伊予銀行女子ソフトボール部が4年ぶりに1部に返り咲いた。2部リーグ・ホープセクションを10勝2敗でトップ通過し、臨んだプレーオフ、相手はアドバンスセクションの1位・NECアクセステクニカ。奇しくも2年前、伊予銀行がプレーオフで敗れ、1部復帰への道を閉ざされた相手だ。そのNECに、伊予銀行は12−3で快勝し、念願の1部復帰を決めた。そこで今回は、就任3年目で目標達成へと導いた酒井秀和監督に今シーズンを振り返ってもらった。

「最後の最後まで、開幕前からやってきた走攻守のレベルアップを、ブレずにやり続けてきたことが実ったのだと思います」
 酒井監督は1部復帰への最大の要因をそう語った。

 チームの勢いは夏からあった。前節を6勝1敗で終えた伊予銀行は、7月の全日本実業団女子ソフトボール選手権大会で初優勝。後節に入って最初の3試合を2勝1敗とし、2試合を残したところで出場した国民体育大会では決勝に進出し、優勝こそならなかったものの、北京五輪金メダルの立役者、上野由岐子擁する群馬相手に0−1と善戦した。

 その5日後、伊予銀行は再びリーグ戦に戻った。1位通過するには残る2試合を連勝することが絶対条件だった。その1試合目、伊予銀行を待ち受けていたのは、トップ争いをしていたドリームワールド。今シーズン最大のヤマ場を迎えた。

 酒井監督はこの試合の最大のポイントは、先発・木村久美投手のピッチングにあると見ていた。
「木村がいかに最少失点に抑えられるかにかかっていると思っていました」
 実は国体まで主力として活躍した末次夏弥投手の調整がうまくいかず、その試合は木村投手に全てを託されていた。果たして、木村投手はドリームワールドを7回まで1失点に抑える好投を見せた。だが、初回に先取点を挙げた伊予銀行は、なかなか追加点を奪えず、1−1のまま試合はタイブレークに突入した。

 この試合の勝敗を分けたのは、ひとつのファインプレーだった。8回表、小高亜実選手のタイムリーで伊予銀行が1点リードで迎えたその裏、1死三塁の場面で、バッターが打った打球はショート後方へフラフラと上がるフライとなった。ショートとレフトの間に落ちるポテンヒットとなれば、三塁ランナーが生還し、同点となる。だが、これを新人の遊撃手・正木朝貴選手が後ろ向きでキャッチしてみせた。今シーズン継続してきた“レベルアップ”が、この大事な場面で活きたのだ。この試合を2−1で勝利した伊予銀行は最終戦のYKK戦を11−2で快勝し、1位通過を決めた。

 果たした2年前の雪辱

 迎えたプレーオフ、勝てば1部復帰が決まるという大事な一戦を前に、指揮官が選手たちにかけた言葉は特別なものではなかった。
「これまでやってきたことを、最後までしっかりとやろう」
 この言葉で、選手たちも必要以上に気負うことなく、いつも通りのプレーができたことは想像に難くない。

 もちろん、対策もしっかりと図っていた。NECの先発は、サウスポーであることが予想された。今季、伊予銀行は左ピッチャーとは対戦していない。そこで地元の松山工業高校の左ピッチャーに協力をあおぎ、打ち込んだ。まったく同じではないものの、左ピッチャー特有のボールの回転や軌道などを前もって確認したのだ。

 するとその甲斐あって、伊予銀行は初回にいきなり3点を先制した。しかし、2回に1点、3回に1点と返され、3回を終えた時点では3−2と、勝負はまったくわからなかった。それでも2回の失点は無死満塁のピンチを最少失点に抑えたものであり、木村投手のピッチングはその試合でも光っていた。

 2、3回を無得点に抑えられていた伊予銀行だったが、4回裏、無死からランナーを出し、追加点のチャンスをつくる。ところが、送りバントを試みた打球を相手の一塁手が好フィールディングで二塁へ送球し、一塁ランナーをアウトにした。伊予銀行はランナーを進めることができず、1死一塁となった。

