第37回 これぞ「決定力」のベストゴール(ティム・ケーヒル)
ブラジルW杯・グループリーグにおけるベストゴールのひとつと言っていいだろう。決めたのはオーストラリア代表FWのティム・ケーヒルだ。
対オランダ戦。0対1で迎えた前半21分、DFライアン・マクゴーワンからの後方からのクロスに合わせ、ケーヒルは左足を鋭く振り抜いた。
ゴールまでの距離約13メートル。ドライブのかかったシュートはクロスバーをたたき、そのままインゴールに落ちた。身長187センチのGKヤスパー・シレッセンも為す術がなかった。
お決まりのコーナーフラッグに向かってのシャドー・ボクシングも飛び出した。トレードマークの歓喜のパフォーマンスだ。
何度かこれを目の当たりにしたが、腰の入ったフォームはダテではない。サッカーではなくボクシングをやっていても、おそらく世界ランカーになっていただろう。
サッカーに話を戻せば、ボレーの技術もさることながら、称えられるは、その思いっきりの良さだ。彼のプレーには迷いが見られない。これはストライカーとして、何物にも代え難い資質である。
試合こそ2対3で敗れたが、ケーヒルは「間違いなく、僕のキャリアの中でベストゴール」と満足そうに語っていた。
ケーヒルに対しては、苦い思い出がある。8年前のドイツW杯、グループリーグの初戦でジーコ・ジャパンを粉砕したのが彼だった。
ケーヒルがマルコ・ブレシアーノに代わってピッチに入ったのは後半8分だった。この時点でスコアは日本の1対0。オーストラリアのパワープレーに苦しみながらも、日本は何とかしのいでいた。
ところが、である。後半39分、ロングスローからのボールを長身のジョシュア・ケネディに頭でつながれ、こぼれ球をケーヒルに押し込まれたのである。
それまでファインセーブを連発していたGK川口能活が前に釣り出され、空き家となったゴールを襲われた格好だった。
さらに、その5分後、またしてもクリアボールをケーヒルに拾われた。振り抜いた左足から放たれたシュートは、ゴール左ポストに当たり、逆サイドのネットを揺らした。
同点弾と逆転弾。日本はケーヒルひとりに煮え湯を飲まされた。
煮え湯と言えば、メルボルンでの南アフリカW杯アジア最終予選でも、日本はケーヒルに2点を奪われている。名うての日本キラーだ。
そのケーヒルも、もう34歳。現在はMLSのニューヨーク・レッドブルズでプレーしている。イングランド・プレミアリーグのエヴァートンでプレーしていた頃の切れはないが、まだまだフリーにすると怖い存在だ。
結局、オーストラリアはグループリーグで姿を消したが、ケーヒルは2ゴールをマークし、存分に存在感を示した。ちなみにAFCの選手としてW杯通算5ゴール(うち2ゴールはオーストラリアがOFC所属時)は、最多である。
<この原稿は『サンデー毎日』2014年7月13日号に掲載されたものです>
対オランダ戦。0対1で迎えた前半21分、DFライアン・マクゴーワンからの後方からのクロスに合わせ、ケーヒルは左足を鋭く振り抜いた。
ゴールまでの距離約13メートル。ドライブのかかったシュートはクロスバーをたたき、そのままインゴールに落ちた。身長187センチのGKヤスパー・シレッセンも為す術がなかった。
お決まりのコーナーフラッグに向かってのシャドー・ボクシングも飛び出した。トレードマークの歓喜のパフォーマンスだ。
何度かこれを目の当たりにしたが、腰の入ったフォームはダテではない。サッカーではなくボクシングをやっていても、おそらく世界ランカーになっていただろう。
サッカーに話を戻せば、ボレーの技術もさることながら、称えられるは、その思いっきりの良さだ。彼のプレーには迷いが見られない。これはストライカーとして、何物にも代え難い資質である。
試合こそ2対3で敗れたが、ケーヒルは「間違いなく、僕のキャリアの中でベストゴール」と満足そうに語っていた。
ケーヒルに対しては、苦い思い出がある。8年前のドイツW杯、グループリーグの初戦でジーコ・ジャパンを粉砕したのが彼だった。
ケーヒルがマルコ・ブレシアーノに代わってピッチに入ったのは後半8分だった。この時点でスコアは日本の1対0。オーストラリアのパワープレーに苦しみながらも、日本は何とかしのいでいた。
ところが、である。後半39分、ロングスローからのボールを長身のジョシュア・ケネディに頭でつながれ、こぼれ球をケーヒルに押し込まれたのである。
それまでファインセーブを連発していたGK川口能活が前に釣り出され、空き家となったゴールを襲われた格好だった。
さらに、その5分後、またしてもクリアボールをケーヒルに拾われた。振り抜いた左足から放たれたシュートは、ゴール左ポストに当たり、逆サイドのネットを揺らした。
同点弾と逆転弾。日本はケーヒルひとりに煮え湯を飲まされた。
煮え湯と言えば、メルボルンでの南アフリカW杯アジア最終予選でも、日本はケーヒルに2点を奪われている。名うての日本キラーだ。
そのケーヒルも、もう34歳。現在はMLSのニューヨーク・レッドブルズでプレーしている。イングランド・プレミアリーグのエヴァートンでプレーしていた頃の切れはないが、まだまだフリーにすると怖い存在だ。
結局、オーストラリアはグループリーグで姿を消したが、ケーヒルは2ゴールをマークし、存分に存在感を示した。ちなみにAFCの選手としてW杯通算5ゴール(うち2ゴールはオーストラリアがOFC所属時)は、最多である。
<この原稿は『サンデー毎日』2014年7月13日号に掲載されたものです>