開幕まであと1カ月。まだ外国人投手3名が来日していないため、投手陣は全員が揃っていませんが、ここまでは順調でしょう。開幕までに投げ込みと実戦経験を積めば、いい状態でスタートを切れるとみています。
 投手陣の中心となるのは、前回も紹介したBCリーグ新潟から移籍してきた寺田哲也です。実戦初登板となった2月21日の韓国・高陽ワンダース戦では、オフに体幹を鍛えた成果が出て、いいボールを投げていました。もともと体重移動はうまいピッチャーですが、軸がしっかりしたことでバランスがよくなり、よりスムーズにボールへ力を伝えられています。

 本人の今季に賭ける強い気持ちは練習姿勢にも表れています。与えられたメニューに自らプラスアルファして取り組んでいるからです。今のところ、彼に言うことは特にありません。開幕から他の独立リーグのピッチャーとはレベルが違うところを見せてほしいと思っています。

 新加入の選手では、ドラフト4位の太田圭祐も楽しみな存在です。彼はトライアウトの際、腕の位置をスリークォーターとサイドの中間に下げてもらったところ、139キロのストレートを投げ、可能性を感じました。実際に指導してみると飲みこみが良く、伸びしろがあるピッチャーです。

 西田真二監督から「イヤらしいピッチャーを」とのリクエストもあり、彼にはトルネード投法にチャレンジしてもらっています。変則フォームだとバッターも打ちにくいですし、彼は開きが早い欠点があるため、一度、後ろを向くことで壁ができると考えたからです。取り組んで間もないフォームですが、徐々に様になってきました。

 次なる課題は速い変化球を身につけること。現状は遅いスラーブのみで、ストレートと球速が変わらないカットボールやスプリットを勉強してもらっています。カットボールに関しては、まだ精度が低いものの、これから練習すればモノにできそうです。

 ここまでの実戦では緊張でコントロールを乱したり、打ち込まれたりと“洗礼”を浴びています。ただ、これも勉強です。今後も中継ぎでどんどん投げさせて、勝負どころの夏場に一皮剝けることを期待しています。

 現状、先発ローテーションは寺田と渡辺靖彬、そして新外国人の3人を軸にする構想です。そして、昨季までのクローザー酒井大介は先発か中継ぎに配置転換をします。新しい抑えは左腕の後藤真人に任せる予定です。

 後藤は一冬で素晴らしい成長を遂げました。昨季は前期、セットアッパーとしてフル回転しながら、後期は疲労で調子を崩し、肩も痛めて戦線離脱を余儀なくされました。その悔しさがあったのでしょう。オフにいいトレーニングを積んで、腰回りがグッと大きくなりました。

 土台がしっかりすれば、当然、安定感は増します。今は左右のバッター問わず、内外にきっちり投げ分けることができていますからNPBのスカウトにも進化をアピールできるはずです。

 左バッターの内にはストレート、外にはスライダー、右バッターの内にはクロスファイア、外にはツーシームとチェンジアップ……。後藤には、それぞれのコースで基本となる武器ができました。左、かつサイドスローのピッチャーはNPBでも少ないタイプ。あとはシーズンで内容が伴った結果を出してほしいものです。

 今季から選手登録と練習生の切り替えが1週間で可能になるため、バックアップメンバーとして練習生の底上げも重要になってきます。そんな中、昨季の有望株が秘密兵器として香川にいます。四国学院大時代、ドラフト候補にも挙がっていた右腕の竹田隼人です。

 彼は入団前のメディカルチェックでヒジの故障が発覚し、手術で1年間を棒に振りました。ヒジがやわらかく使える分、無理な投げ方をして負担がかかっていたようです。そこでキャッチボールからスムーズに腕を出す投げ方を習得し、徐々に状態が上がってきました。

 間もなくブルペンで投球練習もできる見込みです。故障前は150キロ近いストレートを軸にした本格派でしたが、段階を踏んで投げていけば球速は戻ってくるでしょう。開幕には間に合いませんが、夏前にはファンの皆さんにお披露目できるのではないでしょうか。

 コーチ就任以来、僕は「投手王国をつくる」ことを目標に掲げてきました。昨季のエース又吉克樹(中日)は抜けたものの、今季も力があり、かつ個性あふれる選手が育ちつつあります。これまでにない強力投手陣をつくれるよう、選手たちと一緒になって頑張ります。ぜひファンの方も開幕を心待ちにしていてもらえるとうれしいです。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
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