2月8日から14日まで今治市で実施した強化合宿は、まさかの雪に見舞われました。グラウンドで練習できたのはわずか1日。当然、実戦形式の練習はできず、ピッチャーがフリーバッティングに登板する機会もつくれませんでした。シーズンに向けたプランは、いきなり変更を余儀なくされたものの、僕はむしろ「雨降って地固まる」と前向きにとらえています。
 なぜなら、ピッチングやバッティング練習ができない分、下半身や体幹の強化といった体づくりの時間にあてられたからです。また、全体ミーティングも実施し、守備のフォーメーションをはじめとするチームの約束事をじっくり話す時間もつくれました。

 キャンプはシーズンを戦う準備をする上で、非常に大事な時間です。野球界では「1年の計はキャンプにあり」との言葉もあります。ただ、僕の経験上、計画通りにキャンプができないからといって悲観することはないと感じています。

 阪急での現役時代、キャンプ期間中に雨が続き、室内ばかりで練習したことがありました。しかし、その分、基礎体力の向上や基礎練習を繰り返し、最終的にチームは優勝したのです。キャンプも重要ですが、もっと重要なのは、そこで取り組んだことを1年間、継続してできるか。キャンプでやったことが春先の開幕ダッシュにつながり、春先の蓄えが、今度は夏場を乗り切る力になります。そして夏に頑張ったことが秋に生きてくるのです。

 独立リーグの場合はNPBと違って、1週間に行われるのは平均3試合。残りの4日間は練習ができます。その間に試合で出た反省点を改善したり、さらなるレベルアップをはかる時間がとれるのです。今回、今治で取り組んだトレーニングや、チームとしての基本的な考えをシーズンを通じて実践していければと考えています。

 まだチームは動き出したばかりですから選手個々の能力を評価する段階にはありません。ただ、全体的に守備、走塁に関してはNPBの2軍にも見劣りはしないと感じています。今後、実戦で140キロ以上のボールを投げたり、打ち返したり、といったところでは差が出てくるでしょうが、全員が一生懸命、野球に打ち込んでいる点は評価できます。

 これから練習試合やオープン戦を通じて、どの選手がどういった役割を果たすのか、見極める段階に入ります。選手の可能性をみるため、なるべくいろいろな起用法を試すつもりです。

 プロで成功する選手は、当然のことながら、練習よりも本番で力を発揮します。いくら練習で良くても試合で結果が出なければ、プロの世界では生き残れません。実戦ではそういった選手たちの目に見えない勝負強さもチェックしていきたいです。試合で予想以上のアピールをし、開幕スタメン、そしてレギュラーの座を勝ち取るような選手がひとりでも多く出てくることをこちらも楽しみにしています。

 今回、監督となり、チームのスローガンを「日々新た! 〜愛顔(えがお)創造〜」と定めました。「日々新た」というフレーズは、たまたまラジオを聞いていて、この言葉に出合い、心に残るものがあったからです。代表、コーチ陣にも提案したところ、賛同してもらいました。

 僕にとっても、選手たちにとっても、今季は新たなチャレンジの1年です。1日1日を大切に、日々新たな気持ちで、日々新たなことに取り組む。その積み重ねがチームとしても個人としても成長につながると信じています。

 選手が日々、伸びていく様子をしっかりと見守り、正しい方向に導いていくのが指導者の役割です。ファンの皆さんも、ぜひ、ひとりひとりの選手に温かい声援、励ましの言葉を送ってもらえればうれしく思います。


弓岡敬二郎(ゆみおか・けいじろう)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1958年6月28日、兵庫県出身。東洋大姫路高、新日鐵広畑を経て、81年にドラフト3位で阪急(現オリックス)に入団。1年目からショートのレギュラーとなり、全試合出場を果たすと、84年には初の打率3割を記録してリーグ優勝に貢献。ベストナインとダイヤモンドグラブ賞を獲得する。87年にもゴールデングラブ賞に輝き、91年限りで引退。その後もオリックス一筋で内野守備走塁コーチ、2軍監督、2軍チーフコーチ、スカウトなどを歴任。13年をもって33年間在籍したチームを退団し、愛媛の監督に就任した。現役時代の通算成績は1152試合、807安打、打率.257、37本塁打、273打点、132盗塁、240犠打。
◎バックナンバーはこちらから