ホームランを868本も放った福岡ソフトバンクの王貞治球団会長によれば「デッドボールも野球のうち」である。ピッチャーではなく、バッターとして数々の記録を持つ“世界の王”が言うのだから、居住まいを正して聞く必要がありそうだ。「だから(バッターに)当てたからと言ってピッチャーを悪く言う必要はない。それにバッターも“インコースを攻められるのも野球なんだ”と、もっと覚悟しなくちゃね」
 考えてみれば、バッターは今よりも昔の方がはるかに軽装だった。スネあてもなければヒジあてもなかった。耳あて付きヘルメット着用が義務付けられたのは1984年以降の入団選手からだが、83年以前に入団した選手に対しては、彼らに着用か否かの選択権が与えられた。

 王は80年に現役を引退するまで耳あて付きヘルメットを一切使用しなかった。「見た目がカッコ悪い」というのが、その理由だった。87年に連続試合出場の世界記録(当時)をつくった衣笠祥雄も、王にならった。「耳付きをかぶると視界に違和感が生じるから、逆に危ないんです」と本人は語っていた。通算で歴代3位の161個ものデッドボールを受けながら大記録を樹立できたのは、急所をかわすテクニックに長けていたからだろう。

 話を王に戻そう。開幕前は優勝候補と目されながら今季4位に終わったソフトバンク。その原因のひとつとして王は「アマチュア、とりわけ大学で天下を獲ったピッチャーの伸び悩み」をあげ、続けた。「ウチには大学球界ナンバーワンと言われたピッチャーが多い。アマの時はアウトコースだけ投げていても勝てたかもしれない。しかしプロに入ったらインコースに放らなくちゃ勝てませんよ。でも、そうした習慣がないから、いざという時に放れないんです」

 王の脳裏に浮かんだであろうピッチャーの今季の成績は、新垣渚1勝1敗、大場翔太2勝4敗、巽真悟0勝1敗、東浜巨3勝1敗。「インコースを攻め切れていない」と王の目には映る。

 大瀬良大地、九里亜蓮(広島)、杉浦稔大(東京ヤクルト)、岩貞祐太(阪神)。「大学で天下を獲った」か、それに準じる成績を残した来季のルーキー投手である。内角を突かずして、勝利もなければ成功もない――。それを肝に命じるべきだろう。

<この原稿は13年12月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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