 この嫌な流れを払拭したのが、キャプテンの相原冴子選手だった。相原選手はこの場面でホームランを放ち、伊予銀行は2点を追加。さらにこの回、2点を挙げた伊予銀行は、リードを5点に広げた。キャプテンの一発で酒井監督はようやく流れが自陣に来つつあることを感じたという。しかし、それでもまだ勝負は決まったとは思わなかった。なぜなら、NECのバッターのスイングは力強く、塁に出れば積極的な走りを見せていたからだ。
「まったく諦めていない雰囲気を感じたんです」

 ようやく流れが来ていることを確信したのは5回表だった。2回に続いて、またも無死満塁のピンチとなったが、ここもまた木村投手が1失点に抑えたのだ。結局、6回裏にも大量5点を奪った伊予銀行が、12−3で圧勝。伊予銀行の1部昇格が決まった。試合後、酒井監督は選手たちから胴上げされた。
「最高の気分でしたね。選手たちもやり切った、いい顔をしていました」

 2年目木村の成長

 1部昇格はチーム全員の努力の積み重ねだと指揮官は感じている。
「試合でミスをしたりすると、反省をして、すぐに練習に取り組むんです。そして、次の試合にその反省を活かす。こうしたことの繰り返しによって、チームは強くなったのだと思います」

 なかでも、国体後、全試合で先発を任された木村投手の存在は大きかったに違いない。
「木村は2年目の選手なのですが、走りこみのおかげで、1年目に比べてまっすぐのスピードが上がりました。それと、ピッチングに対する考え方も成長しましたね。これまではただ得意なボールを最優先にして組み立てていくだけで、ピッチングが単調になりがちだったのですが、今ではその時の状況やバッターを考えたうえで、どう攻めていくかを考えられるようになりました」

 木村投手にとって転機となったのは、前節の靜甲戦だったという。この試合で木村投手は5回から2番手としてリリーフし、4−2と伊予銀行リードで迎えた6回表に同点2ランを浴びてしまったのだ。結局、7回に勝ち越し点を挙げた靜甲が勝利した。木村はその時の自分のピッチングを悔やんだ。

「あの時、木村はトントンと2ストライクに追い込んでいて、まだボール球を3つ使える状況だったんです。相手は代打に送られたバッター、しかも新人ということを考えても、勝負を急がずにボール球を使って組み立てていくこともできたはずです。ところが、木村は勝負を急いだ結果、インコース高めのボールをホームランにされたんです。もちろん、インコース高めを投げてもいいんです。ただ、それには根拠が必要です。ところが木村はなぜ、そのボールを投げたのか理由を訊いても、答えられなかった。つまりは、よく考えずに単に“えいやっ!”とばかりに投げたということです」

 木村投手のピッチングが変わり始めたのは、それからだった。練習の時から常に「このバッターに対しては、こう攻めていこう」という意図が見られるようになったのだ。彼女の成長なくして、国体後の2連勝、さらにはプレーオフでの勝利はなかったと言っても過言ではない。

 もちろん、喜んでばかりはいられない。伊予銀行は5年前、7年ぶりに1部昇格したものの、わずか2年で2部に降格している。それだけ1部のレベルは高いということだ。
「走攻守すべてにおいて、さらなるレベルアップが必要だと思っています。そのためにも、このオフには1部のスピードやパワーに対応できる身体づくりをしっかりとしていきます」

 現在は自主練習の時期だが、既に選手たちは各自が必要だと感じている部分の強化に必死だという。
「選手たちは今後、私から何を求められるかがわかっているようですね。自主練習の様子を見ていると、そう感じるんです。浮かれることなく、もう彼女たちは完全に次のステージに向かっていますよ」

 前回は1部復帰を決めて次の監督にバトンタッチしたため、酒井監督にとっても1部での戦いは初めてとなる。それだけに、どんな戦いを見せてくれるのか。新たなチャレンジとなる来シーズン、伊予銀行女子ソフトボール部に注目したい。


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