日本を代表するゴルファーである青木功が、プレーヤー部門で「日本プロゴルフ殿堂」入りを果たした。
 式典で71歳の青木は「私に引退はありません。引退しないことを、ここで宣言しますよ」と張りのある声で語った。
「自分にとってゴルフは天職。これしかないと決めているんです。だから、現役はいつまでと決めてしまったら寂しいですよ。いつか、ゴルフができなくなる時が必ず来る。その時に悔いが残らないよう、1日1日、1年1年を大切に過ごしていくつもりです」

 71歳の青木は、この15年、ずっと体重82キロをキープしている。この体重は「心身ともに一番充実していた40歳前後と同じ」だという。
「食事はブランチと夕食の2食で、夜は炭水化物は摂りません。お酒や脂ものは好きなんだけど、肝臓に負担がかかるので、今は多少控えています。かわりに野菜をきっちり食べているけどね」

 生涯現役宣言は日頃の節制の賜物と言えよう。

 周知のように青木は1980年の全米オープンで帝王ジャック・ニクラウスと優勝争いを繰り広げるなど、世界を股にかけて戦った日本人ゴルファーのはしりである。ラウンド中に世界の名プレーヤーたちと会話を交わしているシーンは、もうそれだけで絵になった。
 いったい、どんな話をしていのか。過日、こっそり本人に訊いた。

「いやぁ、たいした話じゃないよ。“今晩、一緒に食事でもしよう。ピザがいいかい?”“いや、ピザもいいけど、チキンウィングの辛いのもいいかな”とか、その程度ですよ。
 ジャックから“なんでチキンがいいんだ?”と聞かれたので、“バーディ(鳥)を取りたいからだよ”とジョークで返したけどね。
 こうやって何気ないことでも話をしながらプレーしていると、意思の疎通がはかれて互いのことが分かってくる。たとえば向こうの選手はパットがわずかに外れると、“ムーブス・カップ”なんて言うんです。つまり、自分は真っすぐ打ったのに、カップが動いたって(笑)。もう聞いているだけでおもしろいよね」

 返す刀で、こんな話も。

「最近は海外に行ってもキャディー、マネジャー、トレーナーとチーム単位で行動するゴルファーが増えている。これじゃ現地では友人はできない。どうしても大人数になるから、他のゴルファーと気軽に“じゃあ、一緒に食事でも”ってならないでしょう。
 僕は海外には女房と2人で行きました。キャディーは現地調達だったので、向こうのゴルファーから“イサオ、食事でもしようか”と声をかけられても、すぐに応じることができた。ジャックはもちろん、ゲーリー・プレーヤーやトム・ワトソンとも食事をしましたよ。グレッグ・ノーマンの家に泊まらせてもらったこともあるんです」

 ゴルフ界きってのレジェンドには、今後も大所高所からのアドバイスをお願いしたいものだ。

(この原稿は『サンデー毎日』2014年3月16日号に掲載されたものです)


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