今回、愛媛球団からお話をいただき、監督を引き受けることになりました。僕は81年に阪急入団以来、選手、指導者として、スカウト時代の3年間を除く30年間、ユニホームを着てきました。それだけに現場から離れるのは非常にさびしい思いがありました。ユニホームを着て野球に携われるならどこでもいい。そんな気持ちでしたから、愛媛から声をかけていただき、非常にうれしかったですね。
 実はアイランドリーグには初年度の05年、担当スカウトとして何度も試合を観に行きました。その後、2軍の指導者としても練習試合をする機会が多く、対戦相手としてレベルが着実に上がっていることを感じていました。

 アイランドリーグのチームはレベル的にも、置かれている状況もNPBの2軍に似ている面があると感じます。NPBの2軍も1軍の戦力となる選手を育てながら、勝つことが目標です。アイランドリーグもNPBで通用する選手を育成しつつ、チームとして優勝を目指します。

 長く2軍で指導してきて感じるのは、選手は実戦の中で伸びていくということです。最初は未熟な新人選手でも、実際に試合で使っていく中で、プロのレベルを体感し、自らの足りない部分を自覚していきます。打球の速さ、投球のスピードやキレ、フィールディング、走塁技術……。そういった課題を試合を通じて発見し、練習に取り組むことで選手は成長するのです。

 アイランドリーグでも、リーグ戦に加え、NPBとの交流戦と数多くの実戦機会が設けられています。選手たちにどんどん試合経験を積ませることで、成長を促せればと考えています。

 先日、就任会見をしたばかりで、まだ個々のメンバーや新加入の選手をじっくり見たわけではありませんから、来季の愛媛がどんなチームになるかは分かりません。ただ、守りを重視した堅実な野球をしていくことになるでしょう。野球は0点に抑えれば負けません。バッティングはどんなに良くてもヒットを打てる確率は3割ですが、守備では10割を狙えます。特に専門である内野守備には力を入れていきたいです。

 守りの野球を実践する上で、今季までオリックスで一緒にやってきたキャッチャーの横山徹也を選手として迎え入れることになりました。1軍での経験は決して多くないものの、上のレベルを知っている選手がいるのはチームにとってプラスです。ましてや扇の要であるキャッチャーですから、彼が攻守両面で若い選手たちを引っ張ってくれることを期待しています。

 阪急、オリックスで33年間過ごす中で、影響を受けた指導者はたくさんいますが、強いて名前を挙げるなら上田利治さんと、仰木彬さんでしょう。上田さんには入団時からプロとしての厳しさを学びました。練習時の厳しさのみならず、試合ではどんな状況でも勝負に徹する厳しさがありました。当時の阪急は常に優勝争いをするチームだっただけに、その中でレギュラーとして試合に出続けることの難しさも教わりました。

 一方の仰木さんからは選手の適性に合わせた人材活用術を勉強しました。とりわけ印象に残っているのは田口壮のケースです。大学から鳴り物入りのショートとしてやってきた田口でしたが、プロでは送球難に悩まされました。担当コーチとして僕も途方に暮れていた時、仰木さんは「小さい的より大きい的に投げる分には大丈夫やろう」と外野コンバートを決断したのです。

 正直、その話を聞いた時にはビックリしました。しかし、結果的に仰木さんの決断は大当たりだったのです。田口は内野で培った捕球してからの速さと肩の強さを武器に、外野手としてブレイクしました。守りの不安がなくなれば、バッティングにも集中できます。気づけばチームの主力選手に成長し、その後はメジャーリーグでも活躍しました。プロ入り当初、スローイングに四苦八苦していた時期を知る者としては、未だに信じられない思いです。

 人間、どこに適性があるか分からない。可能性があるなら、いろいろとチャレンジさせるべき――。仰木さんが田口やイチローといった若手を抜擢し、彼らが一流選手にのぼりつめる様子を間近で見られたことは、その後の選手指導においても大きな財産となっています。

 愛媛でも最初は選手の特徴をよく把握し、個々に応じて、いろいろな可能性を探っていくつもりです。我々が現役の頃は指導者が選手に上から目線で接し、短所を徹底的に直す指導が中心でしたが、時代は変わっています。こちらが少し目線を下げ、選手とコミュニケーションをとりながら、徐々に長所を伸ばし、欠点をカバーできるようにアプローチしていこうと考えています。

 独立リーグに携わるのは初めてで、知らないことだらけですが、サポート役にリーグで実績のある加藤博人コーチ、森山一人コーチがいるのは心強い限りです。愛媛は四国の4球団で唯一、年間優勝の経験がないと聞いています。来季はリーグ制覇という大きな目標を掲げつつ、1人でも2人でもNPBに行ける人材をつくれるよう、力を合わせて頑張ります。愛媛の皆さん、これからどうぞよろしくお願いします。

弓岡敬二郎(ゆみおか・けいじろう)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1958年6月28日、兵庫県出身。東洋大姫路高、新日鐵広畑を経て、81年にドラフト3位で阪急(現オリックス)に入団。1年目からショートのレギュラーとなり、全試合出場を果たすと、84年には初の打率3割を記録してリーグ優勝に貢献。ベストナインとダイヤモンドグラブ賞を獲得する。87年にもゴールデングラブ賞に輝き、91年限りで引退。その後もオリックス一筋で内野守備走塁コーチ、2軍監督、2軍チーフコーチ、スカウトなどを歴任。13年をもって33年間在籍したチームを退団し、愛媛の監督に就任した。現役時代の通算成績は1152試合、807安打、打率.257、37本塁打、273打点、132盗塁、240犠打。
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