「アイツは本当に野球が好きだよね」。今季限りでユニホームを脱いだ元中日の山崎武司が苦笑を浮かべて語っていた。
 アイツとは同級生の木田優夫のことである。45歳の今季は独立リーグ「BCリーグ」の石川ミリオンスターズでクローザーとして52試合に登板した。全72試合だから、3試合のうち2試合以上は投げた計算になる。防御率1.76という好成績でリーグ優勝、そして四国アイランドリーグplusの覇者・徳島インディゴソックスを破って「独立リーグ日本一」にも貢献した。
 NPB復帰を目指し、秋の合同トライアウトにも参加したが、残念ながらどこからも声がかからなかった。しかし本人はまだNPB復帰を諦めてはいない。「今年は腕の位置を上げて投げるようにして、最速で144キロが出るようになった。この10月には骨盤の角度を修正し、下半身と上半身の連係がうまくいくようにしたらボールが良くなってきている。自分では150キロ近いボールが投げられれば獲ってくれる球団が出てくるんじゃないかと期待しています」

 元はといえばドラフト1位で巨人に入団したエリートである。4年目には奪三振王にも輝いている。メジャーリーグでも3球団でプレーした。米国で球団を渡り歩く選手のことを「ジャーニーマン」と呼ぶが、まさしく木田がそうだ。NPBでもオリックス、東京ヤクルト、北海道日本ハムと、巨人を含め4チームのユニホームを着た。

 志なかばでユニホームを脱がなければならない選手が多いなか、それなりに恵まれた野球人生のように映る。しかし本人はまだ満ち足りてはいないようだ。「練習はしんどくても、毎日、ユニホームを着てグラウンドに行く生活が楽しいんです」

 来季からは石川の「GM兼投手」となる。今季に続いて営業職も任され、まさに“三足のわらじ”だ。おそらく球界で初の肩書ではないか、と問うと「ですね」と言って小さく笑った。

 特技であるイラストの腕をいかし、チームの新マスコットキャラクター「タン坊」のデザインも担当した。4月からは朝の番組のコメンテーターも務めている。

 山あり谷ありの野球人生だが、得意におごることも失意に沈むこともなく、ひょうひょうと生きている。ゴールのない旅。彼こそは人生における永遠のジャーニーマンなのかもしれない。

<この原稿は13年12月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから