福岡県の飯塚市と言えば筑豊地方の中心である。明治から昭和にかけては“炭鉱のまち”として発展した。隣の田川市とともに五木寛之の名作「青春の門」の舞台としても知られる。
 その飯塚市で18日まで「飯塚国際車いすテニス大会」が開催されている。今回で30回目だ。なぜ飯塚で車いすテニスなのか。大会会長の前田恵理さんによれば、同市には総合せき損センターがあり、「最初はリハビリを目的にしたものだった」という。
 それが今では4大メジャーに次ぐ「スーパーシリーズ」の一翼を担うまでになった。今大会も男子は世界ランキング1位の国枝慎吾、同2位のステファン・ウデ(フランス)、女子も同1位のサビーネ・エラーブロック(ドイツ)、同2位の上地結衣と、ともに世界のトップ2が参戦している。

 この大会の一番の素晴らしさは、まちが一体となって運営を支えていることである。通訳は地元の英語クラブの会員、食事の世話は婦人会、会場の設営は陸上自衛隊飯塚駐屯地の隊員が行う。

 昨年のトーナメントを制した上地が、おもしろい裏話を披露してくれた。「数年前、泊まっていたホテルが停電になった。たまたまエレベーターに乗り合わせていた私はひとり取り残されてしまった。そこに現れたのが自衛隊の人たち。そのまま会場にまで運んでいただきました。あれは文字通りの“救出”でした」

 かつてはリハビリの一環としてスタートした車いすテニスだが、トッププレーヤーたちのパフォーマンスを目の当たりにすると、ただただその迫力と技術に圧倒される。少ないながら賞金も用意されている。総額5万ドル(約510万円)。シングルスの優勝者には男子3800ドル、女子2800ドルが与えられる。

「私たちは選手たちをリスペクトしている。だからボランティアの人たちも“障害者に手を差し伸べる”という意識ではやっていません。世界で6つしかない大会の運営スタッフとして誇りを持ってやっている」と前田さん。「30年で蓄積したノウハウを6年後の東京パラリンピックにぜひ役立てたい」と意気込む。

 スポーツの世界において中央と地方は主従の関係ではない。中央が地方から学ぶことは、実はたくさんあるのかもしれない。

<この原稿は14年5月14日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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