2006年から読売ジャイアンツとオフィシャルパートナー契約を結んでいるadidas。今年は、球団創設80周年を記念し、新ユニフォームを開発した。白とオレンジを基調とするジャイアンツの伝統を重んじつつ、12球団最多となる22回の日本一達成回数を表わす星マークを左袖につけるなど、斬新なアイディアが採用された新ユニフォームは、ファンにも大好評だ。さらに、ジャイアンツとの関係はユニフォーム提供だけにとどまらない。そこで今回は「野球界の活性化」「野球を通した社会貢献」「ブランドビジネス」の共通理念の下、adidasとジャイアンツが構築してきたスポーツビジネスの新スタイルに迫る。

(写真:東京ドーム内adidasショップの前にある「原監督グータッチ人形」)
 斬新さが生み出す相乗効果

 ジャイアンツの本拠地・東京ドームでは、野球観戦の前後、ファンが楽しみにしていることがある。原辰徳監督がホームランを打った選手を迎える時などに行う“グータッチ”だ。ドーム内にあるadidasの直営店の前には、等身大で新ユニフォーム姿の「原監督グータッチ人形」が設置されている(写真)。もちろん、誰でもグータッチすることができるのだが、グータッチ人形には秘密の仕掛けがある。ジャイアンツのユニフォームを着用してグータッチをすると、“あること”が起こるのだ。それを体験したいと、ジャイアンツファンの間では、観光名所のようにもなっているという。まだ体験したことがないジャイアンツファンには、ぜひ、ユニフォームを着て、現地で“あること”を確認してみてほしい。

 また、ショップ内を見渡すと、人気選手のレプリカユニフォームやキャップはもちろん、タオル、リストバンド、グローブ、スパイクなど、adidasが開発・販売している野球用品が豊富に取りそろえられている。その中でもひときわ目を引くのが、ホームとビジター用のユニフォームに挟まれてディスプレイされたオレンジのユニフォーム。読売新聞とadidasとの共同事業として12年からスタートした「橙魂(とうこん)デー」に、選手が着用する「橙魂ユニフォーム」だ。

(写真:東京ドームがオレンジ一色に染まる「橙魂デー」)
 実は橙魂デーでは、来場者にもれなく橙魂ユニフォームが無料提供される。そのため、ジャイアンツファンは全員、橙魂ユニフォームを着用することができるのだ。東京ドーム全体が“橙魂カラー”に染まる光景は、まさに圧巻の一語に尽きる。橙魂デーでのジャイアンツの勝率8割7分5厘が、“橙魂”の力の大きさを物語っている。
(写真提供:adidas)

 この他にもadidasは、ジャイアンツと共同で東京ドーム内でのイベントやキャンペーンも実施してきた。例えば、11年には試合後の東京ドームをメッセージで埋め尽くし、星空のようにするという「all passion プラネタリウム」を開催。12年の初めてのドキュメンタリームービー「映画GIANTS」では試合後、観客がグラウンドに降り、バックスクリーンに設置された巨大スクリーンでのロードショーを楽しんだ。

 アディダスマーケティング事業本部の伊東弘幸氏は、こうしたプロモーションの狙いについて次のように語る。
「ジャイアンツとパートナーシップを結んだ大きな要因のひとつは、お互いにとって必要な存在であり得るということでした。adidasとしては、日本国内では弱かったベースボール分野におけるブランディングの向上が課題でしたし、ジャイアンツとしては若い世代でのファン層拡大に注力したいと考えていたようです。そこで、球界に新風を巻き起こすべく、これまでにはなかったプロモーションをしかけてきました」

 13年は球団初の300万人突破!

 パートナーシップを結んで9年目となる今年は、80周年記念ユニフォームを開発した。その記念として「adidasドリームシーズン」が行われている。第1弾は、「GIANTS入団会見プレゼント」。新ユニフォームの購入者、先着500名に4月29日〜5月1日の3日間、東京ドーム内に設置された入団会見イベント会場の前で、原監督グータッチ人形とのツーショット写真がプレゼントされる。さらに第2弾「GIANTS歴代名選手カードプレゼント」、第3弾「GIANTSファンドラフト会議開催」とまさにファンにとっては夢のような体験型キャンペーンが続く。

 そのほか、社会事業の一環としてジャイアンツが06年に開校した「ジャイアンツアカデミー」では、プロが着用するユニフォームにも劣らない、最新機能が投入されたウエアを子どもたちに提案している。

「06年からの8年間、ジャイアンツとさまざまなプロモーションをしてきて、多くの方々にadidasがベースボールブランドとして認知されてきたという手応えを感じています。ジャイアンツにも、adidasとパートナーシップを結んだメリットを感じてもらえていたら嬉しいですね」と伊東氏。ジャイアンツは昨年、観客動員数で12球団唯一の300万人を突破した。これは05年の実数発表後では球団初の快挙であり、adidasとのプロモーション活動が実を結んだ結果とも言えるだろう。

 adidasでは現在も、次々と新たなアイディアを提案している。
「次はどういうイベントをしようか、どんな新商品を出そうか、といろいろと検討しているところです。一番は、野球ファンの期待をいい意味で裏切りたいですね。『こんなの見たことない!』と、常識を打ち砕けるような、心震えるようなものを企画していきたいと思っています」
伊東氏の言葉からは、決して現状に満足しないadidasのチャレンジ精神が垣間見えた。

 adidasのブランド力とプロモーション力、加えてジャイアンツのブランド力を組み合わせることで生まれる相乗効果ははかり知れない。従来のような商品提供だけの関係にとどまらない新スポーツビジネスは、日本野球の発展へとつながるに違いない。

>>「adidasドリームシーズン」の詳細はこちら[/color][/b]

(写真・斎藤寿子)
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