二宮: 2014年は内田さんにとっても、日本サッカーにとっても勝負の年になります。2014FIFAワールドカップブラジル大会(ブラジルワールドカップ)グループリーグの組み分けも決まり、サッカー日本代表はコートジボワール、ギリシャ、コロンビアと同じC組に入りました。率直な感想は?
内田: わからないです(笑)。僕もスカウティングしているわけではないですから、本当にファン・サポーターの方々と同じ目線で「対戦相手はどういうチームなんだろう」という思いです。

 相手に関係なく自分たちのサッカーを

二宮: 「これは勝てそうにない」という国はいないような気がするのですが……。
内田: 確かにそうですね。4カ国とも決勝トーナメントに進める可能性があると思います。コロンビアが少し抜けているかなとも感じますが、やってみないとわからないですね。

二宮: ギリシャはどう見ていますか?
内田: クラブレベルでギリシャのチームと対戦したことがありますが、やはりタフ。90分間激しく戦い、粘るという印象があります。代表もうまいというより、体をぶつけて激しいサッカーをやってくるのではないでしょうか。

二宮: 確かに、ギリシャはどちらかというとディフェンス重視と言えるかもしれません。では初戦で当たるコートジボワールの印象は?
内田: 世界的なストライカーもいますし、他にもいい選手が多いですよね。やはり、コートジボワールは怖い存在です。

二宮: 昨年11月のサッカー日本代表の欧州遠征ではオランダ、ベルギーと戦って1勝1分け。チーム全体が自信をつかんだように映りました。
内田: 10月の遠征の内容を受けて、みんな気持ちをより引き締めていましたね。ただ、相手と噛み合わないとリズムをつかめないのはどうかなと。相手が強くないと自分たちの質も落ちてしまうというか……。

二宮: 相手のレベルに合わせてしまっていると?
内田: そうかもしれません。相手に自分たちのリズム、テンポを合わせてしまう。それはつまり、地力がないということでもあると思うんです。相手に関係なく自分たちのサッカーができればいいのですが、どちらかというと相手に助けられてサッカーをしている感覚がある。相手のレベルに関係なく本来の戦い方ができれば、いいチームであると言えると考えています。

二宮: 内田さんは前回大会で23人の登録メンバーには入ったものの、ピッチに立つことはありませんでした。ブラジルワールドカップに向けて期するものがあるのでは?
内田: 26歳は年齢的にもいいタイミングですからね。シャルケ04でもずっと試合に出させてもらっている。またシャルケのチームメイトでブラジルワールドカップに出場する選手と戦いたいなと。たとえばギリシャのキリアコス・パパドロプス。彼と同じピッチに立てればいいなとは思いますね。

 驚くべきザックの観察力

二宮: 内田さんも多くの監督の下でプレーされてきましたが、アルベルト・ザッケローニ氏はどのような指導者ですか?
内田: すごく人を見ていると感じます。ガンガン言ってもいい選手、あまり言い過ぎないほうがいい選手という風にしっかりと見極めている。基本的には真面目に細かく、選手が理解するまで粘り強く教えてくれますけどね。

二宮: ポジショニングなど、指示が細かいという声をよく聞きます。
内田: 確かに細かいですね。僕はけっこう試合中に体力を温存するために休もうとするタイプ。後半、ベンチが右サイドの反対側になって、少し休もうとしてベンチに目をやると監督は僕に何かを言おうとしている。「よく見ているな」と思いますよ(笑)。

二宮: アハハハ。もともとホテルの経営者でしたから、選手という名の「従業員」をよく観察しているんでしょうね。
内田: その点は、さすがですよね。まあ「内田はさぼりやすい」と目をつけられているんでしょうけど(笑)。

二宮: しかし、90分をマネジメントしようとした時、多少は余力を残しておく必要があるのでは……。
内田: そうですね。臨機応変にうまくプレーするのも大事かなと思います。

 シャルケでのやり甲斐

二宮: シャルケでは4シーズン目を迎えました。今季のブンデスリーガでは現在、チーム最多の出場時間数を誇り、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも日本人最多の出場数を記録。経験値の多さは自信になっているのでは?
内田: うーん、確かに自信にはなっています。しかし、出場数などはそのうち他の日本人選手に抜かれる。僕は出場数より、勝つことにこだわっていきたいですね。

