二宮: 川上さんは徳島商業高時代はエースで4番。夏の甲子園ではベスト8に進出しています。ピッチングはもちろん、バッティングも素晴らしかった印象があります。
川上: 高校時代、プロのスカウトからは「下位指名でバッターとして獲りたい」という話が来ていたそうです。そもそも高校2年までは野手で、ピッチャーを始めたのは他の選手がケガをしたから。正直、ピッチングよりもバッティングのほうが楽しかったんですよ。
二宮: プロでもピッチャーながら通算8本塁打。仮にバッターとして入団しても相当な成績を残したのではないでしょうか。
川上: いえいえ。ただ、未だに半分冗談で、最後はバッターに転向できないかなと思うことがありますよ(笑)。大学時代でもここぞという時にはヒットが出ていましたし、打席に立っていてプロのピッチャーでも集中すれば何とか打てそうな気がするんです。

 リベラを参考にしたカットボール

二宮: アハハハ。なおさらバッター川上が見てみたくなりました。ピッチングに話を戻すと、川上さんの代名詞といえばカットボールです。習得のきっかけは?
川上: 使い始めたのは2002年からです。前年の01年は肩のケガもあって結果を残せず、真っすぐ一本で押せるピッチャーではないと限界を感じ始めていました。ちょうどそのオフ、テレビでワールドシリーズを観たら、ダイヤモンドバックスとヤンキースの対戦で、ヤンキースの守護神マリアノ・リベラのピッチングに目が留まったんです。

二宮: リベラもカットを武器に、2001年は球団新記録の50セーブをあげました。
川上: なんで、メジャーの強打者が打てないんだろう? と不思議に思っていたら、彼の投げているボールが「カットボール」と解説されていて興味を持ちました。ちょうど秋のキャンプで新しい球種にチャレンジしようと考えてきた時期なので、見よう見まねで工夫してキャッチボールをしているうちに「これかな?」というものがつかめたんです。

二宮: リベラのどんなところを参考にしたんですか。
川上: 中継でスローVTRが流れた時の指の動きなどを見てイメージをふくらませました。実際に後でリベラの握りをみたら、全く違っていましたけどね(笑)。

二宮: カットを投げる上で大事なポイントは?
川上: カットは高速スライダーの一種ですが、曲げようと思ってはダメです。僕も最初は変化したほうがよいだろうと考えていましたが、そういうボールに限ってキャッチャーの反応は良くない。逆に真っすぐと変わらない感覚のほうが、「今のがいい。なんか知らないけど、ちょっと動いている」と評判がよかったんです。02年春のキャンプ中、チームメイトだった大西崇之さんにカットを投げたら、「ケン、今のボール、最後の一瞬だけ曲がって、なんで打ち取られたのかわからない。バッターは悔いが残るから、すごくいいよ」と褒めてもらって自信になりました。

二宮: 真っすぐと見分けがつかないくらいの小さな変化のほうがバッターには有効というわけですね。
川上: それまでは左バッターのインコースに真っすぐを投げて、よく打たれていました。特に巨人の清水隆行さんは大の苦手で、インサイドに真っすぐを投げてもスライダーを投げても、うまくさばかれて打ち取れない。そんな時にカットを覚えて、ちょっとだけインコースに食い込ませたら1球でアウトになるんです。3−1、2−0といったバッター有利のカウントでもカットを投げると、それで終わってくれるので本当に助かりました。

 バレンティンにスローボール?

二宮: 02年は1年目以来の2桁勝利(12勝)。04年、06年はともに17勝をあげて最多勝に輝き、リーグ優勝に貢献しました。
川上: 06年には奪三振王にもなったのですが、この時は左バッターのアウトコースにカットを投げて、おもしろいように三振がとれましたね。ちょっと曲げてホームベースのギリギリ外に入れる。コントロールがしっかりできている時には“これは打てないだろう”という感覚がありました。カウント球でも勝負球でも使えるので、当時は左バッターのほうが打ち取りやすかったです。対戦相手が右ピッチャーだからといって左バッターを並べてくると、ありがたかったんですよ。

二宮: 日本でもメジャーでも多くの経験をしてきました。チームの一員として優勝を目指すのは当然として、個人的に残りの野球人生で達成したい目標はありますか。
川上: これまで僕は野球を目いっぱいやってきました。プロとして仕事だから、それは当たり前の話なのですが、もうちょっと楽しんで野球をやってみたいと考えています。もともと好きで始めた野球ですから、ワクワクして投げてみたい。少年野球をやっていた時のようにマウンドに立つのが楽しいと思えるようになりたいですね。

二宮: 憧れのメジャーリーグに挑戦した際にも、そういったワクワク感があったのでは?
川上: それが意外となかったんです。アメリカは試合前もロッカールームで選手がにぎやかなのでマウンドにはリラックスして上がれたのですが、いざ、試合となると楽しむ余裕なんて生まれませんでした。

二宮: 「楽しんで野球をやってみたい」との心境に至った理由は?
川上: 昔からずっと考えていたんです。たとえば足の速い阪神の赤星(憲広)は塁に出したくないから、一生懸命抑えようとするんだけど、ファウルで粘られてなかなかアウトにならない。そんな時に、ふざけているかもしれないけどスローボールをポーンと投げたりしたら、おもしろかったかなと感じるんです。

二宮: 今だったら、シーズン本塁打記録を更新した東京ヤクルトのウラディミール・バレンティンにスローボールを投げてみるとか?
川上: そうですね。投げる球がなくて困った時に、そういうことができたら楽しいでしょうし、野球観が変わる気がします。まぁ、性格上、難しいかなとも思っているんですけど……(苦笑)。

(おわり)
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川上憲伸(かわかみ・けんしん)プロフィール
1975年6月22日、徳島県徳島市生まれ。徳島商高3年時には4番・投手で夏の甲子園ベスト8。明治大でもエースとして通算28勝をあげ、98年に中日に逆指名入団。1年目に14勝6敗の好成績で新人王に輝く。02年8月の巨人戦ではノーヒットノーランを達成。04年には17勝をあげてリーグ優勝に貢献し、MVP、沢村賞、最多勝などのタイトルを獲得する。06年にも2度目の最多勝(17勝)と最多奪三振王に。09年にFA権を行使してアトランタ・ブレーブスに移籍。12年より中日に復帰し、1勝に終わった13年オフには戦力外通告を受けるも、再契約を結ぶ。昨季までの通算成績は日米通算319試合124勝96敗2セーブ、1521奪三振。179センチ、90キロ。右投右打。背番号「11」。

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(構成:石田洋之)
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