6月に開幕するブラジルでのサッカーW杯を「自分の成長を確かめる意味で楽しみ」と語る代表選手がいる。ドイツ1部リーグ(ブンデスリーガ)のハノーファー96でプレーするサイドバックの酒井宏樹だ。
 酒井といえば185センチの長身をいかした右サイドからのダイナミックな攻め上がりが持ち味。ゴールに直結する“高速クロス”は日本代表の秘密兵器でもある。


 2009年、柏レイソルユースからトップに昇格した酒井は、同年6月から10月にかけてブラジル南東部のモジミリンを本拠地とするモジミリンECでプレーした。いわゆる“サッカー留学”である。

 わずか4カ月ではあったが、酒井にとっては現在のプレースタイルを築く上で、貴重な時間となった。

 本人は語る。
「日本では左サイドバックで使われることが多かったのですが、もともとの利き足は右。そのため、本当は右サイドの方がプレーしやすかったんです。

 そう考えていた矢先に行ったブラジルでは右サイドバックでプレーさせてもらった。ブラジルは右が利き足なら右サイド、左なら左サイドが基本なんです。このコンバートが僕には大きかった」

 11年、柏はJ1昇格初年度に優勝を果たした。右サイドバックとして、シーズンを通じて活躍した酒井はベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞に輝いた。

ここから先はトントン拍子で出世の階段を昇っていく。12年7月にはハノーファーに移籍し、同年のロンドン五輪では主力として日本代表の44年ぶりのベスト4進出に貢献した。

 今季は、さらに進境著しい。ハノーファーのレギュラーに定着し、13年11月3日のヴェルダー・ブレーメン戦ではドイツ初ゴールも決めた。フランク・リベリー(バイエルン、フランス代表)、マルコ・ロイス(ドルトムント、ドイツ代表)ら世界的なアタッカーとのマッチアップにも動じるところがない。

 再び酒井。
「守備に関して、すごく考えるようになりましたね。こちらはシュート技術の高い選手が多いので、決定的なチャンスはほとんど決められてしまう。シュートレンジも広く、ゴールから離れていても、ちょっとしたスキを見逃さない。いい経験を積んでいると思います」

 代表では内田篤人(シャルケ)のバックアップに回ることが多い。内田は2月に右足大腿筋を故障して戦列から離れているが、ベストの状態に戻れば、酒井はベンチからのスタートを余儀なくされるかもしれない。

 それについて、「もちろん、代表に選ばれた以上はスタメンで出たいですよ」と本人。広い国土での移動もあり、コンディションの維持が懸念されるが、「僕はブラジルで1回もカゼを引かなかった」と胸を張る。

 監督のアルベルト・ザッケローニは「彼は代表でもトップクラスの選手」と24歳を評しているという。その期待に応えられるか。

<この原稿は『サンデー毎日』2014年6月1日号に掲載されたものです>


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