二宮: 勝ってナンボの世界でもありますからね。その中で、内田さんはシャルケサポーターから高い支持を受けている。
内田: 炭鉱労働者たちによってつくられたクラブということもあって、働き者が好きらしいです。シャルケサポーターはよく動いて、相手選手とぶつかっても倒れない強い選手を好む傾向にあるようです。

二宮: 労働者気質の選手ということですね。
内田: いくら技術の高い選手でも、少し力を抜いたプレーを見せるとブーイングが起きます。常にひたむきにプレーする選手が好きなんでしょうね。

二宮: 運動量があって、大きい選手にチャレンジも厭わない内田さんは、シャルケサポーターが好む選手像にピッタリなのでしょう。やり甲斐、あるでしょう?
内田: もちろん。サポーターは細かいプレーにも反応してくれます。たとえばディフェンス時に切り替えを早くしてボールを奪うとスタジアムの反応がすごくいい。スタジアムはピッチと観客席の距離が近いので、サポーターの熱気を体感できます。

 レベルの高い環境で感じた成長

二宮: ブンデスリーガは今、世界で一番レベルが高いと言われるリーグです。その中でフル出場に近い状態でプレーし続け、ご自身で成長を感じる部分もあるのでは?
内田: 本調子ではなくても、最低限のプレーをできるようになってきたとは感じますね。リーグ戦、カップ戦、CLと連戦の影響でコンディション的に「今日は少しきついな」という時も、ある程度のクオリティを維持できているのは、少し実力がついてきたのかなと。

二宮: ブラジルワールドカップに出場する国にも強いチームはたくさんありますが、バイエルン・ミュンヘン級の国は、そうはないのではないでしょうか。
内田: そう願います(笑)。バイエルンはチームとして完成度が高い。コンビネーションもいいですし、個々の選手が自分のやるべきことを理解しています。あと、よく走りますね。チーム全体の走行距離が120キロを超える試合もある。それを毎試合続けていくのはタフだなと思います。

二宮: 世界トップクラスは技術もタフさも兼ね備えているということですね。さて、2月にはCL決勝トーナメントも控えています。対戦相手のレアル・マドリードとの勝負は内田さんも楽しみでしょう?
内田: そうですね。スペインのチームとやるのは個人的に楽しみです。スペインのチームはすぐにロングボールを蹴らないでパスをつなぐサッカーで、選手もひとりひとりがボールを持てる。

二宮: スペインの国内リーグには技術に自信のある選手が集まってくる印象があります。
内田: 特にボールポゼッションに関してはかなり自信を持っている。対戦していて「いいサッカーをするな」という印象を受けますね。

二宮: レアル・マドリードには特に世界屈指の選手が揃っています。レベルの高い選手とのマッチアップには胸も躍るのでは?
内田: それが今はあまり気にはしていないんですよ(笑)。ピッチに立って、実際にレアル・マドリードの選手と対面して、初めて感じるものがあると思います。

二宮: CLにブラジルワールドカップ。2014年が内田さんにとって素晴らしい1年になることを期待しています。
内田: ありがとうございます。僕もそう願っています。

 すべてを器用にこなすバランサーに――pathiqe 11 pro

 冷静な口調ながら、内田からは秘めたる自信が窺えた。世界の強豪と戦う彼の、文字通り足元を支えているのがadidasが昨年11月に発表した「pathiqe 11 pro(パティーク11プロ)」だ。内田のほかに今野泰幸(サッカー日本代表)、フィリップ・ラーム(FCバイエルン・ミュンヘン)らが着用している。どの選手も攻守にバランスがとれ、技術、スピード、運動量を兼ね備えたバランサータイプだ。パティーク11プロはそういった様々な能力を駆使する選手に向けてつくられたスパイクである。
(写真:adidas)

