第197回 香川・伊藤秀範「恐怖心乗り越えたクローザー篠原」

facebook icon twitter icon
 ここまで香川は9勝2敗2分の首位。チーム防御率も2.01と4球団でトップの数字を残しています。開幕直後は投打がかみ合わないこともありましたが、1カ月を経て、いいかたちになってきました。ミーティングでは「バッターの弱点をどんどん攻めていこう」と話をしており、各投手が自分の持ち場でしっかり仕事をしています。
 オープン戦期間中に渡邊靖彬酒井大介が故障で離脱。苦しい台所事情になるかと不安だったなか、その穴を埋めているのは3人の外国人です。外国人ピッチャーにありがちなアバウトさがなく、コントロールの良さが共通の長所です。

 先発のアレックス・サンダーランドは昨秋の高知でのウインターリーグで獲得した右腕。パワーピッチャーで当初は中継ぎや抑えでの起用方針でしたが、スラーブやチェンジアップなど球種も豊富で長いイニングも可能ではないかと考えました。聞けば米国でも先発をした経験があるとのことで、現時点で勝ち星こそ1勝も防御率は0.60。先発として申し分ない成績を残しています。

 もうひとりのルーカス・アーバインは、オリックスに行ったアレッサンドロ・マエストリに匹敵する素材だとみています。スピードこそ147、8キロと決して速くないものの、マエストリより角度があるところが特徴です。しかも球持ちがよく、突っ込んで前で放すため、バッターには威圧感があります。既に2勝をあげ、防御率も1.10。NPBでもピッチャーを補強したい球団があるでしょうから、マエストリのようにシーズン途中でも送り込めるようアピールさせたいと思っています。

 エイドリアン・ディマールは中継ぎで、既に9試合に登板しました。球威はありませんが、全ての球が動き、うまくバットの芯を外してゴロアウトを稼げます。海外トライアウトを通じてやってきた選手で、最初はどれだけ投げられるか未知数でしたが、予想以上の掘り出しものと言えるでしょう。

 新加入ながら先発の柱である寺田哲也は開幕からなかなか勝てず苦しみました。原因は長いイニングを投げようとするあまり、下位打線で気を抜く悪いクセがあったからです。先発である以上、ペース配分は大切ですが、下位のバッターが出塁するとピンチで上位打線を迎え、失点のリスクは高まります。しかも、クイックや牽制で走者を釘付けにしようと意識するせいか、セットポジションでの肩の開きが早く、バッターからボールが見やすくなっていました。

 そこでアドバイスしたのは2点。ひとつはバッター単位ではなく、配球でメリハリをつけるように伝えました。カウントやバッターの様子を見て、1、2球力を抜きつつ、勝負球は全力で投げる。むしろ下位打線こそ気を抜かず、きっちり抑えることが失点を増やさないコツとなります。

 もうひとつはセットでもきちんと壁をつくって投げること。以前から紹介したように、寺田はNPB入りを目指して移籍してきた選手です。結果が出ず、焦りの気持ちもあったのでしょう。この2点を修正して、ようやく2日の高知戦で初勝利をあげることができました。1勝したことで気持ちも落ち着くはずですから、これからは本領を発揮してくれると期待しています。4月はスライダーのコントロールもバラついていましたが、その点の精度が上がれば勝利は自ずと増えていくでしょう。

 ブルペン陣では開幕前の構想とは異なり、抑えに篠原慎平を起用しています。当初、クローザーで考えていた後藤真人は貴重なサウスポー。西田真二監督とも相談した結果、最終回に固定するのではなく、終盤の勝負どころで左バッターにぶつけたほうが、チームにとっても本人にとってもプラスになるとの結論になりました。

 そこで新たな抑えとして浮上したのが篠原です。彼は本来、先発で起用するプランだったものの、開幕直前の4球団による越知町杯スプリングトーナメントでも出来があまりよくありませんでした。昨季は3年ぶりに肩痛から復帰して23試合に登板。ただ、故障前、NPBのスカウトにも注目される存在だった頃と比べると、どうしても肩をかばって本来のピッチングができていなかったのです。

 これでは篠原のポテンシャルが生きないと思い、「痛くないなら、もうかばうな。肩をしっかり使って投げよう」と話をしました。本人も吹っ切れたのか、その後、実際に投げてもらうと球速が148キロを記録するようになったのです。彼には武器のフォークボールもありますし、これなら1イニング限定で思い切って腕を振ってくれたほうがいいボールが投げられるかもしれないと感じました。

 この配置転換は今のところ、大当たりしています。篠原は開幕から10試合連続で自責点0。肩を壊している間、トレーニングしてきた成果もあり、むしろボールのキレは良くなったのではないでしょうか。今後も肩の状態を見極めながら、抑えとして生まれ変わった姿を見せてほしいと願っています。

 昨季リーグ最多となる64試合に登板した田村雅樹は中継ぎのみならず、6日の愛媛戦では先発でも起用しました。今季の田村はさらなる高みを目指してフォーム改造に取り組んでいます。やや腕の位置を下げ、スリークォーターでトルネード気味にひねってから強いボールを投げるスタイルにしたのです。開幕直後は連打される場面もあり、新フォームがしっくりきていない様子でしたが、あるメジャーリーガーを参考にしてもらって状態が上がってきました。

 その選手はレッドソックスの上原浩治さんです。上原さんもややトルネード気味に投げますが、ボールを放すまではムダな力が入っていません。田村の場合は、どうしても最初から力んでしまう面があったため、いいお手本になったのではないでしょうか。脱力を意識し始めてからコントロールも良くなっています。

 現時点ではチームは好調とはいえ、シーズンはまだ始まったばかり。投手も野手も1年間、主力としてプレーした選手が少ないだけに、5月、6月と気温が上がり、連戦が続いた時の疲労は心配な部分です。それをうまく調整し、やりくりするのがコーチの仕事だと考えています。

 ゴールデンウィークの連戦に入った4月27日にはルーキーの太田圭祐を先発で初登板させました。緊張で立ち上がりは失点したものの、「とにかく低めに投げよう」という試合前の話を忠実に実行してくれた点が非常に良かったです。打線の援護もあり、5回1失点で勝利投手に。今季は焦らず土台づくりに充てるつもりですが、ローテの谷間や、点差が開いた際にはまた登板機会が巡ってくることでしょう。

 幸い、いい位置につけ、貯金もあるだけに連敗しないよう、今いるメンバー全員で頑張っていくつもりです。まだまだ本当の戦いはこれから。皆さんの応援をよろしくお願いします。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP