立場こそチャンピオンだが、実質的にはチャレンジャーと言っていい。下馬評は圧倒的に不利だ。
 ボクシングWBC世界フライ級王者・八重樫東が4度目の防衛戦に迎える相手はWBA世界ミニマム級、同ライトフライ級元王者のローマン・ゴンサレス。9月5日、東京・代々木第二体育館で対戦することが決まった。


「ロマゴン」と呼ばれるゴンサレスは、これまで7度、日本のリングに上がっている。直近では今年4月6日、東京・大田区総合体育館で八重樫のV3戦のアンダーカードに出場し、フィリピンのファン・プリシマを3ラウンドTKOで退けた。

 通算戦績は39戦全勝(33KO)。八重樫の23戦20勝(10KO)3敗も悪くはないが、ニカラグアの“小さな怪物”と比べると見劣りする。

「もう片道燃料で勝負するしかないでしょう」
 八重樫は腹をくくっている。

「パンチをもらうのは覚悟の上。問題は僕の体が、どこまで持つか。ただ僕のパンチも多少は当たると思うので、頭をつけて終盤はグシャグシャの戦いに持ち込みたい。燃料がなくなったら、命懸けで突っ込むだけですよ」
 コメントからも分かるように、八重樫は生粋のファイターだ。打たれても打たれても前に出るボクシングを身上とする。

 経験を重ねた昨今、上から下への打ち分け、フィニッシュに至る道筋の描き方に長足の進歩がうかがえるが、“最強のチャレンジャー”相手にどこまで通用するかは未知数だ。

 大勝負を前にトレーナーの松本好二は、こう語る。
「おそらく第三者から見れば99.9%勝つのは難しいと思うでしょう。技術的にも実績的にも歯の立つような相手じゃありません。しかし真剣勝負に100%はない。八重樫には0.1%の可能性を現実にする度胸がある。

 作戦としては無闇にどつき合っても、うまくさばこうとしてもダメ。相手が考えもしないような思い切った手を打つしかないでしょう。場合によっては1ラウンドKO負けもあるかもしれない。しかし、リスクを恐れて何もしないよりはいい。まぁ言葉は悪いかもしれないけどイチかバチか。あとはアイツのハート次第ですよ」

 昨年、JBC(日本ボクシングコミッション)はこれまでのWBA、WBCに加え、IBF、WBOにも加盟した。金融緩和ならぬタイトル緩和によって、世界王座の価値は相対的に低くなった。

 チャンピオンベルトの価値を維持する上で、王者同士の統一戦や難敵との対戦は避けて通れない。その意味で最強のチャレンジャーを迎える八重樫陣営の決断は、もっと評価されていい。
「チャンピオンといっても、印象に残らない選手もいる。僕は勝っても負けてもおもしろい、と言ってもらえる選手になりたい」

 ロマゴン戦を31歳は「一世一代の勝負」と位置付けている。

<この原稿は『サンデー毎日』2014年7月27日号に掲載されたものです>


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