 パティーク11プロは、これまで日本限定で展開してきた「パティークX」とグローバルモデルの「アディピュア11プロ」を融合したadidas初となる日本発進の世界基準モデルだ。開発に携わった山口智久(adidas Japan フットボールビジネスユニット カテゴリーマーケティングマネージャー)はこう語る。
「もともと日本限定だったモデルを世界共通のモデルとして生まれ変わらせたのがパティーク11プロです。バランス性とフィッティング重視というコンセプトがある中で、2010年にプロジェクトを立ち上げた段階から日本の開発チームが中心になってプロジェクトを進めてきました」

 開発期間中には、プロから育成年代の選手まで全世界で延べ1000人以上の選手にヒアリングを行った。再び山口の話。
「もともとフィッティングを重視する選手は多く、日本人は特に細部にこだわります。ただフィッティングと言っても、選手によってこだわりは様々です。つま先、足の幅、かかとのホールド具合、足の裏……その意味で、パティーク11プロは足全体360°どの部位を見渡しても選手のフィッティングニーズを満たせるような仕様を追求し、3年かけて開発しました」

 世界中の様々な選手のフィッティングに対する要望が詰まったスパイクがパティーク11プロなのだ。

 最強コンビで世界を驚かせろ!

 内田は自身が求めるスパイク像について、こう語っていた。
「サイドバックは運動量が多いですし、相手選手と1対1になる場面も多いポジションです。時には万全ではない体勢や自分のタイミングではない時に、相手に対応しなければいけません。僕はそういった場面で助けてくれるスパイクがほしいんです。無理がきくというか、どちらかというとタフなプレーに合ったスパイクですね」
 サイドバックは一瞬の反応が明暗を分けるポジションだ。ポイントが滑って反応が遅れたりしていては勝負にならない。内田はどんな場面でも最適な動きだしをサポートしてくれるスパイクを望んでいた。

 内田の要望にも応えるため、パティーク11プロには3つの新テクノロジーが導入された。まず「360°フィットラスト」は従来よりつま先の厚みを2ミリ拡大させ、より自由な指の動きを促進させる。また中足部は、上下左右からアーチを支え、丸みを帯びたヒールは、より立体的に足の形を反映させ、長時間「ブレないかかと」を実現させた。

「360°フィットアッパー」は足を入れた瞬間の「静」の状態・ピッチで動いた際の「動」の状態両面で360°フィットを実現し、止める・蹴る・走るのあらゆるパフォーマンスを支える。前足部にしなやかでやわらかいカンガルーレザー、中後足部にカンガルーレザーの風合いに加えて耐久性、耐水性を兼ね備えた人工カンガルー調レザーを採用することで、やわらかさと頑丈さという相反する要素を高いレベルで両立させた。

 最後に「360°フィットソール」。グラウンド接地面=丸型、側面=山型、根本=三角型形状のマルチスタッドが優れたクッション性を可能にし、あらゆるグラウンド(天然芝、人工芝、土)における前後左右様々な方向への動きやすさを実現した。また複数のスタッドを連結したコンフォートフレームは、接地から蹴り出しまでを効果的にサポートし、1本1本のスタッドにかかる衝撃を分散させ、足の疲労を和らげる効果も発揮する。

 内田は開発段階で試着し、開発陣に意見もしたという。その上で自身の要望が反映されたパティーク11プロには、彼も「頼りになる」と太鼓判を押した。サッカー日本代表“不動の右サイドバック”内田篤人と日本の技術を結集したパティーク11プロ――最強コンビが、世界の舞台で躍動する。

<内田篤人(うちだ・あつと)>
1988年3月27日、静岡県生まれ。清水東―鹿島―シャルケ。06年、鹿島に加入し、高卒ルーキーでクラブ初の開幕スタメンを飾る。レギュラーとして07年からリーグ3連覇を経験。08年と09年にはベストイレブンに選出された。10年7月、ブンデスリーガのシャルケに移籍。1年目から26試合に出場し、DFBポカール杯制覇に貢献した。日本代表には年代別代表からコンスタントに招集され、U−20W杯、北京五輪に出場。A代表には08年に初選出され、南アフリカW杯メンバーにも選ばれた。11年にはアジア杯優勝を経験している。身長176センチ、体重67キロ。背番号22。J1通算124試合、3得点。ブンデスリーガ通算83試合、1得点。国際Aマッチ通算65試合、1得点。

(構成・写真/鈴木友多)
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