残り2試合で、首位・横浜F・マリノスとの勝ち点は5差。横浜はひとつでも勝てば優勝だったのに対し、3位・広島は負けはもちろん、引き分けすらひとつも許されないという過酷な状況。これを引っくり返しての優勝だからミラクルと言っていいだろう。

 さる12月7日、敵地でサンフレッチェ広島は鹿島アントラーズを2対0で撃破、首位だった横浜が川崎フロンターレに0対1で敗れたため、広島の史上4クラブ目のJリーグ2連覇が決まった。

 先制点はFW石原直樹によってもたらされた。MF高萩洋次郎の右足アウトサイドのパスに抜け出し、飛び出してきたGKをかわすループシュートを決めた。

 鹿島のDF山村和也はエースの佐藤寿人をマークしていた。佐藤が斜めに動き出したことで、DFラインの裏にスペースができた。そこに飛び込んだのが石原だった。
 広島は左サイドMF以外、ほぼメンバーが固定されている。チームの熟成度はリーグ随一。それを象徴するようなゴールだった。

 第32節のセレッソ大阪戦に負けた時点では、首位を走る横浜に勝ち点5差をつけられ、連覇に黄信号が灯った。

「あそこで諦めなかったのが大きかった。キャプテンの佐藤寿人をはじめとする選手たちの精神的なたくましさを感じた」

 監督の森保一は、連覇の要因を、こう振り返った。

 言うまでもなくチームの精神的支柱は佐藤である。6季連続でキャプテンを務め、指揮官の信頼も厚い。

「佐藤は向上心が旺盛でプレーに対しても貪欲。サッカーのこと、相手のことをよく研究しています」

 身長170センチと体格的に恵まれない佐藤は、持ち前の研究熱心さでハンディキャップを補って余りあるパフォーマンスを披露し続けている。

 昨季は22ゴールで得点王。今季は17ゴールと減少したが、先述したように自らが黒衣となることでチームの勝利に貢献した。ちなみにJ2時代を含め、10年連続2ケタ得点はJリーグ史上初だ。

「自分よりうまい選手、体の大きな選手はたくさんいる。その中で結果を出し続けるためには、常に自分を客観視する必要がある。もっとサッカーを知り、チームメイトといい関係を築くことが僕の生命線。これは、この先もずっと変わらないと思います」

 肌身離さず持ち歩く「iPad mini」には、自身のゴール集が保存されている。試合前には欠かさずこれを見て頭を整理し、ゴールへの道筋を描くのだ。

 来年はワールドカップイヤーだ。6月にブラジルW杯が開幕する。最終メンバーが決定するのは5月と見られている。
 ザックジャパンに居場所を見つけることのできない佐藤だが、もちろん代表入りを諦めたわけではない。

<来シーズン、「こんなに取ったの?」っていうくらい決めれば滑り込めるかもしれない。可能性は0ではない>(スポニチ12月8日付)

 2度目のミラクルは起きるのか。

<この原稿は『サンデー毎日』2013年12月29日号に掲載されたものです>

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