5月を終えて8勝19敗3分の最下位。4期連続で最下位に沈んだチームを、そう簡単に変えられるとは思っていませんでしたから、この成績は想定の範囲内です。しかし、19敗の中にはソフトバンク3軍で先発した大隣憲司に歯が立たなかった試合のようにやむを得ない負けと、つまらないエラーや四球が絡んで自ら勝ちを手放したものがあります。ミスによる負けを減らせば、もう少し勝ち星を伸ばせたはずです。
 同率首位の香川、徳島と大きく水を開けられている理由のひとつはバッテリーでしょう。香川や徳島のピッチャーたちは大量失点するケースが少ない一方、高知は四球絡みでビッグイニングを与えてしまいます。どのピッチャーも投げてみないと分からないのが実情で、開幕から先発、中継ぎ、抑えを固定できないままの戦いを余儀なくされています。

 チーム平均得点は3.37点ですから、先発は少なくとも5回、6回を3失点以内で投げることが求められます。ところが立ち上がりから無駄な四球でランナーを溜めたあげく、痛打されたり、押し出しで失点しまう……。これではゲームが成り立ちません。

 特に1年目の平良成航大には、ペース配分を考えず、最初から全力で飛ばしてほしいものです。結果、長いイニングを投げられなくても、試合が壊れてしまうよりマシでしょう。平良が5月26日の徳島戦で完投勝利を収めたように、登板機会が増えてくればイニング数は伸びていきます。まずは行けるところまで行き、最低限、試合をつくる。こういった経験を積み重ねるなかで、本当に先発を任せられる存在になってほしいと思っています。

 アイランドリーグのバッターは当然ながらNPBよりレベルが低く、打ち損じも多く見受けられます。連打はそう簡単に生まれません。ならばキャッチャーも早めに追い込んで、どんどん得意球で勝負を仕掛ける組み立てを考えるべきです。ところが、ヘンに変化球で探りを入れ、カウントを悪くした挙句、苦し紛れに投げたボールが真ん中に入ったり、コースを外れて歩かせる。これではバッターとの駆け引きになりません。

 もちろん、それでもコントロールが良ければ何とかなりますが、高知のピッチャーは外国人を中心に力任せのピッチングが目立ちます。いくら打力の弱いバッターでもど真ん中に投げれば、さすがに打つでしょう。せめてインコース、アウトコースの投げ分けができるといいのですが、悲しいかな、その段階に達していないのが現状です。

 ただ、吉田豊彦コーチと指導を重ねる中で、成長の兆しもみえています。ひとつ劇的に変わってきたのがクイックでのピッチング。6人いる外国人ピッチャーは総じてクイックが苦手で、走者を出しては走られ、打たれて失点する悪循環に陥っていました。しかし、今ではモーションが小さくなり、盗塁を仕掛けにくいフォームになりつつあります。あとはコントロールが向上すれば大崩れしなくなるはずです。

 野手では4番の河田直人が打率.357で首位打者に立っています。しかし、ここ数試合のバッティングを見ていると、守りに入りつつあるのが気になります。僕自身、5月まで打撃好調で打率トップだったシーズンがありましたが、打率を維持しようと考え過ぎると、逆に打撃は崩れていきます。それまでは好球必打でジャストミートできていたのに、“打たなきゃ”とヘンな欲が出てきてしまうのです。

 河田にはNPBのスカウトが訪れ、ドラフト候補として名前があがっています。指名を確実なものにし、評価を上げるには成績のみならず、内容も重要です。彼には今の数字を気にすることなく、1日1本、ヒットを打つ意識で試合に臨んでほしいと思っています。失投を確実に仕留めていけば、これは決して難しい話ではありません。そうすればシーズンを終えた時点で.330以上の打率は叩き出せていることでしょう。

 チームで2番目の打率.287を残している新人の根津和希は、結果は出ているものの、まだホンモノとは呼べません。軸足で踏ん張り、レベルスイングでボールをしっかりとらえたヒットが少ないからです。何とかヒットを打ちたいとの姿勢は評価しますが、気持ちだけで率が上がるなら、神頼みをすればいいことになってしまいます。どうすればボールを打ち損じることなく、ヒットゾーンに運べるのか、バッティングの基本をもっと理解しないと長続きしません。

 根津に限らず、ベースがきちんとできていないまま小手先だけで結果を追い求めようとしている選手がたくさんいます。彼らには1から10まで根気強く指導して基礎をつくらない限り、さらなる成長はありません。少し気を許すと1に戻ってしまうので目が離せませんが、何とか1年間で土台を築いていきたいと考えています。

 このように他球団と比較すれば、まだまだ個の力もチーム力も低く、前期の上位進出は厳しくなりました。後期に向け、残り試合を有効に使って、引き続きゲームの中で基本を繰り返し徹底するつもりです。

 よく「ミスをすれば取り返せばいい」とよく言います。しかし、2点タイムリーエラーをして、自力で取り戻すにはソロホームラン2発が必要です。それほどミスを挽回するのは難しい。この点を自覚すれば、もっとワンプレーに対する集中力は高まるのではないでしょうか。

 その自覚があれば、試合前のシートノックひとつとってもジャッグルしたり、暴投したりといった軽率さは消えていくはずです。試合前のシートノックは普段の練習と違って難しい打球は打ちません。NPBの選手には守備練習よりもファンサービスの意味合いが強いと言ってもいいでしょう。シートノックでミスして、試合できっちりしたプレーをするのは不可能です。シートノックは試合に向けて盛り上げるのを良しとする風潮がありますが、声を出すだけなら誰でもできます。元気よく野球をすることを否定はしないものの、そこには技術が伴わなければお金をいただく価値はありません。 

 基礎が固まり、1球1球、ひとつひとつのプレーが丁寧にできれば、勝てる試合を着実にモノにできるチームに変わっていくと信じています。優勝すると大きなことは言えませんが、少なくとも他と互角に戦えるはずです。いや、戦えないとおかしいでしょう。

 後期はもう少しファンの皆さんに満足していただける試合が増やせるよう、一段一段、レベルアップさせていきます。そのプロセスを見守っていただけるとうれしいです。


弘田澄男(ひろた・すみお)プロフィール>:高知ファイティングドッグス監督
 1949年5月13日、高知県出身。高知高、四国銀行を経て72年にドラフト3位でロッテに入団。163センチと小柄ながら俊足巧打の外野手として活躍し、73年にはサイクル安打をマーク。74年には日本シリーズMVPを獲得。75年にはリーグトップの148安打を放つ。84年に阪神に移籍すると、翌年のリーグ優勝、日本一に貢献した。88年限りで引退後は阪神、横浜、巨人で外野守備走塁コーチなどを歴任。06年にはWBC日本代表の外野守備走塁コーチを務め、初優勝に尽力した。12年に高知の球団アドバイザー兼総合コーチとなり、14年より監督に就任する。現役時代の通算成績は1592試合、1506安打、打率.276、76本塁打、487打点、294盗塁。ベストナイン2回、ダイヤモンドグラブ賞5回。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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