新しい年が始まり、来るシーズンに向けたチーム編成もほぼ固まってきました。香川のピッチャー陣にとって最大の補強ポイントは中日に入団した又吉克樹の抜けたスターター。そこにとっておきの右腕が入団することになりました。BCリーグ新潟のエース、寺田哲也です。
 寺田はBCリーグ、いや独立リーグでもナンバーワンクラスのピッチャーです。一昨季は14勝をあげ、MVPを獲得して独立リーグ日本一に貢献。昨季も15勝2敗、防御率1.35の好成績で最多勝、最優秀防御率の2冠に輝いています。また7月にはノーヒットノーランも達成しました。

 一昨年のグランドチャンピオンシップで新潟と対戦した際には初戦と3戦目に先発。香川打線は寺田から2試合で1点も奪えませんでした。ストレートにキレがあり、カーブ、スライダーなど変化球の精度も抜群で完成度の高さが印象に残っています。

 昨季も前年を上回る結果を残したと聞き、個人的にはドラフト指名は確実だろうと思っていました。しかし、残念ながら朗報は来ず、本人も環境を変えてラストチャンスに賭けたいと考えたようです。勝負の場として、僕たちのチームを選んでくれたのですから、何が何でも1年でNPB行きが叶えられるようアドバイスしたいと思っています。

 早速、昨年末よりチームの自主トレにも合流し、彼のピッチングを見てみると2つの課題を発見しました。ひとつは体幹の弱さです。彼のストレートは球速が140キロ台中盤で、もうひとつ物足りなさがありました。体幹がしっかりしていなくても、あれだけキレ味鋭いボールが投げられるのですから、NPB仕様のフィジカルをつくり上げれば、球速アップは間違いありません。この冬場から春にかけてしっかり鍛え、150キロを目標にしてほしいと感じています。

 球速が増せば、その分、ストレートと同じ軌道の変化球にはバッターも手が出やすくなります。そこで2つ目の課題はフォークボールの習得です。彼の球種では落ちるボールにチェンジアップがあるものの、NPBレベルでは見極められてしまいます。チェンジアップは緩急をつけてタイミングを外すボール。速球とフォークボールをセットにすることで、より空振りがとれるのではないでしょうか。

 NPBのスカウトも寺田のことは以前からチェックしています。それでもドラフト指名がなかったのですから、今までと違った姿をみせる必要があるでしょう。先発のみならず、リリーフや抑えをやってアピールするのもひとつの方法かもしれません。今年で27歳という年齢を考えれば、NPBには即戦力としてみられます。この1年間で、スカウトに1軍ですぐ通用することを示せるよう、本人と話をしながらワンランク上を目指していくつもりです。

 もちろん、他の新入団選手や引き続き香川でプレーするピッチャー陣にもNPB入りの可能性は広がっています。3年目の22歳、渡辺靖彬も今年は勝負のシーズンです。昨季は3勝7敗と負け越したものの、防御率はリーグ4位の2.49。特に後期はスライダーが良くなり、ストレートとのコンビネーションで封じるのがひとつのスタイルになってきました。

 181センチで72キロとまだ線が細く、課題は下半身強化。NPBのピッチャーは埼玉西武の岸孝之に代表されるように、細身に見えても腰から下はガッチリとしています。下半身が安定すると、制球力が向上し、ボールにキレが増すのは言うまでもありません。本人もこのオフは目の色を変えてトレーニングに励んでいます。ひとつひとつのボールの精度とキレが良くなれば、あとは経験を積むだけです。どんな状況でも安定したピッチングができる点をみせて、スカウトの注目を集めてほしいと思っています。

 新人で将来が楽しみなのは19歳の右腕・太田圭祐(倉敷工高−ショウワコーポレーション)です。彼はドラフトでは最下位指名(4位)ですが、ひょっとしたら化けるかもしれません。最初、トライアウトに来た時は正直言って、並のスリークォーター。目を引くものはありませんでした。

 しかし、あまりにもバランスの悪い投げ方をしていたため、「このフォームが合っていないのかもしれない」と感じました。そこで試しに「もうちょっと腕を下げて投げてみて」と注文をつけてみたのです。すると、途端に躍動感が出て腕の振りが良くなり、球速139キロが出ました。

 現時点では未知数の部分もありますが、まだ19歳。若さも魅力に感じ、球団に獲得をお願いしました。180センチ、77キロで筋肉のつき具合も良く、うまく伸びれば夏場の連戦では先発を任せられるピッチャーになるかもしれません。あわよくば“第2の又吉”になってほしいと期待しています。

 今季の香川は元阪神の桜井広大や、首位打者経験のある国本和俊が引退し、野手は顔ぶれが大きく変わることが予想されます。その分、有望な若手が出てくるでしょうが、どうなるかはフタを開けてみなくては分かりません。例年以上にピッチャー陣の出来がシーズンを左右することになるはずです。

 クローザーの酒井大介、セットアッパーの後藤真人田村雅樹といったメンバーが今季もいるとはいえ、現状維持ではこのリーグの意味がありません。新人や助っ人外国人次第で、今季はまた違った起用法になるでしょう。昨季までの実績は評価しつつも、春の時点では全員をフラットな状態で見て、先発、中継ぎ、抑えの役割分担を考えます。
 
 いずれにしても個々が高い目標を掲げて、進化しない限り、独立リーグ日本一奪回も、NPB入りもあり得ません。今季はアイランドリーグにとって記念すべき10年目のシーズン。このリーグがなければ僕自身、NPBのユニホームを着ることも、指導者として働くこともできなかったでしょう。西田真二監督の下、日本一と複数選手のドラフト指名を達成し、恩返しができればと思っています。1年間、精一杯頑張りますので、引き続き、皆さんの応援をよろしくお願いします。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。 
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