「彼女がメダルを獲ることは間違いありません。問題は何色かでしょう」
そう語るのは冬季五輪に5大会連続で出場し、98年長野五輪スキージャンプ団体で金メダルに輝いた原田雅彦である。
彼女――高梨沙羅の最大の長所はどこか。
「飛び出しの角度の鋭さがとても良い。ジャンプの時には、できるだけ空気抵抗を少なくして勢いよく飛び出さなければならない。
普通の選手は中学、高校を通じてだんだん時速80キロの助走スピードに慣れていくわけですが、彼女は既に一流選手のスピードを身につけている。フォームの美しさも世界一です」
2月7日に開幕するソチ五輪。日本にとって06年トリノ大会、荒川静香(フィギュアスケート女子シングル)以来、2大会ぶりの金メダル獲得の期待がかかるのがスキージャンプ女子の高梨である。
ライバルは“もうひとりのサラ”こと、米国のサラ・ヘンドリクソン。だが、昨年8月、練習中に右ひざに大ケガを負い、今季は出遅れている。高梨が有利とみる関係者がほとんどだ。
高梨は五輪シーズンとなる今季、W杯開幕戦から3戦連続優勝を果たした。ドイツ・ヒンターツァルテンでの第2戦では2回とも最長となる101メートル、105メートルを飛んでみせた。
圧倒的な飛距離は他を寄せつけない。3年前には弱冠14歳で、大倉山シャンツェの女子バッケンレコードとなる141メートルを記録したのが記憶に新しい。
同じ北海道上川町出身の原田がみせたアーチ型のジャンプを彷彿とさせる。野球でいえば、体こそ小さいがホームランバッター。ジャンプの申し子と言っても過言ではあるまい。
再び原田の高梨評。
「まだ17歳の高校生ですが、技術的なところはすべて整っているから、身長152センチでもグングン飛距離を伸ばしていけます」
課題は着地時のテレマーク姿勢だ。今ひとつ安定感に欠け、飛型点が伸びないと言われてきた。
しかし、昨夏の練習で、この課題も克服されつつある。今季のW杯開幕戦では、20点満点の飛型点で、1本目に最高19・5点がついた。第2戦では1本目の着地でバランスを崩しながらも17・5点。テレマークに工夫の跡が見てとれる。
本人は語っていた。
「公式練習から(テレマーク姿勢を)印象付けられたので大目に見てくれたのかも……」
ジャッジも味方につけられるようになれば、もう鬼に金棒である。
17歳での金メダルとなれば、日本人では冬季五輪史上最年少となる。夏季五輪では92年バルセロナ五輪の競泳女子200メートル平泳ぎで優勝した岩崎恭子が最年少だ。
「今まで生きてきた中で、一番幸せです」
14歳の彼女の言葉は、今も多くの日本人の心に残っている。
表彰台の真ん中で高梨は、どんな言葉を口にするのか。そこにも関心が持たれそうだ。
<この原稿は『サンデー毎日』2014年1月19日号に掲載されたものです>
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