、独立リーグはアマチュアからはプロとみなされ、所属先の合意がない限り、社会人チームに入ると高校出は3年、大学出は2年間、入団ができません。しかも独立リーグに所属した場合は、再びアマチュアに戻ることにも規制がかかります。アマチュアからはプロで、NPBからはアマチュア……そんな構造になっているがゆえ、独立リーグは二重に制限をかけられた状態なのです。
 
 リスクを背負って独立リーグに飛び込み、スカウトの目に留まっても上へ行けない……。現実問題としてNPBから注目されていた若い選手が制限によって指名が認められず、リーグに何年もいるうちに夢から遠のいてしまったケースも出てきています。1年でも早く高いレベルで、恵まれた環境でトレーニングしていれば、どんな成長を遂げていたでしょう。これは日本球界にとって不幸なことです。「独立リーグに入団した選手は1年目から指名の対象とする」。こういったシンプルなルールに改善してもらえるよう今後も働きかけたいと思っています。

 経営面でも今季からスタートした共同オーナー募集では、何件も問い合わせをいただきました。そして徳島球団では法人の共同オーナーが実際に誕生しました。3人寄れば文殊の知恵との言葉もあるように、リーグに携わる人が増えれば、新しい企画もさまざまに出てきます。実は野球漫画「グラゼニ」とのコラボによる「グラゼニ」賞の創設も、新しい共同オーナーが持ちこんできた話が出発点になりました。

 また高知では、地方球場での興業を地元の自治体などに買い取ってもらう方法を構築しています。外から人を呼ぶ地域活性化イベントの一環としてアイランドリーグの試合を行うのです。これなら、きちんとしたスタンドがなく入場料収入が見込めないグラウンドでも公式戦ができます。こういったアイデアを各球団でどんどん出し合って、経営の黒字化を目指していきたいものです。

 来季はおかげさまでアイランドリーグも10年目を迎えます。ここまではリーグを軌道に乗せるべく、試行錯誤しながら全力で走ってきました。一昨年度は高知、昨年度は愛媛と単年度黒字を計上した球団も出てきています。リーグのスタッフ、各球団のフロントの皆さんの頑張りには本当に頭が下がる思いです。しかし、この先の10年も全力で走り続けられるのか……。常に100%を出し続けないと運営できないリーグでは、いずれ先細りになるでしょう。

 さらなる20年目を見据えた時、安定した体制づくりは不可欠です。各球団が赤字経営を脱却し、人材を増やして20年どころか30年、40年と継続するリーグに発展させていく。来季は次のステージに向かう足がかりの1年にしなくてはなりません。

 そのためにも10年間の集大成として、やって良かったことはとことん展開していきたいと考えています。リーグ創設時から取り組んできた地域貢献活動により力を入れることはもちろん、今年から始めたウインターリーグも引き続き行います。

 それらに加えて、これまでとは異なるかたちでの収入増も模索しています。ひとつのアイデアとして検討しているのが、試合のインターネット中継です。リーグ創設当初と比較するとネット環境や動画配信技術も、さらに良くなっています。アイランドリーグでも、これまでに「ウェブスタジアム」と題し、シーズン中の何試合かをピックアップして後日、映像を提供してきました。

 全試合を映像で観られるようになればファンサービスにもつながりますし、NPBや海外のスカウトがわざわざ四国に足を運ばなくても、有望な素材を見つけてもらえる機会が増えます。たとえば、試合開催の全球場でバックネット裏に固定カメラを設置し、得点やカウントも分かるかたちで中継するといった方法がとれないものか。配信に向けてクリアすべき点をBCリーグとも話し合っているところです。近い将来、独立リーグ全体で動画配信システムを構築し、月額などで視聴料金をいただくビジネスモデルができればと思っています。

 独立リーグは日本ではベンチャービジネスです。ファン、地元の自治体や企業の皆さんの支えもあり、苦しい時期を乗り越え、節目の10年にたどりつきました。今後もベンチャー精神を忘れることなく新たなチャレンジをしつつ、同時に10年の歴史を踏まえた安定性も打ち出していきたいものです。

 そのためには引き続き、多くの皆さんのサポートが欠かせません。リーグのことをもっと知ってもらい、もっと一緒になって盛り上げていく。支援や協力の輪を大きくしていけるよう、こちらからもいろいろな提案ができればと考えています。10年目の来季も、四国アイランドリーグPlusをよろしくお願いします。
  
鍵山誠(かぎやま・まこと)プロフィール>:株式会社IBLJ代表取締役社長
 1967年6月8日、大分県出身。徳島・池田高、九州産業大卒。インターネットカフェ「ファンキータイム」などを手がける株式会社S.R.D(徳島県三好市)代表取締役を経て、現在は生コン製造会社で経営多角化を進める株式会社セイア(徳島県三好市)代表取締役社長、株式会社AIRIS(東京都千代田区)代表取締役。10年10月にはコミックに特化した海外向けデジタルコンテンツ配信事業を行なうPANDA電子出版社を設立。アイランドリーグ関係では05年5月、徳島インディゴソックスGMに就任。同年9月からIBLJ専務取締役を経て、07年3月よりリーグを創設した石毛宏典氏の社長退任に伴って現職に。07年12月よりアイランドリーグCEOに就任。
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