大久保嘉人、岡崎慎司、本田圭佑、香川真司、清武弘嗣、柿谷曜一朗、齋藤学、大迫勇也――。
 人事はメッセージである。サッカーのブラジルW杯を戦う日本代表メンバー23人中、8人をFWとして登録したのは、標榜する攻撃サッカーを貫くとのアルベルト・ザッケローニ監督の毅然とした意思表示だろう。


「今大会、自分たちにはやりたいサッカーがある。それを出すためには、主導権を握っていかなければいけない。リアクションサッカーに徹するのではなく、自分たちがやりたいものを出せる選手を選考した」

「選手たちを選ぶときに、自分たちのサッカーをすることができるメンバーを基準としたわけで、相手に合わせるよりも、自分たちのやりたいことを出そうというコンセプトがある」

 余談だが「リアクションサッカー」という言葉を、この国で初めて用いた代表監督は1994年アメリカW杯を目指したオランダ人のハンス・オフトである。

 W杯未出場だった日本は、中東勢のリアクションサッカーに苦しめられていた。ボールポゼッションでは上回りながらも、“ハチの一刺し”のようなカウンターの餌食にされることがままあった。リアクションサッカー対策は、日本がアジアを制する上での必須条件だった。

 しかし、W杯の舞台においては、好むと好まざるとにかかわらず、日本は受け身に回らざるを得なかった。

 4年前の南アフリカW杯もそうだった。「ベスト4」を目標に定めていた岡田ジャパンも、当初は「攻撃サッカー」を志向していた。
だが、出発前のテストマッチで韓国に0対2と一蹴されたことで方針転換を余儀なくされる。

 うるさ型の田中マルクス闘莉王が他の選手たちに向けた次のセリフが、当時のチーム状態を物語っている。「今のままじゃ絶対にダメだと思う。オレたちは下手くそなんだから、もっと泥臭くやらないと勝利は転がってこない」
その結果、日本は国外でのW杯では初めて決勝トーナメント進出を果たしたのだから、本番直前の軌道修正は正解だったということになる。

 代表チームは、ある意味、結果が全てである。どんなにいいサッカーをやっても、負けてしまっては意味がない。強いチームが勝つのではなく、勝ったチームが強いのだ。
 そうとはわかっていても、欧州、南米の列強相手に、持ち前の精密で連動性のあるサッカーで時間と空間を支配し、勝利をも手にすることができれば、どんなに誇らしいだろうか、とも思う。

 イタリア人指揮官にインタビューしたのは、今から3年前のことだ。
「私は基本的に人と同じことをするのが好きではない」
一番、印象に残っている言葉が、それだ。

 相手の弱点を突くのではなく、自らの長所を最大限に生かすサッカー。言うは易し、行うは難しだが、“ブレない指揮官”だけに、殊勲の予感が漂う。

<この原稿は『サンデー毎日』2014年6月15日号に掲載されたものです>


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